ウツシアイ

アキが文字通り命を削るようにして、一人で夜中にこの体を動かして掴み取った『飛行士』の心を、僕が台無しにするわけにはいかない。
「サク、次、お前の番だぞ。いくぞ」
舞台袖で、地球の薔薇の衣装を纏った駿が、僕の肩をガシッと強く叩いた。
その目が、いつものおちゃらけたトーンとは全く違い、妙に真剣で、どこか祈るような光を帯びていた。
「……おう。行ってくる」
一歩、ステージへ足を踏み出す。
視界を白く染めるほどのまばゆいスポットライト。客席は逆光で暗く沈み、個人の顔までははっきりと見えない。ただ、無数の視線が一斉に自分の体へと突き刺さるのを感じ、肌がピリピリと引き締まった。
喉がカラカラに渇いていた。けれど、ダンボール製の黄色い飛行機の前に立ち、客席に向けてセリフを口にした瞬間、不思議と声は震えなかった。
「……サハラ砂漠に、不時着してしまった」
それは僕の声でありながら、アキの心をなぞった、僕ら二人の飛行士の声だった。
劇が進み、目が光に慣れてくるにつれて、客席の輪郭が少しずつ見えてくる。
最前列。クラスのお化け屋敷の準備で手を傷だらけにしていたはずのめいさんが、両手を胸の前できゅっと握りしめ、食い入るようにステージの僕を見つめていた。その瞳は、僕が僕であることを明確に理解している、深い安心と信頼の目をしていた。
僕はひたすらに、目の前の王子様と言葉を交わし、アキが掴み取った『飛行士』の輪郭を、全力で客席に響かせ続けた。
「…おじさん、お願い。ヒツジの絵を描いて……」
王子さま役の女の子のセリフが響く。
アキが命をかけた舞台を、今、この体で生きている。
僕は胸の奥の緊張をすべて飛行士の「砂漠での困惑」へと昇華させ、1日目の舞台を全力で、完璧に演じきった。
大きな拍手の音が体育館を揺らす中、幕が降りた瞬間、僕はステージ裏で崩れ落ちるように膝をついた。
アキ、お前が残してくれたバトンは、確かに繋いだぞ。

翌日、文化祭の二日目。朝、目が覚ました。私は自分の指先を動かし、肺いっぱいに冷たい空気を吸い込んだ瞬間に、京都いう最高の幸運をこの身体が引き当てたことを理解した。
「私が、舞台に立てる……!」