ウツシアイ

「駿くんの口から、アキちゃんがいちごミルクやプリンが好きだとか、サクがバトミントンを頑張ってるとか、今の二人の日常を聞くたびにね……私、なんてバカなことしたんだろうって、毎日毎日、あの子たちの誰もいない部屋で泣いてた。アキちゃんがサクのためにチーズケーキを作るって駿くんから直接聞いた時も、私、嬉しくて…お義母さんに内緒で材料費を渡すことしかできなかった。今ではね、二人とも、愛おしくてたまらないの。でも、私にはもう、あの子達に直接会って合わせる顔がないから…」
「そんなことないです!」
俺は思わず声を張り上げた。お仏壇の親父さんの写真が、俺の背中を強く押してくれているような気がした。
「サクもアキも、おばさんの愛を待ってます。日記の裏側でおばさんの気配を探してるんです。お願いします、おばさん。二日の文化祭、内緒でいいですから。二人の飛行士を、見届けてあげてください」
夕闇が完全に居間を支配する中、お袋さんは涙を拭うこともせず、何度も、何度も強く頷いた。
「ええ。行くわ。二日間とも、ちゃんとあの子たちの姿を、この目に焼き付けに行くわね。ありがとう、駿くん。教えてくれて。私をもう一度、母親にしてくれて」
親父さんの写真の前で、お袋さんはボトボトと涙を流しながら、けれど母親の、強くて温かい顔で笑っていた。
実家を出た帰り道、秋の冷たい夜風が頬を撫ぜたが、俺の胸の奥は、これまでになく熱い決意で満たされていた。
俺は夜空を見上げ、一歩一歩、親友たちの待つ未来へと歩き出した。

『十月十七日』
それから、瞬く間に一週間が過ぎ去り、ついに文化祭の初日を迎えた。
体育館の中は、何百人もの生徒たちの放つ熱気と、窓を覆う暗幕の光を遮る、独特な重苦しい空気に満ちていた。ステージ裏の狭い暗がりで、僕は何度も自分の大きな手のひらを開いては握り、冷たくなった指先の感覚を確かめていた。心臓が、耳の奥で早鐘を打っている。
『サク、大丈夫だよ。緊張したら、私の書いたノートを思い出して、深呼吸、ね?』
目を閉じると、脳裏にアキの丸い、けれど強い意志の宿った文字が浮かび上がる。どのタイミングで声を張り、どのセリフで視線を落とすべきか。余白を埋め尽くすほどの細かい書き込みは、そのままアキの執念であり、僕への祈りだった。