ウツシアイ

現れたお袋さんは、今年の七月の親父さんの命日に、一緒にお墓参りした時よりも、少し痩せているように見えた。けれど、その目は驚きと共に、どこか優しい光を帯びている。サクによく似た、どこか寂しげで、綺麗な瞳だ。
「突然すみません、おばさん。……今ちょっとだけお話いいですか」
「ええ、もちろん。中に入って」
居間に通され、冷たい麦茶を出してもらう。部屋の隅にあるお仏壇には、あの優しかった親父さんの写真が、当時と変わらない笑顔で飾られていた。俺はそこに小さく一礼してから、座布団に深く腰を下ろした。
「駿くん、わざわざどうしたの?サクに何かあった……?」
お袋さんの声には、離れて暮らしていても隠しくれない、我が子への切実な心配が滲み出ていた。俺はお袋さんの視線から逃げるように、一度テーブルの上に目を落とす。そして、スクールバッグから、半分に折り畳まれた一枚のプリントと、俺たちのクラスの台本をそっと取り出した。
「これ……再来週、学校で文化祭があるんです。その案内と、サクのクラスがやる劇の台本です」
プリントには『文化祭のご案内』と大きく書かれている。お袋さんは不思議そうに、けれど愛おしそうにその文字をなぞった。
「サクのクラス、劇をやるんです。『星の王子さま』。それで、サクが主役の飛行士に選ばれました」
「サクが、主役を……?」
「はい。…でも、本当はサクじゃなくて、あいつが『やりたい』っていいだしたんです」
『あいつ』という言葉を口にした瞬間、お袋さんの指先がピタリと止まった。
その端正な顔立ちに、かつて中学一年生のサクの中に『もう一人女の子』を見つけた時の、あの壮絶な戸惑いと恐怖の色が、かすかに、けれど確かに浮かび上がる。
「アキです」
俺は逃げずに、お袋さんの目をまっすぐに見つめた。