ウツシアイ

十月上旬、放課後のチャイムが鳴ると同時に、夕闇が静かに校舎を包み込み始めていた。
俺はサクに「ちょっと一人で買い出し行ってくる」とだけ言い残し、いつもとは違う反対方向の電車に飛び乗った。
ガタゴトと揺れる車窓の外、見覚えのある懐かしい街並みが近づいてくる。
駅の改札を降り、歩き慣れたはずの坂道を登る。自分の足が足元が妙に重く、一歩一歩踏むたびに靴底が地面に張り付くような錯覚さえ覚えた。生唾を飲み込むたびに、喉の奥がカラカラに乾いていく。
坂の途中、あの交差点が見えた。
小学校一年生のあの日。俺が転がったボールを無邪気に追いかけて飛び出した道路。サクの親父さんが、俺の代わりにトラックの前に飛び込んで、そのまま帰らぬ人になった場所。
あの日から、俺の時間は半分止まったままだ。サクから優しい父親を奪い、その家庭をバラバラにしてしまったという事実が、歩くたびに俺の心臓を容赦なくすり潰していく。
やがてたどり着いたのは、サクとお袋さんがかつて三人で暮らしていた、今はお袋さんが一人で守っている一軒家だった。
インターホンの前に立ち、深く深く息を吸い込む。何年経っても、この家の前に立つと罪悪感で呼吸が浅くなる。冷たくなった人差し指を伸ばし、静かにボタンを押した。
ピンポーン、と間の抜けた音が静かな在宅街に響く。
数秒の静寂の後、ガチャリとチェーンが外れる音がして、ゆっくりとドアがあいた。
「……あら、駿くん?」