サクのパーカーのポケットに両手を深く突っ込む。指先に、サクの手の温もりがまだ残っているような、そんな錯覚を覚えながら、私はオレンジ色に染まる海を見つめ続けていた。
日記に何を書こう。
サクへの感謝、駿とめいさんの優しさ、江ノ島の青い海、この美しい夕日。
書きたいことが、胸の中に溢れて止まらなかった。プレッシャーで真っ黒に染まりかけていた私の心は、今、サクがくれた特別な光で優しく満たされている。
「…サク。私の大好きな、サク」
波の音に紛れ込ませて、私は小さく、彼の名前を呟いた。
次にこの身体を返すとき、私は最高の笑顔で『ただいま』を言える気がした。二人の飛行士を繋ぐノートの中に、私は今日、一生消えない宝物を書き残すのだ。
『十月七日』
鬱陶しい時計のアラームが鳴る前に、僕はパチリと目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光は、昨日アキが浴びたであろう江ノ島の太陽と同じ、少し冷たくて、だけどどこか優しい秋の光だった。
重たい身体を起こし、真っ先に勉強机に向かう。そこには、アキの丸くて丁寧な文字が、ノートの何ページにも渡ってびっしり書き連ねられていた。江ノ電から見た青い海、顔より大きいたこせんべい、シーキャンドルから見上げた高い空、外の世界で『女の子』として初めて友達と笑い合った時間。
アキが昨日、この世界で一人の人間として生きた痕跡が、眩しいほどの熱量でそこに弾けていた。
ノートの最後に、小さな文字で追記があった。
『サク、私を外の世界に連れ出してくれてありがとう。サクのパーカー、すごく温かかったよ。姿は見えなくても、私、ずっとサクが隣にいてくれたのが分かった。大好きだよ。ただいま、サク』
「っ……」
心臓が、痛いくらい激しく跳ねた。
顔が、耳の奥までじわじわと熱くなっていくのが分かった。
アキからのストレートすぎる『大好き』の言葉。それがどんな意味なのか、僕にはわからない。家族愛なのかもしれないし、僕の勘違いかもしれない。
だけど、僕のクローゼットにあったあのネイビーのパーカーを、アキがどんな風に身に纏い、どんな顔をして江ノ島の風に吹かれていたのかを想像しただけで、胸の奥が狂おしいほどに締め付けられた。
「バレてんじゃん……」
僕は小さく自嘲気味に笑った。アキをプレッシャーから救うためについた嘘のつもりだったのに、結局、アキには僕の必死な独占欲も、愛おしさも、全て見透かされていたのかもしれない。
直接会うことも、触れることもできない。最初から用意されていない未来だと割り切って、心に厳重に鍵をかけていたはずなのに。アキの『ただいま』という文字を指先でなぞるだけで、その鍵は簡単に壊れ、中からドロドロとした恋心が溢れ出してしまいそうになる。
僕はため息を吐き、ペンを握った。いつまでも照れている時間はない。文化祭の本番は、もう一週間後に迫っている。アキが僕にこの身体を最高の状態として返してくれたように、今度は僕が、アキを最高の舞台に讃えるためのバトンを繋ぐしかない。
日記に何を書こう。
サクへの感謝、駿とめいさんの優しさ、江ノ島の青い海、この美しい夕日。
書きたいことが、胸の中に溢れて止まらなかった。プレッシャーで真っ黒に染まりかけていた私の心は、今、サクがくれた特別な光で優しく満たされている。
「…サク。私の大好きな、サク」
波の音に紛れ込ませて、私は小さく、彼の名前を呟いた。
次にこの身体を返すとき、私は最高の笑顔で『ただいま』を言える気がした。二人の飛行士を繋ぐノートの中に、私は今日、一生消えない宝物を書き残すのだ。
『十月七日』
鬱陶しい時計のアラームが鳴る前に、僕はパチリと目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光は、昨日アキが浴びたであろう江ノ島の太陽と同じ、少し冷たくて、だけどどこか優しい秋の光だった。
重たい身体を起こし、真っ先に勉強机に向かう。そこには、アキの丸くて丁寧な文字が、ノートの何ページにも渡ってびっしり書き連ねられていた。江ノ電から見た青い海、顔より大きいたこせんべい、シーキャンドルから見上げた高い空、外の世界で『女の子』として初めて友達と笑い合った時間。
アキが昨日、この世界で一人の人間として生きた痕跡が、眩しいほどの熱量でそこに弾けていた。
ノートの最後に、小さな文字で追記があった。
『サク、私を外の世界に連れ出してくれてありがとう。サクのパーカー、すごく温かかったよ。姿は見えなくても、私、ずっとサクが隣にいてくれたのが分かった。大好きだよ。ただいま、サク』
「っ……」
心臓が、痛いくらい激しく跳ねた。
顔が、耳の奥までじわじわと熱くなっていくのが分かった。
アキからのストレートすぎる『大好き』の言葉。それがどんな意味なのか、僕にはわからない。家族愛なのかもしれないし、僕の勘違いかもしれない。
だけど、僕のクローゼットにあったあのネイビーのパーカーを、アキがどんな風に身に纏い、どんな顔をして江ノ島の風に吹かれていたのかを想像しただけで、胸の奥が狂おしいほどに締め付けられた。
「バレてんじゃん……」
僕は小さく自嘲気味に笑った。アキをプレッシャーから救うためについた嘘のつもりだったのに、結局、アキには僕の必死な独占欲も、愛おしさも、全て見透かされていたのかもしれない。
直接会うことも、触れることもできない。最初から用意されていない未来だと割り切って、心に厳重に鍵をかけていたはずなのに。アキの『ただいま』という文字を指先でなぞるだけで、その鍵は簡単に壊れ、中からドロドロとした恋心が溢れ出してしまいそうになる。
僕はため息を吐き、ペンを握った。いつまでも照れている時間はない。文化祭の本番は、もう一週間後に迫っている。アキが僕にこの身体を最高の状態として返してくれたように、今度は僕が、アキを最高の舞台に讃えるためのバトンを繋ぐしかない。

