ウツシアイ

エスカーを三つ乗り継ぎ、たどり着いた江ノ島の頂点には、南国のような植物が茂るサムエル・コッキング苑が広がっていた。その中央にどっしりとそびえ立つのが、大きな展望灯台、江ノ島シーキャンドルらしい。
「よし、上まで行くぞ!」
駿がチケットを買い、三人でエレベーターに乗り込む。ガラス張りの展望フロアに到着し、扉が開いた瞬間、私たちが同時に息を呑んだ。
「…凄すぎる…」
窓の外に広がっていたのは、視界を遮るもののない、三百六十度の大パノラマだった。
はるか眼下見えるのは、さっき渡ってきた弁天橋と、小さなうごめく人々の影。そして、太陽の光を浴びてキラキラと白銀に輝く、どこまでも、どこまでも青い太平洋。水平線が緩やかに弧を描いているのが、はっきりと分かった。
「アキ先輩、あっち!富士山が見えますよ!」
めいさんが私の手を引いて、窓際へと駆け寄る。秋の澄んだ空気の向こうに、うっすらと雪の被った富士山のシルエットが、雄大にそびえ立っていた。
私は夢中でスマホを取り出し、窓越しの景色を何枚も写真に収めていた。
サクがくれた優しい嘘のおかげで、私は今、こんなにも綺麗な景色を見れている。
レンズの向こうの青い世界を見つめながら、私は心の中で、深く眠っている彼に「ありがとう」と語りかけた。
この感動を、この胸の震えを、明日日記を開く彼にどうしても伝えたかった。
「アキ、めいちゃん。せっかくだから外の展望デッキに出てみようぜ」
駿に促され、階段を上って屋外のオープンデッキへと出る。
一歩外へ出た瞬間、地上とは比べ物にならないほどの、激しい潮風が私たちの身体を叩いた。
「わああっ!風すごーーい!」
めいさんの悲鳴のような笑い声が、風の音に吹き消されていく。私の髪も、サクの大きなパーカーも、バタバタと激しく羽ばたくように揺れた。
手すりに掴まりながら、私は大きく息を吸い込んだ。鼻を抜けていくのは、完全な海の匂い。私たちが暮らすあの田舎の山に囲まれた空気とは、全く違う、世界の広さを教えてくれるような匂いだった。
その時、隣にいた駿が、手すりに両肘を置いて遠い目をした。
「なぁ、アキ。……ここに来れて良かったか?」
風に負けないように、少し声を張って、駿が聞いてきた。