ウツシアイ

めいさんが髪を抑えながら、弾けたような笑顔を私に向ける。かつて図書室の片隅で、本の世界に逃げ込んでいたくらい面影なんて、今の彼女からは一ミリも感じられなかった。お互いに孤独を知っているからこそ、この青い空の下で一緒に笑い合えてる時間が、愛おしくて、愛おしくて仕方がなかった。
「うん、風すごい!でも私、すっごい楽しい!」
私はサクのカバンをもう一度ギュッと抱きしめ直し、めいさんと駿の背中を追いかけるように、光る海の真ん中へと力強く一歩を踏み出した。
青銅の鳥居をくぐり、賑やかな仲見世通りに足を踏み入れると、お祭りのような活気とお饅頭の湯気、そして、磯の香りが一気に押し寄せてきた。私たちは行列に並び、念願の『丸ごとたこせんべい』を注文した。目の前でプシューッと大きな音を立ててプレスされる光景と香ばしい匂いに、私とめいは大はしゃぎした。
「顔よりでかい!」
焼き上がった大判のせんべいを二人で持って、駿に何枚も写真を撮ってもらう。パリッと口に含むと、濃厚なタコの旨味が口いっぱいに広がった。
お腹を満たした後は、めいさんの案内で『江ノ島エスカー』へと向かった。
有料の専用エスカレーターで、暗いトンネルのような高低差をぐんぐんと上がっていく。階段を登らずに済む不思議な浮遊感に包まれていると、めいさんが私の顔を覗き込んできた。
「アキ先輩…。なんだかずっと、パーカーの袖口をぎゅってしてますね」
「えっ?…あ、ううん。なんでもないよ」
図星を指され、私は慌てて手を離した。
サクが私を外へ連れ出すために、わざわざ駿の家にまで届けてくれた私服。指先がすっぽり隠れてしまうほど大きなネイビーのパーカーの袖を眺めていると、彼が裏でどんな顔をしてこれを鞄に詰めていたのか想像してしまって、なんだか急に気恥ずかしくなった。
「本当にサクのやつ過保護だよなー」
前方のステップに立つ駿が、振り返ってニヤニヤと笑う。
「俺にアキを連れ出せって言ってきたときのあいつ、見たことないくらい必死だったんだから。自分のことに関してはあんなに冷めてるくせにさ」
「駿、もうその話はいいってば……」
恥ずかしさが限界を迎えて、私はパーカーのフードを深く被り、顔を隠した。それでも、胸の奥のトクトクという高鳴りは、どうしても止まってくれなかった。