ウツシアイ

駿の言葉に誘われて私とめいさんが同時に顔を上げると、民家の合間をすり抜けていた車両が、急に目の開けるような場所へと躍り出た。
「――わあっ……!」
めいさんが歓声をあげて、窓ガラスにピタリと顔を寄せた。
視界のすべてを埋め尽くすように広がったのは、午前中の光を浴びてきらきらと銀色に輝く、圧倒的な青い海だった。
国道沿いを走る江ノ電の窓から、どこまでも続く水平線が見える。
窓の隙間から滑り込んできた風は少し潮の匂いがして、私の頬を優しく撫でて通り過ぎていった。
胸の奥にたまっていた演劇のプレッシャーや焦りが、その青い風に溶けて、すうっと消えていくような気がした。
「すごいね、めいさん…。海、すごく綺麗」
「はい!私、こんな綺麗な海、久しぶりに見ました。アキ先輩と一緒に来られて、本当に嬉しいです!」
「江ノ島駅、次だからな。降りる準備しとけよ」
駿が座席から立ち上がり、私た血の背中を押すように笑った。
サクがくれた、優しくて特別な嘘。
江ノ島に到着するアナウンスが流れる車内で、私は手元にあるサクのカバンをもう一度ぎゅっと抱きしめ、新しく始める一日にむねを踊らされた。
江ノ島駅の改札を抜けると、十月の少しひんやりとした、けれどどこか温かい太陽の光が私たちの身体を包み込んだ。
駅舎を出てすぐに、めいさんが「あ、見てくださいアキ先輩!」と声を弾ませて、駅前の柵を指差した。そこには小さな小鳥のオブジェたちが、本物の毛糸で編み込まれた可愛いお揃いの服を着せられていた。
「可愛い……」
「ですよね!季節ごとに服が変わるらしくて、私、一度は見てみたかったんです。…はい、駿先輩、カメラマンお願いしまーす!」
めいさんは私の腕を引いて小鳥たちの横に並ぶと、迷わず自分のスマホを駿に突き出した。
「俺はカメラ係かよ」
駿は呆れたようにため息をつきながらも、すぐにスマホを受け取って慣れた様子で構える。
「ほら、アキも緊張しないで、もうちょっとめいちゃんに寄り添って。はい、チーズ」
カシャリ、と小気味のいいシャッター音が響いた。
スマホの画面を確認しためいさんが「合格です!」と嬉しそうに笑い、さっそく私に写真を見せてくれた。