ウツシアイ

「アキが表に出てくるかサクが表に出てくるのかっていつもランダムだろ?だからそれは今日、アキが目を覚ましたっていう合図。アキから電話がかかってきた瞬間『よし、アキの日だから作戦決行!』ってめいちゃんに速攻で電話して集合したわ」
「作戦、決行…?」
耳を疑うような言葉が次々に飛び出してきて、私は唖然と立ち尽くすことしかできない。そんな私に、駿は見覚えのある鞄を手渡してきた。
「え……」
それを受け取った瞬間、私の指先が、そして胸の奥が小さくはねた。
駿から渡されたのは、私たちの部屋のチェストの横に置いてある、サクの鞄だった。
妙に思いその鞄を見つめていると、駿が私の方を優しくポンと叩いた。
「サクのやつさ、アキが自分の限界を隠して、倒れそうなほど無理して劇の練習とか部活とかしてんの、ずっと心配してたんだよ。この前、俺が『最近アキ余裕なさそうだぞ』ってサクに話したらさ。あいつ口ではぶつぶつ文句言いながら、俺たちにどこかに連れ出してあげてって頭下げてきたんだよ。それと、俺が起きれないから、なんていうのは、アキに怪しまれずに朝一番で電話させて、今日はアキの日だって俺たちに証明するためのサクの優しい嘘だよ。ほら、その鞄。サクから『アキに渡してくれ』って預かってた二人の私服。昨日わざわざ俺の家に詰めて持ってきたんだよ」
「――ッ」
胸の奥が、言葉にならないほどの熱い衝撃で満たされていく。
サクは全部わかっていたんだ。
私がサクのために完璧でありたくて、策を困らせたくなくて必死についた嘘をサクは大きな優しい嘘で丸ごと包み込んで、私の逃げ道を無くしてくれた。
直接会えないサクが、私のために裏で二人に頭を下げて、いつも自分が使っている鞄に、いつも自分の服を詰め込んで、こんな大掛かりな仕掛けを作ってくれた。
手元にあるサクの鞄を、私は壊れ物を扱うようにぎゅっと抱きしめた。姿は見えないけど、この使い古された布地の感触と、中に詰まったサクの服の重みの中に、彼の圧倒的な、不器用な愛が確かに詰まっていた。
「アキ先輩!」
めいさんが私の手元を覗き込んで、弾んだ声で言った。
「学校の公欠の手続きも、駿先輩が先生にうまく話して全部済ませてありますから、何の心配もありません!今日は劇のことも学校のことも全部忘れて三人で江ノ島へ日帰り旅に行きますよ!」