ウツシアイ

「…あ、悪い。ちょっと考え事」
「どうせ、アキのことだろ。そういえば、台本、アキと共有してんの?」
駿は周囲に声が漏れないよう、ペンキを混ぜるブラシの音に紛れさせて、低い声で尋ねてきた。
「共有っていうか、元々はアキが『やりたい』って言い出したんだ。最近僕が表に出ることが多かったから最近やっと台本に目を通し終わったらしい。まぁ、仮に二日間とも僕になったとしても頑張って演じ切るつもりだよ」
僕がそういうと、駿は「へぇ」とブラシを動かす手を止めて、少し感心したように眉を上げた。
「しかし、二人一役の飛行士ねぇ。相変わらず、二人の関係は、誰にも真似できないくらい手が込んでるな」
呆れたように、でもどこか楽しそうに笑う親友の言葉に少しだけ照れ臭くなりながらも再びペンキのブラシを動かした。
「手が込んでるっていうか…そうするしかないだろ。ランダムなんだから」
「まぁ、でもさ」
駿はダンボールの飛行機を抑える手を少し緩め、僕の顔を覗き込んできた。
「クラスの奴らに勧められたからって断ることもできたのに、そこまでして同じ役をやりたがるなんて、相当サクに執着?してるよな。本当に双子っていうかさ…なんていうか、サクさ。たまに寂しくなったりしないか?」
「寂しい?」
ブラシを持つ僕の手が、ピタリと止まった。
「だって、数年近くにいる俺が思うにさ。どんなに仲良くても、交換日記を毎日してるけど、直接会うなんてことはできないし、触ることも出来ないわけじゃん?」
駿は何の悪気もなく、ただの疑問としてそう言った。駿からこんな話をされたのは初めてだった。いつもどこか僕らの関係について納得していて、どこか架け橋のような役割をしてくれているそんなやつだと思っていた。
全てを知っている親友だからこそ言える、あまりにも純粋で、残酷な正論だった。
胸の奥が、冷たい水に浸からされたようにきゅっと縮んだ。
駿は昔から僕らの関係を、ちょっと変わった『最高の相棒』か『きょうだい』みたいに思っている。まさか、ジブが自分の体の内側にいるアキに、本気で恋をしているとは微塵も思っていないだろう。いや、今はもうほとんど諦めているから『している』ではなくて『していた』が正しいか。
「……別に寂しいとかないよ。最初からそういうものだって割り切ってるし」
僕は乾いた声で笑って見せた。