そして、あの子にとって私は『幽霊』じゃなくて一人の人間になれた気がして、嬉しかった。
いつもより学校に行く足取りが軽かった。このまま空でも飛べるのではと思うほどに。
いつもなら彼として登校しているこの通学路も、いつもどこか借り物の体を動かしているような虚しさも今の私は感じてない。それもこれも全部大好きな彼と私自身にできた初めての友達のめいさんのおかげ。そんな胸いっぱいの嬉しさと、中にいる彼の愛しさを抱きしめたまま、輝いて見える校門を潜り抜けた。
『九月七日』
「おはようございます、朔夜先輩」
駅から学校に向かっている途中、後ろから鈴を転がすような声が僕の足を止めさせた。
「あ、おはよう。えっと…めいさん?」
疑問系なのはなんて呼べばいいのかいまだにわからなかったから。名前に関しては今日の日記で初めて知った。
「はい、めいです」
驚いたのは、最初から僕を『朔夜先輩』と呼んだことだった。
「よくわかったね、僕だって」
「分かりますよ。歩き方のテンポも、肩の力の入り方も、私の大好きな先輩とは違いますから。…今日は、朔夜先輩ですよね」
彼女の言う『私の大好きな先輩』が、僕の中にいる彼女のことを指していることは、世界で僕たち二人しか知らない。正確にはもう一人いるけど。彼女の言葉は、裏を返せば、それほどまでに彼女のことを一人の人間として深く愛し、見つめてくれていたという証拠だった。
彼女はギュッと鞄の紐を握りしめると、僕の目をまっすぐに見つめて、頭を下げた。
「ちゃんとお礼がしたいって思って声をかけました。改めて、全部正直に話してくれてありがとうございました」
「いや、僕の方こそ。勝手なお願いをして悪かった」
「いえ、私、嬉しかったんです。これからも、アキ先輩の一番の友達でいていいって言ってもらえて」
一度は絶望したはずなのに、前を向こうとする彼女の健気な強さが、僕の胸をチクリと指した。彼女のが恋をした相手は、肉体を持たない。その残酷な現実を受け入れた上で、彼女は『友達』としてそばにいる覚悟を決めてくれたのだ。
「隠し事をしてくれたことも、感謝してます。だから、これからもよろしくお願いしますね。朔夜先輩」
いたずらっぽく、でも少しだけ震える声でそういうと、彼女はもう一度ぺこりと一礼した。
そして、僕の返事を待たずに、今度は軽い足取りで僕を追い抜いて坂道を登っていく。
遠ざかっていく彼女の背中を見送りながら心の中で眠っている彼女に語りかける。
アキ…君の大切な友達は、君が思っている以上に、ずっと君のことをわかってくれている。そして、僕が思っている以上に、ずっと強くて優しい女の子だ。
「よし…行くか」
僕は胸いっぱいの愛おしさを抱きしめたまま、輝いて見える校門を目指して再び歩き出した。
いつもより学校に行く足取りが軽かった。このまま空でも飛べるのではと思うほどに。
いつもなら彼として登校しているこの通学路も、いつもどこか借り物の体を動かしているような虚しさも今の私は感じてない。それもこれも全部大好きな彼と私自身にできた初めての友達のめいさんのおかげ。そんな胸いっぱいの嬉しさと、中にいる彼の愛しさを抱きしめたまま、輝いて見える校門を潜り抜けた。
『九月七日』
「おはようございます、朔夜先輩」
駅から学校に向かっている途中、後ろから鈴を転がすような声が僕の足を止めさせた。
「あ、おはよう。えっと…めいさん?」
疑問系なのはなんて呼べばいいのかいまだにわからなかったから。名前に関しては今日の日記で初めて知った。
「はい、めいです」
驚いたのは、最初から僕を『朔夜先輩』と呼んだことだった。
「よくわかったね、僕だって」
「分かりますよ。歩き方のテンポも、肩の力の入り方も、私の大好きな先輩とは違いますから。…今日は、朔夜先輩ですよね」
彼女の言う『私の大好きな先輩』が、僕の中にいる彼女のことを指していることは、世界で僕たち二人しか知らない。正確にはもう一人いるけど。彼女の言葉は、裏を返せば、それほどまでに彼女のことを一人の人間として深く愛し、見つめてくれていたという証拠だった。
彼女はギュッと鞄の紐を握りしめると、僕の目をまっすぐに見つめて、頭を下げた。
「ちゃんとお礼がしたいって思って声をかけました。改めて、全部正直に話してくれてありがとうございました」
「いや、僕の方こそ。勝手なお願いをして悪かった」
「いえ、私、嬉しかったんです。これからも、アキ先輩の一番の友達でいていいって言ってもらえて」
一度は絶望したはずなのに、前を向こうとする彼女の健気な強さが、僕の胸をチクリと指した。彼女のが恋をした相手は、肉体を持たない。その残酷な現実を受け入れた上で、彼女は『友達』としてそばにいる覚悟を決めてくれたのだ。
「隠し事をしてくれたことも、感謝してます。だから、これからもよろしくお願いしますね。朔夜先輩」
いたずらっぽく、でも少しだけ震える声でそういうと、彼女はもう一度ぺこりと一礼した。
そして、僕の返事を待たずに、今度は軽い足取りで僕を追い抜いて坂道を登っていく。
遠ざかっていく彼女の背中を見送りながら心の中で眠っている彼女に語りかける。
アキ…君の大切な友達は、君が思っている以上に、ずっと君のことをわかってくれている。そして、僕が思っている以上に、ずっと強くて優しい女の子だ。
「よし…行くか」
僕は胸いっぱいの愛おしさを抱きしめたまま、輝いて見える校門を目指して再び歩き出した。

