ウツシアイ

中に入ると、見上げるほどの高さまでぎっしりと詰め込まれた背表紙の群れ。図書室の華やかな新刊コーナーとは違い、ここにあるのは枯れた革装丁の専門書とか、昔の地方新聞とかの縮刷版。そして、行き場を失った数年前の教科書たちだった。
「それで、話っていうのは…」
そっと指で一冊の背表紙に触れようとして、ハッと我に返った。ここにきた目的を見失うところだった。
「話っていうのは、単刀直入にいうと、もう、僕に関わらないでほしいんだ」
「え…なんで急に…」
さっきまで赤かった耳は正常の色に戻っていくのをみて、罪悪感が込み上げてきた。
「ごめん理由は言えない。でも、とにかくこれからは僕と関わらないでほしい。ほんと勝手でごめん」
そういうと彼女の目から涙がポロッと溢れてしまった。
「私、前にも話しましたけど、クラスで友達いないんですよ。図書委員会に入ったのもそれを誤魔化すためでした。今まで図書室に逃げて、本を盾にして周りから隠れるように過ごしてました。そんな私をあなたは肯定してくれたんです。そして私のことを友達だって言ってくれたんです」
彼女のその言葉に胸を締め付けられた。アキも同じなんだ。だから、僕が行かないであろう図書室で友達を作って、日記にも書かずにここで彼女と時間を過ごしていたんだ。
「ごめん。わかった。全部話す。だから泣かないで」
そう言ってポケットからハンカチを取り出し、彼女に渡した。すると彼女はそれをゆっくりと受け取り、「ありがとうございます」と言って涙を軽く拭った。
「信じられないかもしれないけど、ここにいる僕は今まで君が過ごしてきた『朔夜さん』じゃないんだ」
「…双子…ってことですか?」
「違くて。解離性同一性障害って言葉聞いたことあるかな」
「聞いたことあります…けど、要するに二重人格ってことですか」
「そういうことだね。僕の中にはもう一人の女の子の人格がいて、君がここで会ってたのはその子なんだ。僕は君の趣味も知らないし、君の名前すら知らない。君が救われたって言った言葉も行動も僕の言葉じゃない。中身は全く別の、女の子なんだ」
そういうと、彼女はどこか腑に落ちたみたいな表情をした。