理科室の住人

「顧問の先生に頼まれたものがあるから放課後買い出しに行こう」

そう、先輩に言われたのは金曜日の部活の日だった。

「次の月曜だけど予定は?」
「行きます!」

何を買うのか聞くと、ほとんどは文房具みたいなもので。
後はアルミホイルとか何に使うかよくわからないものがリストにずらずら並んでいる。

「理科室貸してもらっているからね。
先生にはたまに頼まれごとをされるんだ」

先生というのは理科部の顧問の先生の事だろう。

「じゃあ月曜日の授業終わったら昇降口で集合ね」

と言った。
僕は普通に返事をした。

今日は僕の方が早く終わったのか、それともせんぱいは先生からお金を預かるとかの雑用があるのか。
僕が昇降口で待つ側になった。
スマホを取り出して、せんぱいとのメッセージのやり取りを確認する。
昇降口で待ち合わせで間違いない。
それ以外にも結構せんぱいとはメッセージをやり取りしている。
なんか変な形の石とか、虹とか、近所の猫とかそんな写真のやり取りをしたりしている。


そういう、いつもの理科部ややり取りの延長線上だと思っていた。

延長線上というけれど、理科室に寄らないということはせんぱいはよれよれのカーディガンも着ていないし、眼鏡をかけていないということは忘れていた。
理科室以外のせんぱいといるのは何となく場違い感がある。

だけど、一瞬みがまえてしまったけれど「買い出し終わったら海を見て帰ろうか」と先輩が言う。

「ウニの殻があるといいなあ」

と言われ、ああいつものせんぱいだと肩の力がぬけた。

駅前まで行って、そこのモールで買えるものは買って、それから帰りに海によって学校に買ったものを置く。
今日のミッションだ。

買うものは思ってたよりもかさばる。

「結構お使いを頼まれるんですか?」

何となく聞いた一言だった。

「うん。結構ね」

とせんぱいは言った。
そこでふと気が付いてしまった。
僕もせんぱいも両手に荷物を持っている。

「去年はどうしてたんですか?」

一人で持つには結構面倒な量だ。

「一回じゃ持てない時、は二回に分けてたよ?」

せんぱいは雑談の一つとして普通に答えた。

せんぱいは多分一人でも大丈夫だし、一人でも楽しいタイプの人だ。
一人でクラゲを育てていてもそれはそれで楽しいし、僕がいなくても普通にビスマスを引き上げらえる。

だから、同情ではないんだと思う。

ただ、一瞬想像してしまったのだ。
誰もいない理科室に一人でいるせんぱいの姿を。

こうやって今は二人で買い出しに行くところを、一人で行くせんぱいの姿を。

なんか嫌だ。
としか言いようがない。

先輩が本当にたくさんの人と交流しながら理科部をやりたいならそれこそ、クラスの友達を誘っている筈だから。

それをしない理由が多分あるし。
せんぱいは多分一人でも今日これからウニの殻を見つけたら喜べる人だ。

だから、それは先輩がそうしたくてそうしてたんだろうと思うけれど、モヤモヤとした気持ちが湧き上がる。

* * *

去年は受験であまり遊ばなかったので海に来たのは久しぶりだった。
海風が気持ちいい。


砂浜の端にあるコンクリートの階段に荷物を置く。
少し先には消波ブロックが並んでいた。
せんぱいは慣れた様子で漂着物を拾っている。
海開きはまだだから人はいない。

僕は緑のビニールっぽい打ち上げられた海藻をみたり、荷物の横でのんびりと海を見たりしていた。
風は海の匂いがして気持ちがいい。

「せんぱいは海によくくるんですか?」
「クラゲがいるだろ。その関係があるから」

せんぱいはそう言う。

「海水汲みに来たりするんだよ」
「重くないんですか?」
「だから、大体いつもは自転車だよ」

それからせんぱいは「ウニの殻あったよ」と言った。
漂着したウニの殻は黒くもないし、棘も無い。
子供の頃から海に来るとたまにみるやつ。

それを、もってうれしそうにしている先輩を見て、「買い出しはこれから必ずふたりで行きましょうね」と言った。
先輩は一瞬だまってから「……うん、ありがとう」と言った。


「約束ですからね。
海楽しかったし。
買い物も……」

僕が言うと、先輩ははにかんだように笑った。

「ビーチコーミング、今度しようか」

その言葉は聞いたことがある。海で色々拾うやつだ。

「そうですね。楽しみです」

未来の約束はちょっと楽しい。

ウニは理科室で乾かすらしい。
二人でその後、学校に戻って先生に買い出したものを渡した。

「ウニの殻割れませんか?」
「大丈夫。一応理科室には理科部用の棚があるから。
いないときはそこに置いておくよ」

せんぱいは、そう言って理科部の棚を紹介していた。
やっぱりせんぱいは一人でも楽しめる人だ。だけど、そこに俺も加われればちょっといいなと思った。