理科部は好きな時に来ていいよ。
最初せんぱいはそう言っていた。
だけど、ほぼ、僕は毎回理科部に行っている。
だから、なのか、別の理由があってなのかは分からないけれどせんぱいが「今週の金曜日も来るかい?」と聞いた。
僕は予定が無かったので「はい、そのつもりです」と答えた。
「せんぱいが休みとか何かあるんですか?」
僕が聞くと「逆、ちょっと実験をやろうと思って」と先輩が言った。
何をやるのか聞いたところ「この前言ったやつだよ。ビスマス」と答えてくれた。
「虹色だって言っていた」
「そうそれ」
せんぱいはにっこりと笑った。
「あれはバーナーを使ったりするので先生に道具出してもらったり、許可をもらったりしなきゃいけないから」
先輩が言った。
これは部活だ。入部届も出した。
それなら多分顧問の先生もいるのだろう。
僕は誰なのかよく知らないけど、多分理科の先生。
その人に許可をもらってビスマスをやる日程を決めるらしい。
「金曜日でいいです。楽しみです」
僕はそういう。
なんか虹色らしい。
インターネットで調べるとなんかいかにも鉱物って感じの四角が重なった、そういう写真が少し見えた。
それで、実験というのはよくわからないけど、せんぱいに聞くと「予習とはさすが、星野君だね。偉い偉い。でも内容は当日までのお楽しみ」と言われた。
金曜日。
僕が理科室に行くと先輩は既に実験の準備を始めていた。
バーナーに鉄っぽい鍋、後、お玉。
何かのかけらっぽいものと、パチンコ玉を小さくしたみたいな何か。
石っぽいものは無い。
そもそも今日何をするのか僕はよくわかっていない。
「石は無いんですか?」
これから堀りにいくとかではない。
せんぱいからは今日は上着はパーカーじゃない方がいいと言われただけだった。
紐が危ないかもしれないからとだけ言われていたので、何かを掘るのと繋がらない。
「天然のビスマスは鉱物だけど、これからやるのは“ビスマス釣り”だよ」
せんぱいは言った。
「釣り?」
「釣りというか本当は引き上げるんだけどね」
せんぱいがそう言った。
「人工結晶を作るんだよ」と先輩は言った。
ネットで見たものとは明らかに違う形をしたかけらやパチンコ玉みたいなのをとかして結晶を作る。
なんだか、手作りチョコレートみたいだと思う。
だけど、今ある材料は虹色ではない。
チョコレートをとかして固めるのとは少し違うみたいだ。
せんぱいは一緒に引き上げはやろうと言って、金属製の鍋に金属みたいなのを入れる。
「鉱物の実験をするんだと思っていました」
「天然にできた結晶質の物質を鉱物って呼ぶことが多いから、今日作るのは人工結晶だね。
岩塩は鉱物だけど人工の塩化ナトリウムは鉱物じゃないみたいな感じ」
鉱物は宝石よりなんか、広い感じの石。というイメージだったので少し驚く。
そもそも今日の材料を見ても石は無い。
塩も石っぽくはない。
僕がそう考えている間に先輩はバーナーに火を入れる。
「ビスマスが溶けるの、二百七十度ちょっとだから。気をつけてね」
せんぱいはそう言いながら眼鏡を僕に渡す。
せんぱいもめがねの上からその透明な眼鏡をかける。
鍋の中をじっと見つめる。
となりでせんぱいも鍋の中の様子を確認している。
バーナーの音だけが密かに聞こえる。
鍋のまわりから、銀色がじわっと溶け始めるのが見えた。
ゆらゆらとそれが広がっていく。
金属がとけていくのを初めて見た。
本当に水の様になっていく。
鏡みたいに光るのに、水みたいに揺れていた。
それをずっと眺めてたい気持ちになるけどせんぱいが「そろそろかな」といってバーナーを止める。
ここからチョコレートみたいに型に入れるのだろうか。
型は見当たらない。
「少し冷ますと引き上げられるから、ちょっと待ってね」
せんぱいに言われて、もう一度鍋を見る。
冷えるとこのまま鏡みたいな大きな塊になるのでは? なんて考える。
せんぱいは大きなピンセットの様な道具を出した。鉗子というらしい。
それを銀色の水の中に入れると、せんぱいは「この辺かな」といってピンセットを持ち上げる。
虹色だった。
なんであの溶けた銀色の水の中にそんな形があるのか分からない。
「やってみる?
中に塊があるからそれをつかんで引き上げるんだよ」
せんぱいが言った。
中に何かがあるのは少し信じられなかったけれど、僕はうなずいた。
「表面のすぐ下に固まってきたところがあるから、それを探してみて」
大きなピンセットみたいなやつをもって鍋の中を探っていく。
せんぱいが言った通り中に何か塊の様な感触がした。
それをピンセットの先でつかんで引き上げる。
インターネットで見たビスマスの写真と似た形だった。
それが突然鍋の中からあらわれる。
僕はその形をじっくりとみる。
鍋の中は銀色だったのにそれはピンクやグレーに近い虹色に光る。
そして正方形をいくつもいくつも重ねた様な形をしている。
階段っぽく重なっているところもある。無理矢理増改築を繰り返したマンションみたいに生えているところもある。
一瞬でこの形になる。まずそのことに驚く。
鍋を見る。
やっぱり鍋は鏡と水を合わせたような見た目のままだ。
「もう一回やってもいいですか?」
「勿論」
せんぱいが言ってくれたので、もう一度鍋の中を探る。
引き上げると全然鍋の中の液体と違う形をしていた。
いくつか引き上げてそれから先輩も更にビスマスの結晶を引き上げる。
その間に結晶をよく見る。
冷めたら触れるらしい。
真ん中がへこんでいることに気が付く。
そのことをせんぱい話すと「だからホッパー結晶っていうんだよ。ホッパーはじょうご的な器具のことらしいよ」と言われた。
「縁から固まるからその形になるんだよ」
つかんだ時にはそういう感触は分からない。
だけど結果として内側は結構へこんでいる。
「折角なので今回は実験報告書を作ったから、先にかいててもいいよ」
先輩はそう言った。
この一つと引き上げたら実験は後始末にするらしい。
「残った液体はどうするんですか?」
「型に入れて冷やしてまた使う予定だよ」
やっぱり、チョコレートの様な感じにはなるらしい。
「僕も手伝います」
実験報告書にはスケッチの欄もちゃんとあった。
後片付けを二人でして、それから出来上がったビスマスを報告書に描く。
それから自分のノートにも描こう。
「ありがとう。片付けが終わったら実験報告をかいて、よかったら俺にもみせてね」
先輩はそう言った。
目の奥に虹色の余韻が残っている様な気がする。
その余韻の中僕とせんぱいは用具と残ったビスマスの後片付けをして、それから実験報告書を書いた。
報告書だけど提出先は特にないらしい。
誰かに見られないことで少しだけ安心して、僕は出来上がったビスマスを見ながらそれをスケッチした。
おみやげに、自分で引き上げたビスマスももらった。
相変わらず鈍く虹色に光っていてその小さな塊を大切にしようと思った。
家に帰ってどこに置くか悩んで、その最中に光の当たり方によって色の出方が変わることに気が付く。
スマホの光を当てながらそれを何度もスケッチしてから机に座った時に、一番見えやすい場所にビスマスをおいた。
完全な宝物扱いだけれど、実際宝物の様なものだからいいやと考えながらもう一度小さな塊を見た。
最初せんぱいはそう言っていた。
だけど、ほぼ、僕は毎回理科部に行っている。
だから、なのか、別の理由があってなのかは分からないけれどせんぱいが「今週の金曜日も来るかい?」と聞いた。
僕は予定が無かったので「はい、そのつもりです」と答えた。
「せんぱいが休みとか何かあるんですか?」
僕が聞くと「逆、ちょっと実験をやろうと思って」と先輩が言った。
何をやるのか聞いたところ「この前言ったやつだよ。ビスマス」と答えてくれた。
「虹色だって言っていた」
「そうそれ」
せんぱいはにっこりと笑った。
「あれはバーナーを使ったりするので先生に道具出してもらったり、許可をもらったりしなきゃいけないから」
先輩が言った。
これは部活だ。入部届も出した。
それなら多分顧問の先生もいるのだろう。
僕は誰なのかよく知らないけど、多分理科の先生。
その人に許可をもらってビスマスをやる日程を決めるらしい。
「金曜日でいいです。楽しみです」
僕はそういう。
なんか虹色らしい。
インターネットで調べるとなんかいかにも鉱物って感じの四角が重なった、そういう写真が少し見えた。
それで、実験というのはよくわからないけど、せんぱいに聞くと「予習とはさすが、星野君だね。偉い偉い。でも内容は当日までのお楽しみ」と言われた。
金曜日。
僕が理科室に行くと先輩は既に実験の準備を始めていた。
バーナーに鉄っぽい鍋、後、お玉。
何かのかけらっぽいものと、パチンコ玉を小さくしたみたいな何か。
石っぽいものは無い。
そもそも今日何をするのか僕はよくわかっていない。
「石は無いんですか?」
これから堀りにいくとかではない。
せんぱいからは今日は上着はパーカーじゃない方がいいと言われただけだった。
紐が危ないかもしれないからとだけ言われていたので、何かを掘るのと繋がらない。
「天然のビスマスは鉱物だけど、これからやるのは“ビスマス釣り”だよ」
せんぱいは言った。
「釣り?」
「釣りというか本当は引き上げるんだけどね」
せんぱいがそう言った。
「人工結晶を作るんだよ」と先輩は言った。
ネットで見たものとは明らかに違う形をしたかけらやパチンコ玉みたいなのをとかして結晶を作る。
なんだか、手作りチョコレートみたいだと思う。
だけど、今ある材料は虹色ではない。
チョコレートをとかして固めるのとは少し違うみたいだ。
せんぱいは一緒に引き上げはやろうと言って、金属製の鍋に金属みたいなのを入れる。
「鉱物の実験をするんだと思っていました」
「天然にできた結晶質の物質を鉱物って呼ぶことが多いから、今日作るのは人工結晶だね。
岩塩は鉱物だけど人工の塩化ナトリウムは鉱物じゃないみたいな感じ」
鉱物は宝石よりなんか、広い感じの石。というイメージだったので少し驚く。
そもそも今日の材料を見ても石は無い。
塩も石っぽくはない。
僕がそう考えている間に先輩はバーナーに火を入れる。
「ビスマスが溶けるの、二百七十度ちょっとだから。気をつけてね」
せんぱいはそう言いながら眼鏡を僕に渡す。
せんぱいもめがねの上からその透明な眼鏡をかける。
鍋の中をじっと見つめる。
となりでせんぱいも鍋の中の様子を確認している。
バーナーの音だけが密かに聞こえる。
鍋のまわりから、銀色がじわっと溶け始めるのが見えた。
ゆらゆらとそれが広がっていく。
金属がとけていくのを初めて見た。
本当に水の様になっていく。
鏡みたいに光るのに、水みたいに揺れていた。
それをずっと眺めてたい気持ちになるけどせんぱいが「そろそろかな」といってバーナーを止める。
ここからチョコレートみたいに型に入れるのだろうか。
型は見当たらない。
「少し冷ますと引き上げられるから、ちょっと待ってね」
せんぱいに言われて、もう一度鍋を見る。
冷えるとこのまま鏡みたいな大きな塊になるのでは? なんて考える。
せんぱいは大きなピンセットの様な道具を出した。鉗子というらしい。
それを銀色の水の中に入れると、せんぱいは「この辺かな」といってピンセットを持ち上げる。
虹色だった。
なんであの溶けた銀色の水の中にそんな形があるのか分からない。
「やってみる?
中に塊があるからそれをつかんで引き上げるんだよ」
せんぱいが言った。
中に何かがあるのは少し信じられなかったけれど、僕はうなずいた。
「表面のすぐ下に固まってきたところがあるから、それを探してみて」
大きなピンセットみたいなやつをもって鍋の中を探っていく。
せんぱいが言った通り中に何か塊の様な感触がした。
それをピンセットの先でつかんで引き上げる。
インターネットで見たビスマスの写真と似た形だった。
それが突然鍋の中からあらわれる。
僕はその形をじっくりとみる。
鍋の中は銀色だったのにそれはピンクやグレーに近い虹色に光る。
そして正方形をいくつもいくつも重ねた様な形をしている。
階段っぽく重なっているところもある。無理矢理増改築を繰り返したマンションみたいに生えているところもある。
一瞬でこの形になる。まずそのことに驚く。
鍋を見る。
やっぱり鍋は鏡と水を合わせたような見た目のままだ。
「もう一回やってもいいですか?」
「勿論」
せんぱいが言ってくれたので、もう一度鍋の中を探る。
引き上げると全然鍋の中の液体と違う形をしていた。
いくつか引き上げてそれから先輩も更にビスマスの結晶を引き上げる。
その間に結晶をよく見る。
冷めたら触れるらしい。
真ん中がへこんでいることに気が付く。
そのことをせんぱい話すと「だからホッパー結晶っていうんだよ。ホッパーはじょうご的な器具のことらしいよ」と言われた。
「縁から固まるからその形になるんだよ」
つかんだ時にはそういう感触は分からない。
だけど結果として内側は結構へこんでいる。
「折角なので今回は実験報告書を作ったから、先にかいててもいいよ」
先輩はそう言った。
この一つと引き上げたら実験は後始末にするらしい。
「残った液体はどうするんですか?」
「型に入れて冷やしてまた使う予定だよ」
やっぱり、チョコレートの様な感じにはなるらしい。
「僕も手伝います」
実験報告書にはスケッチの欄もちゃんとあった。
後片付けを二人でして、それから出来上がったビスマスを報告書に描く。
それから自分のノートにも描こう。
「ありがとう。片付けが終わったら実験報告をかいて、よかったら俺にもみせてね」
先輩はそう言った。
目の奥に虹色の余韻が残っている様な気がする。
その余韻の中僕とせんぱいは用具と残ったビスマスの後片付けをして、それから実験報告書を書いた。
報告書だけど提出先は特にないらしい。
誰かに見られないことで少しだけ安心して、僕は出来上がったビスマスを見ながらそれをスケッチした。
おみやげに、自分で引き上げたビスマスももらった。
相変わらず鈍く虹色に光っていてその小さな塊を大切にしようと思った。
家に帰ってどこに置くか悩んで、その最中に光の当たり方によって色の出方が変わることに気が付く。
スマホの光を当てながらそれを何度もスケッチしてから机に座った時に、一番見えやすい場所にビスマスをおいた。
完全な宝物扱いだけれど、実際宝物の様なものだからいいやと考えながらもう一度小さな塊を見た。



