理科室の住人

別に、いかなくてもいいってことは知っていた。
せんぱいも必ずみたいに約束する言葉は使わなかった。
だから、行かなきゃそれはそれで問題は無かったのだろう。
だけど、二日後なんとなく放課後の理科室に顔を出してしまった。

せんぱいは今日は机に何かプリントみたいなものを並べて作業をしていた。
前にやった実験の結果をまとめているらしい。
纏めたり、整理したりするのは楽しい。

理科部は、毎回実験とか観察会とかをするのだと思っていたけどそうでもないらしい。

そんな話を聞きながら、結局なんかせんぱいと二人でダラダラと喋ってる。
結構楽しい。

「それで君の名前は?」
「そういえば、俺も名乗ってなかったね。雨宮。二年」

先輩に聞かれる。
名乗ってなかったことにそれで気が付いた。

「星野 晶(あきら)です」
「星野くんだね。ちなみにあきらってどう書くの?」

何となく、この人は名前にこだわるタイプだと思わなかった。

「日が三つの晶です」

でも別に同じ学校なんだしどうでもいい事だと思った。

「水晶の晶か。
星も生き物も、名前がないと区別しにくいだろ」
「なんですかそれ」

言い方がちょっと変で面白かった。
だけど、せんぱいは違う風にとらえたみたいだった。

「悪い、感じ悪い言い方した」
「いえ、多分、理科ですよね」

別に感じ悪いとは思わなかった。
多分引かれたってなったんだと思う。

「そう。名前は識別って一瞬考えちゃってさ。
星も発見された順に、A、B、Cとつけていくんだ」
「へえ」

星で知っているのは、シリウスとかベガとかそういうのの名前だけだ。
星座の形は好きで多分家にメモはあるけど。

せんぱいの話は面白い。
なんだろう。無理に誰かに合わせなくていい心地よさがある。

「こういうの、嫌じゃない?」

せんぱいが言った。

「全然。面白いです」
「じゃあ、なんか集めるのとかは?」

さぐりさぐり、という感じがした。
変だとは思わない。
癖みたいなものは誰でもある。
僕の場合は多分、小さなスケッチ。
でも絵を描いてるんですよとはあまり言わない。

何となく分かる。

思い出したのがまだ小学校の時の話。


「あー、僕、校庭にいるときガラスみたいなやつ地面で集めてましたよ」
「ああ、多分砂利の中にあったなら石英かもしれないね」
「アレ、割れたガラスじゃないんですか?」
「そういう可能性はあるけど大体は石英だよ。
二酸化ケイ素、SiO2だから組成的にはガラスと似ていて当然だけど」

永年の疑問がとけた。
ダイヤと呼んでいた謎の物体は石英というらしい。
名前は聞いたことがある。

「君の名前と同じ結晶だよ」

そう言われて驚いた。

「ちなみに俺も小学生の時、あれを集めるのライフワークにしてた」

せんぱいもそんな時期があったのかと少し嬉しい。
なんていうか仲間意識というか。

そう言うと、せんぱいも楽しそうに笑っていた。

それから、地面探索が先生に見つかって怒られた話とかいろいろな話をしてその日は帰った。

実験も、観察も無かった。
レポートも書かなかった。

そんな理科もあるのだと思った。

先輩は今日何かを少し気にしていた。
理科部に勧誘したいという気持ちがあったからか考えてやめた。
僕だってスケッチのことをいきなり全部話したりしない。
せんぱいにもそういうものがあるんだろう。