夏休みには何度か一緒に出掛けたし、せんぱいの家にも行った。
せんぱいが僕の家に来たのは初めてで滅茶苦茶なぜか緊張した。
家に友達が来たことはあるけどそこまでじゃなかったので、多分恋人ってそういうものなのかもしれない。
その時に宿題も一緒にやった。
高校の宿題が思ったより多くてまずかったのだ。
当たり前の様にせんぱいの宿題はほぼ終わっていて、終始僕の宿題の手伝いばかりしてくれた。
僕は自分の宿題の心配もあったけれど、せんぱいに飲み物を出すこと一つで何を出したらいいのかとか、うちのコップはダサいのではないのかとかよくわからないことが気になってしまった。
せんぱいは、僕の宿題のわからないところを教えてくれている間に、僕のスケッチを見ていた。
家には過去のものを含めていくつか取ってあるのでそれを楽しそうに見ている。
「葉っぱの葉脈のここがいいね」と指さしながら、先輩は光合成について説明してくれた。
僕の部屋の片づけの足りなさとかにせんぱいが気分をがいしてないかの方が光合成より気になってしまった。
せんぱいは僕の宿題の面倒を見てくれただけなのに。
ただ、先輩は終始楽しそうで、「また、誘ってね」と言って帰っていった。
* * *
夏休み明けの日はよく晴れた暑い日だった。
放課後、僕はいつもの通り校舎のはずれの静かな教室へ向かう。
【理科部活動中】の紙は相変わらず貼ってある。
それでも僕以外の部員が様子を見に来る気配はない。
理科室の周りは春からずっと静かなままだ。
理科室の扉を開けると今日もその人はセットしていない髪に眼鏡をかけてそこにいた。
理科室の理科部用の棚にはいつの間にか買い出しの日に拾ったであろうウニの殻が増えている。
それ以外にもアルコールランプも、ビーカーもいつもの通りだ。
クラゲの水槽はまだ戻ってきていない。
ボロボロのカーディガンは夏の暑さで封印されて、制服のシャツ一枚だからきっと教室にいる時と大した違いはないのだろうけど、気が抜けている感じは相変わらずいつも通りだ。
ボルボックスの水槽をなにやら真剣にかき混ぜている。
いつもどおりの先輩だ。
「カルメ焼きの件どうするつもりですか?」
「文化祭近いからね。
星野君のクラスは出し物決めた?」
「多分ステージ発表になりそうです」
「じゃあそれ以外の時間でできることにしないとね」
やっぱり、スライムかなあとせんぱいは言う。
何になっても楽しいだろうと思った。
「文化祭のことは一旦置いて、今日は久しぶりだから実験をしようと思っているよ」
理科室の住人であるせんぱいは、僕に向けてそう言った。
僕はかわりに笑顔を向けた。
「それは、楽しみです」
せんぱいの隣に座って準備されていたビーカーをのぞき込みながら僕はそう伝えた。
せんぱいは眼鏡の向こうの瞳を嬉し気に細めてそれからゆっくりと今日の実験の説明を始めた。
それを聞きながら必要な器具を僕が並べていく。
スケッチ用のメモ帳も鞄から出した。
世の中にはかき残しておきたいことがたまにある。
「ふふ」
思わず笑みがこぼれる。
相変わらず絵を外で褒められることは無い。
一学期の美術の成績は三だった。
将来のためにここにいるわけじゃない。
だけど、ここに来たいと思う。
一緒に色々なものを見たいと思う人がいる。
「どうしたんだい」
「せんぱいは、本当に理科室の住人だなと思って」
「君もそうだろう?」
せんぱいは全く悩むことなく僕に言った。
よく考えると、ウニもボルボックスも、クラゲも、二人の思い出だった。
僕はそう言われたのがちょっとだけ嬉しくて「そうだといいです」と言った。
END
せんぱいが僕の家に来たのは初めてで滅茶苦茶なぜか緊張した。
家に友達が来たことはあるけどそこまでじゃなかったので、多分恋人ってそういうものなのかもしれない。
その時に宿題も一緒にやった。
高校の宿題が思ったより多くてまずかったのだ。
当たり前の様にせんぱいの宿題はほぼ終わっていて、終始僕の宿題の手伝いばかりしてくれた。
僕は自分の宿題の心配もあったけれど、せんぱいに飲み物を出すこと一つで何を出したらいいのかとか、うちのコップはダサいのではないのかとかよくわからないことが気になってしまった。
せんぱいは、僕の宿題のわからないところを教えてくれている間に、僕のスケッチを見ていた。
家には過去のものを含めていくつか取ってあるのでそれを楽しそうに見ている。
「葉っぱの葉脈のここがいいね」と指さしながら、先輩は光合成について説明してくれた。
僕の部屋の片づけの足りなさとかにせんぱいが気分をがいしてないかの方が光合成より気になってしまった。
せんぱいは僕の宿題の面倒を見てくれただけなのに。
ただ、先輩は終始楽しそうで、「また、誘ってね」と言って帰っていった。
* * *
夏休み明けの日はよく晴れた暑い日だった。
放課後、僕はいつもの通り校舎のはずれの静かな教室へ向かう。
【理科部活動中】の紙は相変わらず貼ってある。
それでも僕以外の部員が様子を見に来る気配はない。
理科室の周りは春からずっと静かなままだ。
理科室の扉を開けると今日もその人はセットしていない髪に眼鏡をかけてそこにいた。
理科室の理科部用の棚にはいつの間にか買い出しの日に拾ったであろうウニの殻が増えている。
それ以外にもアルコールランプも、ビーカーもいつもの通りだ。
クラゲの水槽はまだ戻ってきていない。
ボロボロのカーディガンは夏の暑さで封印されて、制服のシャツ一枚だからきっと教室にいる時と大した違いはないのだろうけど、気が抜けている感じは相変わらずいつも通りだ。
ボルボックスの水槽をなにやら真剣にかき混ぜている。
いつもどおりの先輩だ。
「カルメ焼きの件どうするつもりですか?」
「文化祭近いからね。
星野君のクラスは出し物決めた?」
「多分ステージ発表になりそうです」
「じゃあそれ以外の時間でできることにしないとね」
やっぱり、スライムかなあとせんぱいは言う。
何になっても楽しいだろうと思った。
「文化祭のことは一旦置いて、今日は久しぶりだから実験をしようと思っているよ」
理科室の住人であるせんぱいは、僕に向けてそう言った。
僕はかわりに笑顔を向けた。
「それは、楽しみです」
せんぱいの隣に座って準備されていたビーカーをのぞき込みながら僕はそう伝えた。
せんぱいは眼鏡の向こうの瞳を嬉し気に細めてそれからゆっくりと今日の実験の説明を始めた。
それを聞きながら必要な器具を僕が並べていく。
スケッチ用のメモ帳も鞄から出した。
世の中にはかき残しておきたいことがたまにある。
「ふふ」
思わず笑みがこぼれる。
相変わらず絵を外で褒められることは無い。
一学期の美術の成績は三だった。
将来のためにここにいるわけじゃない。
だけど、ここに来たいと思う。
一緒に色々なものを見たいと思う人がいる。
「どうしたんだい」
「せんぱいは、本当に理科室の住人だなと思って」
「君もそうだろう?」
せんぱいは全く悩むことなく僕に言った。
よく考えると、ウニもボルボックスも、クラゲも、二人の思い出だった。
僕はそう言われたのがちょっとだけ嬉しくて「そうだといいです」と言った。
END



