そうこうしている間に期末テストの期間が来てしまった。
今回もせんぱいに色々と教えてもらった。
もうすぐ夏休みだから頑張ろうと先輩は励ましてくれた。
だから、という訳ではないけれど今回のテストの答案は返って来てから先輩に見せた。
返ってきたテスト答案を見せると、せんぱいは「これ、俺が見ていいやつ?」と軽く聞いた後、「がんばったじゃん」と言って、緩い笑顔を浮かべた。
「テストのお疲れ会やろうか」
せんぱいが言う。
せんぱいのテストの結果を聞いていない。
「せんぱいのテストの邪魔になってませんでしたか?」
俺が言うと、先輩は「まさか」と言った。
「見張り役がいた方が勉強って集中できるしね」
ああ、これで夏休みも遊べる。と言ってせんぱいは笑った。
「あ、そうだ。花火しようか、花火」
ちょっと時期は早いけど、多分もう売ってるし。
先輩は「部活が終わった後、やらない?」って聞いた。
「炎色反応が見られる花火もあるから、部費で買ってあるんだ」
せんぱいはそう言って笑った。
「え? もう準備してあるんですか?」
気が早い。
せんぱいは少し照れながら、「テスト中午後暇だったから買っちゃった」と言った。
せんぱいが出してきた線香花火をみる。
濃い目のピンクの紙に黄色や緑が混ざっていて、ちょっと懐かしい気分になる。
「炎色反応って前アルコールランプでやったやつですよね」
「そう。覚えてた?」
「初めて僕からお願いした実験なので当たり前ですよ」
アルコールランプの件はちゃんと覚えている。
それ以外の理科部での出来事も思い出として降り積もっている。
「青緑とか紫とか見ましたよね」
「そう。炎色反応を利用したやつとそうじゃないやつがあるんだよ。花火」
やっぱり、世界は理科に繋がっている。
「どこでやります?」
河原あたりでいいのだろうか。
公園は禁止されていた気がする。
「あ、そうだね。駅向こうの河原でやろうかなって」
せんぱいは自分で言いだしたくせに、俺が乗り気だと少し驚いていた。
だって、せんぱいと花火をするなんてちょっと楽しみだ。
ペットボトルに水を入れて、先輩と二人で河原にむかう。
河原と言っても、わりと小さな石がいっぱい敷き詰められていて結構広い。
整備された公園と自然の中間という感じの場所だ。
遠くに川が流れる音が密かに聞こえるけれど。水辺はもっとずっと先だ。
買ってあった花火は手持ちの花火が少し。量もそんなに多くは無い。
辺りは夜の帳が落ちる少し手前。
まだ暗いというのには程遠い時間だ。
火をつけた花火はさっと真っ白な光を噴射してキラキラと輝く。
「花火ってよく考えるとすごいですよね」
俺がそう言うと先輩は「銀色だからアルミニウムが入っているのかもしれないね」と答えた。
あいかわらず少し会話が噛み合っていないのが楽しい。
「この前やった炎色反応と同じなんですね」
「銀色に光ってるところはちょっと違うよ」
ちょっとということは同じやつもあるのかもしれない。
丁度持っていた花火の色が青緑に変わる。
「これ、この前の塩化銅と同じですか?」
「そう。銅系の化合物を使うと青とか青緑になるんだよ」
理科室で見た小さな火と、今の花火が同じ仕組みなのは少し不思議だ。
すぐに花火は燃え尽きてしまう。
ちょっと寂しいみたいな、物足りないみたいな、もっと二人でぼんやりと花火を見ていたいみたいなそんな気分になる。
「そうえば、線香花火は何の色なんですか?」
「あれは炎色反応の色じゃないよ。松煙に含まれる炭素なんかが高温になって光ってる色だよ」
いくつかすすき花火をした後、最後に線香花火に火をつける。
まん丸に膨らんだ光を見ていると、懐かしいような切ないような、少しだけ泣きたい様な気持ちになる。
こういう感情は変なんだろうか。
せんぱいはちゃんと物質は物質として見えているのだろうか。
ちらりと先輩を見ると花火の光が先輩の顔に少しだけ反射していてオレンジ色が照らされている。
せんぱいは理科室で見せるぼさぼさの姿のまま、オレンジの光が反射している。
それを綺麗だと思った。
元々せんぱいの顔は多分整っている。
クラスにいるときのキラキラの先輩を見る限り多分そうだ。
けれど今は眼鏡もかけて、髪の毛をぼさぼさとさせている。
それなのに、その瞬間綺麗だと思ってしまった。
自分の中で芽生えた気持ちに慌てる。
「あ……」
せんぱいが声を出す。
先輩の視線の先を見ると俺の線香花火がポトンと落ちてしまった後だった。
「残念……」
小学生の子供じゃないので線香花火が最後まで落ちなかったとかそういうことで一喜一憂はしない、多分。
先輩の手に残ってる線香花火の、光を見る。
「まるで星みたいですよね」
それを見つめながら俺が言うと「じゃあ、今度、本物の星見に行く?」とせんぱいに聞かれた。
言ってから、先輩は「あ……。ごめんやっぱ今の無し」と言って慌てていた。
何で慌てて撤回しているのか俺にはよく分からなかった。
部活で夜間の活動が難しいのか、予定が詰まっているのか、それとも――
理由は考えても分からなかった。
星、一緒に見たらきっと楽しかっただろういう気持ちと、なんで駄目なんだろうという気持ち。
おうちの事情とかなら普通に言ってくれればいいのに。
だけど、慌て方が何かいつものせんぱいと違ったので、心配な気持ちもある。
家で禁止されてるからという感じの慌て方じゃなくて、なんだろう。
何かを隠してる感じだった。
だけど、やっぱり答えが分かる訳もなく、僕は残念な気持ちに蓋をした。
今回もせんぱいに色々と教えてもらった。
もうすぐ夏休みだから頑張ろうと先輩は励ましてくれた。
だから、という訳ではないけれど今回のテストの答案は返って来てから先輩に見せた。
返ってきたテスト答案を見せると、せんぱいは「これ、俺が見ていいやつ?」と軽く聞いた後、「がんばったじゃん」と言って、緩い笑顔を浮かべた。
「テストのお疲れ会やろうか」
せんぱいが言う。
せんぱいのテストの結果を聞いていない。
「せんぱいのテストの邪魔になってませんでしたか?」
俺が言うと、先輩は「まさか」と言った。
「見張り役がいた方が勉強って集中できるしね」
ああ、これで夏休みも遊べる。と言ってせんぱいは笑った。
「あ、そうだ。花火しようか、花火」
ちょっと時期は早いけど、多分もう売ってるし。
先輩は「部活が終わった後、やらない?」って聞いた。
「炎色反応が見られる花火もあるから、部費で買ってあるんだ」
せんぱいはそう言って笑った。
「え? もう準備してあるんですか?」
気が早い。
せんぱいは少し照れながら、「テスト中午後暇だったから買っちゃった」と言った。
せんぱいが出してきた線香花火をみる。
濃い目のピンクの紙に黄色や緑が混ざっていて、ちょっと懐かしい気分になる。
「炎色反応って前アルコールランプでやったやつですよね」
「そう。覚えてた?」
「初めて僕からお願いした実験なので当たり前ですよ」
アルコールランプの件はちゃんと覚えている。
それ以外の理科部での出来事も思い出として降り積もっている。
「青緑とか紫とか見ましたよね」
「そう。炎色反応を利用したやつとそうじゃないやつがあるんだよ。花火」
やっぱり、世界は理科に繋がっている。
「どこでやります?」
河原あたりでいいのだろうか。
公園は禁止されていた気がする。
「あ、そうだね。駅向こうの河原でやろうかなって」
せんぱいは自分で言いだしたくせに、俺が乗り気だと少し驚いていた。
だって、せんぱいと花火をするなんてちょっと楽しみだ。
ペットボトルに水を入れて、先輩と二人で河原にむかう。
河原と言っても、わりと小さな石がいっぱい敷き詰められていて結構広い。
整備された公園と自然の中間という感じの場所だ。
遠くに川が流れる音が密かに聞こえるけれど。水辺はもっとずっと先だ。
買ってあった花火は手持ちの花火が少し。量もそんなに多くは無い。
辺りは夜の帳が落ちる少し手前。
まだ暗いというのには程遠い時間だ。
火をつけた花火はさっと真っ白な光を噴射してキラキラと輝く。
「花火ってよく考えるとすごいですよね」
俺がそう言うと先輩は「銀色だからアルミニウムが入っているのかもしれないね」と答えた。
あいかわらず少し会話が噛み合っていないのが楽しい。
「この前やった炎色反応と同じなんですね」
「銀色に光ってるところはちょっと違うよ」
ちょっとということは同じやつもあるのかもしれない。
丁度持っていた花火の色が青緑に変わる。
「これ、この前の塩化銅と同じですか?」
「そう。銅系の化合物を使うと青とか青緑になるんだよ」
理科室で見た小さな火と、今の花火が同じ仕組みなのは少し不思議だ。
すぐに花火は燃え尽きてしまう。
ちょっと寂しいみたいな、物足りないみたいな、もっと二人でぼんやりと花火を見ていたいみたいなそんな気分になる。
「そうえば、線香花火は何の色なんですか?」
「あれは炎色反応の色じゃないよ。松煙に含まれる炭素なんかが高温になって光ってる色だよ」
いくつかすすき花火をした後、最後に線香花火に火をつける。
まん丸に膨らんだ光を見ていると、懐かしいような切ないような、少しだけ泣きたい様な気持ちになる。
こういう感情は変なんだろうか。
せんぱいはちゃんと物質は物質として見えているのだろうか。
ちらりと先輩を見ると花火の光が先輩の顔に少しだけ反射していてオレンジ色が照らされている。
せんぱいは理科室で見せるぼさぼさの姿のまま、オレンジの光が反射している。
それを綺麗だと思った。
元々せんぱいの顔は多分整っている。
クラスにいるときのキラキラの先輩を見る限り多分そうだ。
けれど今は眼鏡もかけて、髪の毛をぼさぼさとさせている。
それなのに、その瞬間綺麗だと思ってしまった。
自分の中で芽生えた気持ちに慌てる。
「あ……」
せんぱいが声を出す。
先輩の視線の先を見ると俺の線香花火がポトンと落ちてしまった後だった。
「残念……」
小学生の子供じゃないので線香花火が最後まで落ちなかったとかそういうことで一喜一憂はしない、多分。
先輩の手に残ってる線香花火の、光を見る。
「まるで星みたいですよね」
それを見つめながら俺が言うと「じゃあ、今度、本物の星見に行く?」とせんぱいに聞かれた。
言ってから、先輩は「あ……。ごめんやっぱ今の無し」と言って慌てていた。
何で慌てて撤回しているのか俺にはよく分からなかった。
部活で夜間の活動が難しいのか、予定が詰まっているのか、それとも――
理由は考えても分からなかった。
星、一緒に見たらきっと楽しかっただろういう気持ちと、なんで駄目なんだろうという気持ち。
おうちの事情とかなら普通に言ってくれればいいのに。
だけど、慌て方が何かいつものせんぱいと違ったので、心配な気持ちもある。
家で禁止されてるからという感じの慌て方じゃなくて、なんだろう。
何かを隠してる感じだった。
だけど、やっぱり答えが分かる訳もなく、僕は残念な気持ちに蓋をした。



