《プロデューサー?疲れたなら、休みましょう》
あかねが心配そうに声をかける。
ごめん、とそのまま電源を切った。
やはり、性格上、一度気になったものは、分かるまで気になってしまう。
南のあの時の顔が思い浮かぶ。
だからといって、直接聞くのも憚られる。セクシュアリティの話かもしれないのだから。
真は今まで、女の子しか好きになったことはない。アイドルライフをやっているくらいだ。
でも、中学生の頃のSDGsに関する研究発表で、恋愛対象は、ハッキリ分けられるものではなく、グラデーションになっているものだと、発表していた人がいた。
想像をしてみる。
南と百パーセント恋愛できないかと言われると、全然そんなことはなかった。
「真、寝不足?」
「うん」
「珍しいね、いつも早く寝てるんでしょ」
「…勉強してた」
セクシュアリティについて、インターネットで調べていると、知らなかったことが沢山あった。その中でも、“アウティング”については、実際の悲惨な事件を知って、気をつけなければならないと思った。
真は誘われるように、大きく口を開いた。全身から空気が抜けていく。
「今日、五回目」
「…そんなしてたか?」
「授業中にもカクカクしてたから、そのまま椅子から落ちるんじゃないかって、支える準備してたよ」
「まじか、ありがと」
瞼が開ききらず、思考がまわらない。やっぱり六時間はキツイな。八時間は寝ないと。
「頑張りすぎは、よくないよ」
「うん、気をつける」
「今日は塾行くの?」
「行く」
全然気をつけてないじゃん、と苦笑いされた。
「家に帰って、ゆっくりしな」
心配の目で見つめられた。
その心配とは反対に、“家”と言うワードに、喉がキュッと締まる。
南に念を押されたので、しぶしぶ自習せずに帰ることにした。
「あれ、今日早いんだっけ?」
料理をしながら、おかえり、と声をかけられた。
「いや、自習せずに帰ってきた」
「あ、そう?ご飯まだできてないよ」
「うん」
靴を脱いで、手を洗いに行く。リビングを突っ切って階段を上がり、そのまま自分の部屋のベットにダイブした。
「お兄ちゃん、ご飯だよ」
妹に起こされ、制服のまま寝ていたことに気がついた。体をゆっくり起こすと、頭がぼーっとする。一息吸うと、色々な野菜が煮込まれた、暖かい香りがした。
「いただきます」
バラエティ番組を見ながら、スープを一口すすった。玉ねぎの甘みがでていて、体の芯から温まる。
「お兄ちゃんがいるの、珍しいね」
笑顔で目を向けられた。
「何で塾行かなかったの?」
「眠かったから」
少しくらい休んでもいいんじゃない、と隣でお酒を飲む。
妹とは、2歳離れているが、歳の割に仲が良い方だと思う。喧嘩もほとんどしたことがない。自分とは正反対で、よくトラブルを起こすので、何かと面倒を見ることが多かった。
「あなたも見習いなさいよ、そんなゲームばっかりやってないで」
真の箸が止まる。
また、その流れかよ…。
「頑張ってるよ」
「そんなの、ちょっとじゃない」
「部活頑張ってるし」
妹は口をとがらせて、むくれた。
その様子に、母も不満を溢す。
まぁ、と真は二人をなだめた。
「お金もすーぐ使っちゃうし」
こっちは止まらないので、真は妹の味方に回る。
「今のうち遊んでたほうがいいよ」
妹と目が合う。だよね、と目が言っている。
「将来、お父さんみたいにならないか心配」
全員の手が止まる。この空気が読めないように、テレビでは、大勢の笑い声が目立つ。
真は、ため息をついた。
それは、言うべきではなかっただろう。
「わかってるよ!!」
母の指摘にむっという顔をし、ご飯をかきこんでさっさと自分の部屋に戻っていった。
はーっというため息が聞こえる。
「二人だと喧嘩になるのよ」
やっぱり真がいないと、と溢す。
「結婚しても、うちに住んでよ」
お酒を飲みながら、軽く言ってきた。
「なんで」
「一人でこの家は寂しいし、真のほうが喧嘩にならない」
肩に、重いものが乗っかる。
「そうだ、これやってほしいの」
1枚の書類を渡された。
「お母さん、やり方わかんない」
丁寧に、QRコードまで載せてある。
「書いてあるだろ、ここに」
「わかんないから、よろしく」
やってから言ってくれ、と心の中でつぶやいた。
上から、楽しそうに笑う声が聞こえる。
声の方を見て、いつもこんな感じ、と不満を言う。
「いいところもあるんだけどねー、あの子も」
そうだ、聞いてよ、と嬉しそうにする。
「私が就職したら、初任給で旅行に連れてってあげるって、でも、自分も行くから、お土産代ぐらいしか出せないけどって」
笑っちゃうよね、と眉を八の字にして笑う。
「…いいやつじゃん」
「そうなの、ご近所さんにも、よくかわいいねって言われるのよ」
立ち上がり、ごちそうさま、と食器を下げた。
温かいご飯を食べたはずなのに、すっと心の熱が抜けていく。
テレビを見ながら、お酒を嗜む母の背中を見る。
わかってる。一人で仕事も家事もして、不自由なく、塾まで通わしてくれている。俺も長男で、二人を支えるのは当たり前だ。
そうだけど…
「お母さんって、俺のこと、手のかからない都合の良い子ぐらいにしか思ってないんじゃないの?」
「手がかかるっていいながら、結局そっちのほうが、かわいいんだろ」
これで何度目だろう。
口元まであがって来た言葉は、音になる前に止められる。
かわりに、目頭に熱いものがこみ上げた。それを逃がすように、手をぎゅっと握った。
あかねが心配そうに声をかける。
ごめん、とそのまま電源を切った。
やはり、性格上、一度気になったものは、分かるまで気になってしまう。
南のあの時の顔が思い浮かぶ。
だからといって、直接聞くのも憚られる。セクシュアリティの話かもしれないのだから。
真は今まで、女の子しか好きになったことはない。アイドルライフをやっているくらいだ。
でも、中学生の頃のSDGsに関する研究発表で、恋愛対象は、ハッキリ分けられるものではなく、グラデーションになっているものだと、発表していた人がいた。
想像をしてみる。
南と百パーセント恋愛できないかと言われると、全然そんなことはなかった。
「真、寝不足?」
「うん」
「珍しいね、いつも早く寝てるんでしょ」
「…勉強してた」
セクシュアリティについて、インターネットで調べていると、知らなかったことが沢山あった。その中でも、“アウティング”については、実際の悲惨な事件を知って、気をつけなければならないと思った。
真は誘われるように、大きく口を開いた。全身から空気が抜けていく。
「今日、五回目」
「…そんなしてたか?」
「授業中にもカクカクしてたから、そのまま椅子から落ちるんじゃないかって、支える準備してたよ」
「まじか、ありがと」
瞼が開ききらず、思考がまわらない。やっぱり六時間はキツイな。八時間は寝ないと。
「頑張りすぎは、よくないよ」
「うん、気をつける」
「今日は塾行くの?」
「行く」
全然気をつけてないじゃん、と苦笑いされた。
「家に帰って、ゆっくりしな」
心配の目で見つめられた。
その心配とは反対に、“家”と言うワードに、喉がキュッと締まる。
南に念を押されたので、しぶしぶ自習せずに帰ることにした。
「あれ、今日早いんだっけ?」
料理をしながら、おかえり、と声をかけられた。
「いや、自習せずに帰ってきた」
「あ、そう?ご飯まだできてないよ」
「うん」
靴を脱いで、手を洗いに行く。リビングを突っ切って階段を上がり、そのまま自分の部屋のベットにダイブした。
「お兄ちゃん、ご飯だよ」
妹に起こされ、制服のまま寝ていたことに気がついた。体をゆっくり起こすと、頭がぼーっとする。一息吸うと、色々な野菜が煮込まれた、暖かい香りがした。
「いただきます」
バラエティ番組を見ながら、スープを一口すすった。玉ねぎの甘みがでていて、体の芯から温まる。
「お兄ちゃんがいるの、珍しいね」
笑顔で目を向けられた。
「何で塾行かなかったの?」
「眠かったから」
少しくらい休んでもいいんじゃない、と隣でお酒を飲む。
妹とは、2歳離れているが、歳の割に仲が良い方だと思う。喧嘩もほとんどしたことがない。自分とは正反対で、よくトラブルを起こすので、何かと面倒を見ることが多かった。
「あなたも見習いなさいよ、そんなゲームばっかりやってないで」
真の箸が止まる。
また、その流れかよ…。
「頑張ってるよ」
「そんなの、ちょっとじゃない」
「部活頑張ってるし」
妹は口をとがらせて、むくれた。
その様子に、母も不満を溢す。
まぁ、と真は二人をなだめた。
「お金もすーぐ使っちゃうし」
こっちは止まらないので、真は妹の味方に回る。
「今のうち遊んでたほうがいいよ」
妹と目が合う。だよね、と目が言っている。
「将来、お父さんみたいにならないか心配」
全員の手が止まる。この空気が読めないように、テレビでは、大勢の笑い声が目立つ。
真は、ため息をついた。
それは、言うべきではなかっただろう。
「わかってるよ!!」
母の指摘にむっという顔をし、ご飯をかきこんでさっさと自分の部屋に戻っていった。
はーっというため息が聞こえる。
「二人だと喧嘩になるのよ」
やっぱり真がいないと、と溢す。
「結婚しても、うちに住んでよ」
お酒を飲みながら、軽く言ってきた。
「なんで」
「一人でこの家は寂しいし、真のほうが喧嘩にならない」
肩に、重いものが乗っかる。
「そうだ、これやってほしいの」
1枚の書類を渡された。
「お母さん、やり方わかんない」
丁寧に、QRコードまで載せてある。
「書いてあるだろ、ここに」
「わかんないから、よろしく」
やってから言ってくれ、と心の中でつぶやいた。
上から、楽しそうに笑う声が聞こえる。
声の方を見て、いつもこんな感じ、と不満を言う。
「いいところもあるんだけどねー、あの子も」
そうだ、聞いてよ、と嬉しそうにする。
「私が就職したら、初任給で旅行に連れてってあげるって、でも、自分も行くから、お土産代ぐらいしか出せないけどって」
笑っちゃうよね、と眉を八の字にして笑う。
「…いいやつじゃん」
「そうなの、ご近所さんにも、よくかわいいねって言われるのよ」
立ち上がり、ごちそうさま、と食器を下げた。
温かいご飯を食べたはずなのに、すっと心の熱が抜けていく。
テレビを見ながら、お酒を嗜む母の背中を見る。
わかってる。一人で仕事も家事もして、不自由なく、塾まで通わしてくれている。俺も長男で、二人を支えるのは当たり前だ。
そうだけど…
「お母さんって、俺のこと、手のかからない都合の良い子ぐらいにしか思ってないんじゃないの?」
「手がかかるっていいながら、結局そっちのほうが、かわいいんだろ」
これで何度目だろう。
口元まであがって来た言葉は、音になる前に止められる。
かわりに、目頭に熱いものがこみ上げた。それを逃がすように、手をぎゅっと握った。
