今日、南はバイトがない。日誌を書き終えると、ポケットからスマホを取り出した。真も、このあと塾に行かないため、気にせず椅子に座った。
「全然、親愛度10にならない」
「10は難しいからな」
真は?と問われ、自分のスマートフォンであかねを呼び出し、それを南に向けた。
「25!?」
「リリースからやってるからな」
すごいなーと、感心された。
「そういえば、南の担当、誰なんだ」
「あー、確かに言ってなかったね」
フレンド交換した際に、南の名刺を確認したが、何も設定していない、初期状態だった。
「担当アイドル、設定してないだろ」
「めんどくさくてさー」
僕はこの子が好き、とスマホの画面を見せた。画面には、青い短髪で、眼鏡をかけた女の子が映る。
真は、うわ、と苦い顔をした。
なにその顔、と笑われてしまった。
「一緒懸命で、かわいい」
「あんまり好きじゃない」
「自分に似てるからでしょ」
わかってないなー、と画面を戻した。
「みらいは親愛度10超えてるんだな」
「この子だけ、あとは全然」
「南は自分に似てるキャラ、嫌にならないのか」
「え?そんな子いる?」
「あかねは、南に似てる」
えー、どこが?と顔をしかめる。
「言いたいことをハッキリ言えるところ」
このストーリーとか、ほぼ南だろ、と説明した。
「うわ確かに、自己紹介の時でしょ、それ」
画面の中で、あかねが、だらけている生徒に向かって《アイドル、やめたほうがいいよ》と言っている。
「あの時、ちょっと言い過ぎたなって反省してる」
「いや、正論だろ」
「真、めっちゃ気まずそうだったけどね」
「それはそう」
でも、と真は続ける。
「別に隣のやつと喋ってるだろ、今」
「まぁね、よくわかんないけど話しかけてくるから」
「それって、すごいな」
そう?と南は首を傾げた。
「あそこから修復できるのが、すごい」
「あんまりしてるつもりないんだけど」
そこが、南の良さだと、気付いたら口に出していた。
「俺は、思っても、言えない。関係が崩れて修復できなくなるなら、自分が我慢すればいいって諦める。だけど、南はちゃんと言いたいことは言う。そういうところ、すごい尊敬する」
南は照れくさそうに笑った。
「そんなに褒めてくれるの?」
「…思ったことを言っただけだ」
じゃあ、と南は真の目を見る。
「真は、真面目で、何事にも全力なところがいいと思う。僕は、そうなれないから」
面と向かって言われ、顔が熱くなった。
「ほら、恥ずかしいでしょ」
「…確かにな」
「でも、本心だからね」
よし、行くか、と南はカバンを肩にかけ、立ち上がった。真もリュックを背負う。
「さすがに、今日は軽いね」
「歩き回るだろうし、疲れるからな」
初めて、友達とオタ活できることに、浮かれている。
「おおー、人多い」
平日の夕方にも関わらず、歩く人が多くてなかなか前に進めない。
「さすが秋葉原って感じ」
「外国人も多いしな」
駅を出てすぐ、左側にお目当てのビルがある。外にまで列ができている。エスカレーターに並び、3階で降りた。
店内には沢山のグッズが並べられている。男性向けも女性向けも、合わせて並んであり、取り扱うコンテンツが多いため、棚同士の間隔が狭い。
「いっぱいあるね」
「配置変わってるな」
久々に来て、心が弾む。
上のパネルを確認しながら、アイドルライフのグッズ売り場を探した。
「あ、これ知ってる!」
広告でよく見るんだよなー、と南は興味深そうに見ている。足を止め、一つ、缶バッジを手に取った。
「絵柄が良いよな」
「わかる、気になってるけど手をつけてない」
「俺はゲームシステムが合わなかった」
このキャラクターがかわいい、と南は指を指した。
「南も好み分かりやすいよな」
「えー、そう?」
「明らかに真面目そう」
帰ったら調べよー、と南は写真を取った。
「あ、あった」
エリア1面と、その裏まである。
「だいぶ増えたな」
「なんか古参みたいなセリフだね」
「古参だからな」
主人公から順番に並べられているため、裏から探す。
赤いグッズが目にはいると、真っ先にそのスペースまで進んだ。
トレーディングカードを束で手に取り、トランプのように1枚ずつ確認していく。
うわ、あった。
複製サインが刻まれている、レアなカードだ。しかも、1100円。迷うラインだ。
「あー、ここにいた」
隣の青いスペースに、南もたどり着いたようだ。目新しいものに、へー、と興味を示している。
「なんかいいのあった?」
「これ、迷う」
ランダム商品であるし、1枚で440円もするから、確率的にも自引きするよりは確実に安い。しかし、決めきれない。
「カードに1100円か」
「それ、言っていいの」
怒るかと思って言わなかったのに、と南はおかしそうに笑う。あかねを見る。俺はこの子のプロデューサーだ。買わずに後悔、より、買って後悔だな。
「やっぱ、買う」
「決め手は?」
「今後手に入らなかったら後悔する」
「いいじゃん」
南は何か買うか?と確認すると、首を横に振った。
「僕はグッズは買わない派」
「そうなのか」
「手元よりも、記憶に残したい」
いつもの持ち物の量を思い出し、納得した。
「前は物多かったけどねー、片付けがめんどくさくて買わなくなった」
「分かる、俺もだいぶ買う機会減った」
「大人になるとそうなるよねー」
買わないカードを棚に戻した。
「あ、この子も気になってる」
目線の先をたどると、紫が見える。
「よく、みらいちゃんのストーリーに出てくるから」
紫のグッズをじーっと見る。
「あかねの方にもよく出る」
「そうなんだ」
「ちょうどいいんだよな、あかねと、みらいの真ん中くらいの性格で」
「だからこそ、よく二人のストーリーに出てくるのかもね」
それ、買ってきたら?と言われ、一人でレジに向かった。
友達と夜ご飯に行くなんて、初めてだった。
そもそも、あまり外食の機会がなかったため、ファミレスがこんなにも安いだなんて、知らなかった。
「この量で600円?安すぎないか」
「企業努力だよね」
店内は子どもたちの声と、それをとめる親の声で騒がしい。一番奥の席でラッキーだ。
南はスマホでQRコードを読み取る。
「食べたいもの教えて」
三ページにもわたるメニュー表を、じっくり眺めた。二択まで絞ると、決め手がなかなかな見つからない。
「何で迷ってるの?」
意外と優柔不断なんだね、と笑われた。
「ナンバーワンのこれか、ペペロンチーノか」
「どういう二択なの、それ」
「ナンバーワンは外れないっていう経験則と、いま、単純にペペロンチーノが食べたいっていう二択」
「もう答え出てるじゃん」
ペペロンチーノにする、と決めた。
「南は?」
「僕は、ミートドリア」
「ナンバーワンだろ、それ」
「ここはコレが一番美味しい」
一口あげるよ、とスマホで注文を完了した。
「俺がこの二択で迷ってたから?」
「なんのこと?」
目線をスッと外される。勘違いだと恥ずかしいが、もしそうなら、サラッとこういうことができて、かっこいい。
携帯を取り出し、料理の安さの理由を調べた。
「工場を自社で持ってる、仕入れの段階でほとんど調理を終わらせている、QRコードで店員の負担を軽減してるから、らしい」
「そーなんだ、知らなかった」
いつも調べてくれるよね、と言われた。
「気になったら、調べないと気がすまなくなる」
ふふっ、と笑いながら、南はいつものように頬杖をつく。その瞬間に、揺れるものが目にはいった。
「ピアス、付け替えた?」
「あ、気づいた?」
「学校だとゴールドだから」
「確かに、シルバーは学校でつけてないかも」
ゴールドの方が目立ちにくい、と教えてくれた。
「なんで、片耳?」
南は少し、照れくさそうに笑った。
「かっこよくない?」
「うん」
「なんか、恥ずかしい」
対称的じゃないのが、遊んでる感じがあって、面白いと、真は素直に口にした。
「真面目に解説された」
「俺も開けようかな」
「意外ー」
「大学生になってからだけどな」
校則違反はしない、と念を押した。
「真はアクセサリーとか、つけなそうなのに」
「ピアス以外は興味ない」
「なんで、ピアスはいいの?」
「勉強の邪魔には、ならなそうだから」
真は、何かを選択する時、勉強の邪魔になるか、ならないかの二択で決めることが多い。眼鏡も、コンタクトだと目が疲れるため、めったに外さない。服も、気にならないように、なるべく着心地の良い服を選ぶ。
「確かに、リングとか邪魔になるもんね」
南は右耳のピアスを触る。
「俺も片耳で空けたい」
「え、」
南は目を見開いた。出過ぎたかも、しれない。
「やっぱり嫌か?」
「…何が?」
「真似されるの」
え、真似してくれるの?と、南はよく分からない言葉を発し、変な空気になった。
「南のがかっこいいから、真似したい」
「…真って、そういうところあるよね」
真は顔を傾ける。
「素直なのかわかんないけど、そういうこと、さらって言える」
別に、変だとは思わない。かっこいいとか、かわいいという褒め言葉は、嬉しいものなのだから、いくら言ってもいいだろう。
南は口元を隠し、横を向いた。耳が赤い。
「揺れるピアス、いいよな」
片方だと、より目立って、非対称さが目立っていい。
「…嬉しいけど、片耳はやめたほうがいいよ」
「なんで」
「色々面倒くさい」
「手入れとか?」
「…まぁ、そんな感じ」
一瞬、南の顔が曇る。
「お待たせしましたー、ミートドリアとペペロンチーノです。」
横から湯気がたっている料理が到着した。湯気が鼻先に触れると、一気に空腹を自覚した。
「ご注文はお揃いでしょうか?」
「はい」
「では、失礼します」
請求書を透明の筒に入れ、去っていった。
「美味しそ〜」
手を合わせて、いただきます、と同時に言った。
家に帰って、今日買ったグッズを袋から取り出す。店のOPP袋だと、地味に擦り傷とかが見えないことがある。取り出して部屋の光に当ててみると、状態が良くて安心した。机からスリーブを取り出し、カードファイルに収納した。
お腹いっぱい、と一息ついて、スマートフォンを取り出す。結局、あの後デザートまで食べてしまった。
ピアスを片耳で開けると、なんで面倒なのだろう。
ピアス 片耳 で検索し、一番上に出てきたサイトをタップした。
胸がドクンとはねた。
《男性が右耳だけにピアスをつけると、同性愛者という意味で認識されることがあります。》
