石橋は二人で渡れば怖くない

「まず、生まれたときから、私の中には南くんがいた。これは小5まで。明るくて、楽しいことが大好きだった。よくハナちゃんと、どうぶつの森をやったよね」

南は、目を見開き、やがて頷く。

「その後、お父さんが亡くなって、色々背負っちゃって。その時に、真くんが生まれた。だから、多分、その前の記憶はないはずだよ。それまでは、いなかったから」
すっと、頭に入っていく。

「でも、背負いすぎちゃって、真くんが壊れそうになる。そこに、思い出したように、南くんが助けに来てくれたんだ」

南を見る。南も、納得した顔をしている。

「おそらく、南くんは徐々に出てきたと思うんだ。多分、堺と遊んだ後ぐらいから。あの時から、そういえば小さい頃は楽しいことが好きだったな、っていう感情を取り戻したんだよね」

高1の、5月。南の意識を取り戻した時と、一致する。


「あの、ちょっと、いいですか」
南が話の途中で、声を出した。
「気になること、あった?」
「…記憶を無くす前に、夢の中で少年に会ったんです。それが誰だったか、ずっと気になってて」

真南さんは、優しく微笑んだ。

一歩踏み出し、真の前に立つ。

真の眼鏡に手をかける。そっと顔から、離した。
視界がぼやける。
ぼやけた中、南が、はっと驚き、泣きそうになっているのが分かった。

「それは、真くんだよ。お母さんと凛音のために、頑張らないと、楽しいことばっかりしていたら駄目だって、今までの自分を封印したんだ」

眼鏡をそっと、かけてもらう。
南が、ギュッと真を抱きしめる。音にならない声で、震えている。頑張ったね、と耳元で聞こえると、その言葉で、真も耐えきれなくなった。
そのまま、聞いてほしいと、真南さんは続けた。

「料理しながら、就活の自己分析のことをぼーっと考えていたら、思ったんだ。自分には、二つの性格があるなって。真の字のように、真面目な部分と、南の字のように、明るい部分がある。思い出してみれば、小学生の頃は明るかったけど、お父さんが亡くなってから真面目になったな。でも高校生の途中から、明るく戻ったよなって。
そしたら、二人の存在に、気づいた。」

真南さんは、涙ぐんだ声で続ける。

「…二人のおかげで、今の私がいる。真くんが、たくさん頑張ってくれて、南くんが、頑張りすぎる真くんを止めてくれた。お互いが認め合ったから、私も、自分らしさに気づいた。私は、字の通り、真面目で、真っ直ぐで、南の島の太陽みたいに明るくて、優しい人間なんだって。」
自分で言うのは恥ずかしいけどね、と照れくさそうに笑った。


そういうことだったのか。何もかも、頷ける。
二人とも記憶がない部分があって、怪我した時期と仕方が同じで、父親が同じ病気で亡くなっていて、テストの点が同じで、誕生日が一緒で、家族が一緒で、最寄駅も一緒で。


苗字が、一緒。

そりゃあ、惹かれるに決まってる。南は憧れだった。救ってくれた。明るくて、さり気なく優しくて、言いたいことをハッキリ言えて、お日様の香りがして、一緒にいて安心する。


南は、ゆっくり真から体を離す。
目が合う。

南は眉が下げ、泣きながら、歯を見せて笑った。

これが、南の本当の笑顔か。
本当に、太陽みたいだ。

つられて、同じ顔になる。






「ありがとう、二人とも」


真と南は、真南に向かって微笑み、消えていった。