外に出ると、耐えられるほどの気温になっていた。
「僕、いい場所を知ってるんだ」
南の案内に、ついて行った。駅を通り過ぎ、二十分程歩くと、河川敷についた。
太陽もだいぶ沈んできて、日光が直接当たらないため、ここでいいかと腰を下ろした。緩やかな斜面になっていて、ちょうど座りやすかった。
真は体育座りをして、川を眺める。緩やかに、左へ流れていく。下の方には、子どもたちが小さな白い花をつんで冠にしたり、鬼ごっこをしている。川が近いからか、風が少し頬を触り、心地よかった。
「ここにいると、落ち着くよね」
左に、後ろに手をつき、同じように子どもたちを見つめる南がいる。腕がもう触れる、すぐ隣に。
「いつも、ここにいた」
「いつも?」
「バイトなんて、やってない」
え、と声を出してしまった。
いつも、アルバイトがあると言って、駅を通り過ぎていった南を思い出す。ずっと、ここに来ていたのか。
「ここにいたら、何も考えなくていいっていうか、落ち着くから」
また、少し弱気の南が見える。
聞かなくても、分かってしまう。家族にも、誰にも言えず、ずっと心の中で、いつか死ぬかもしれないという不安を抱え続けていたんだ。人を寄せつけないのも、楽しく生きたいと笑ったのも、何かに全力になれないのも、死が、誰よりも身近に感じるからだったのか。
鼻の奥がギュッと傷んだ。
「でも、もう、ここには来なくてもいいかもね」
真がいる、と笑った。胸が、目頭が、熱くなる。
「あとちょっとで、分かりそうなんだ」
そうだね、と少し真剣な目に戻る。
再びメモを取り出し、振り返った。
数直線と、【気になる点】と羅列された文字たち。
・二人とも記憶がない部分がある→お互いがない部分を補っている感じ
・階段の落ち方と、時期が一緒
・父親が脳の病気で亡くなっている
・苗字が一緒
・テストの点が同じ
・誕生日が一緒
・妹の名前が一緒
・家族が一緒
・最寄駅も一緒
「あと、何かが、足りない」
「忘れてるよね、何かを」
二人は、目を合わせ、再びメモを凝視した。
ただ、もう出し切った感じがする。
「ここまでくると、もうファンタジーだよね」
「そうだな」
唐突に、ファンタジー、という言葉が引っかかった。
「俺達の存在が、そもそもファンタジーだったりする?」
「え?」
「…実は、もう生きてない、幽霊、みたいな」
「まあ、そう言われても納得できるよね」
一度、深呼吸をする。青々しい草花の匂い。ほのかに香る、南の匂い。地面を触ってみる。
「いや、生きてるな」
ククッと南は笑う。そして、真の手を触った。
「僕も、生きてる」
手から、じんわりと熱が伝わり、南から目を背けてしまった。
南の手は、愛おしそうに、真の頬を撫でる。
そういえば、あの時、キス、してなかった。
「…南」
「…なに?」
「あの時のお願い、って、何を言おうとした?」
フッと、すぐそこで笑う声がした。
「…僕と、付き合ってほしいって、言おうとした」
「…そうか」
真は、南に向き合った。南の瞳は、自分を捉えて、離さない。南の手に、そっと自分の手を重ねた。
南の頬が緩む。つられて、緩む。
「好きだよ、真」
「…俺も、好き」
恥ずかしくなって、声が小さくなってしまった。かわいいね、と笑った。
南の目を見る。少し、熱を持っている。
「…キス、してもいい?」
ゆっくり頷くと、南は目をつぶり、顔が近づいてくる。真も、目を閉じた。
唇に、優しい感触がした。
ゆっくり目を開けると、肩の力も抜ける。
じわじわ、心が熱くなっていく。
南が、とても愛おしい存在に感じた。
思い切って、聞いてみた。
「俺の、どこが好きなの…?」
南の口角が上がる。
「真の字のごとく、真面目で、真っ直ぐなところ」
南は、優しく微笑んで、真を包みこんだ。
それに答えるように、南の背中に手を回す。
「南も、字の通り、明るくて、一緒にいて安心する」
南の耳元で、囁いた。
最後のピースが、綺麗にはまった。
南がいてくれたから、
やっと、自分を好きになれた。
母に、自分の名前の由来を聞いたことがある。
「真っ直ぐ、南の島の太陽みたいに、明るくて優しい子に育ってほしい、っていう意味をこめたのよ」
そんな子に、やっとなれたのかな。
私の名前は、二ノ瀬真南です。
「僕、いい場所を知ってるんだ」
南の案内に、ついて行った。駅を通り過ぎ、二十分程歩くと、河川敷についた。
太陽もだいぶ沈んできて、日光が直接当たらないため、ここでいいかと腰を下ろした。緩やかな斜面になっていて、ちょうど座りやすかった。
真は体育座りをして、川を眺める。緩やかに、左へ流れていく。下の方には、子どもたちが小さな白い花をつんで冠にしたり、鬼ごっこをしている。川が近いからか、風が少し頬を触り、心地よかった。
「ここにいると、落ち着くよね」
左に、後ろに手をつき、同じように子どもたちを見つめる南がいる。腕がもう触れる、すぐ隣に。
「いつも、ここにいた」
「いつも?」
「バイトなんて、やってない」
え、と声を出してしまった。
いつも、アルバイトがあると言って、駅を通り過ぎていった南を思い出す。ずっと、ここに来ていたのか。
「ここにいたら、何も考えなくていいっていうか、落ち着くから」
また、少し弱気の南が見える。
聞かなくても、分かってしまう。家族にも、誰にも言えず、ずっと心の中で、いつか死ぬかもしれないという不安を抱え続けていたんだ。人を寄せつけないのも、楽しく生きたいと笑ったのも、何かに全力になれないのも、死が、誰よりも身近に感じるからだったのか。
鼻の奥がギュッと傷んだ。
「でも、もう、ここには来なくてもいいかもね」
真がいる、と笑った。胸が、目頭が、熱くなる。
「あとちょっとで、分かりそうなんだ」
そうだね、と少し真剣な目に戻る。
再びメモを取り出し、振り返った。
数直線と、【気になる点】と羅列された文字たち。
・二人とも記憶がない部分がある→お互いがない部分を補っている感じ
・階段の落ち方と、時期が一緒
・父親が脳の病気で亡くなっている
・苗字が一緒
・テストの点が同じ
・誕生日が一緒
・妹の名前が一緒
・家族が一緒
・最寄駅も一緒
「あと、何かが、足りない」
「忘れてるよね、何かを」
二人は、目を合わせ、再びメモを凝視した。
ただ、もう出し切った感じがする。
「ここまでくると、もうファンタジーだよね」
「そうだな」
唐突に、ファンタジー、という言葉が引っかかった。
「俺達の存在が、そもそもファンタジーだったりする?」
「え?」
「…実は、もう生きてない、幽霊、みたいな」
「まあ、そう言われても納得できるよね」
一度、深呼吸をする。青々しい草花の匂い。ほのかに香る、南の匂い。地面を触ってみる。
「いや、生きてるな」
ククッと南は笑う。そして、真の手を触った。
「僕も、生きてる」
手から、じんわりと熱が伝わり、南から目を背けてしまった。
南の手は、愛おしそうに、真の頬を撫でる。
そういえば、あの時、キス、してなかった。
「…南」
「…なに?」
「あの時のお願い、って、何を言おうとした?」
フッと、すぐそこで笑う声がした。
「…僕と、付き合ってほしいって、言おうとした」
「…そうか」
真は、南に向き合った。南の瞳は、自分を捉えて、離さない。南の手に、そっと自分の手を重ねた。
南の頬が緩む。つられて、緩む。
「好きだよ、真」
「…俺も、好き」
恥ずかしくなって、声が小さくなってしまった。かわいいね、と笑った。
南の目を見る。少し、熱を持っている。
「…キス、してもいい?」
ゆっくり頷くと、南は目をつぶり、顔が近づいてくる。真も、目を閉じた。
唇に、優しい感触がした。
ゆっくり目を開けると、肩の力も抜ける。
じわじわ、心が熱くなっていく。
南が、とても愛おしい存在に感じた。
思い切って、聞いてみた。
「俺の、どこが好きなの…?」
南の口角が上がる。
「真の字のごとく、真面目で、真っ直ぐなところ」
南は、優しく微笑んで、真を包みこんだ。
それに答えるように、南の背中に手を回す。
「南も、字の通り、明るくて、一緒にいて安心する」
南の耳元で、囁いた。
最後のピースが、綺麗にはまった。
南がいてくれたから、
やっと、自分を好きになれた。
母に、自分の名前の由来を聞いたことがある。
「真っ直ぐ、南の島の太陽みたいに、明るくて優しい子に育ってほしい、っていう意味をこめたのよ」
そんな子に、やっとなれたのかな。
私の名前は、二ノ瀬真南です。
