「思ってたんだけど、記憶がない部分が、入れ替わるってところ」
「うん」
「二重人格、みたいなこと、あるのかな」
「…俺も、それはよぎったけど、だったらこの状況が、説明できない」
「そうなんだよね…」
中3までの話ならば、そう考えても、おかしくないはずだ。
しかし、高1からは、二人とも記憶があって、それぞれが生活している。そこが、わからない。
お互いが考え、沈黙の時間が続き、それを南が突破した。
「一旦、休憩しよう」
休憩、という言葉を聞いて、お腹が空いていることに気がついた。南も、お腹空いたね、と笑う。
「そうだな」
「学校も、そろそろ閉まるし、場所移動しようか」
下駄箱を出ると、日差しが照りつけていて、顔をしかめた。
南が日傘を持っていたので、小さな傘に、二人で入りながら駅まで向かった。
いつもの最寄り駅のところに着いた。駅の周りには、ファミレスがいくつかあるので、二人のおなじみの店に入る。
「15時過ぎだから、ちょうどいいね」
昼食時を過ぎたため、すぐに席に案内してもらえた。
真はメニュー表を開き、今の自分の口に合いそうな料理を想像した。
「今日はミートドリアじゃないんだ」
「暑すぎて、さっぱりしたものが食べたい」
「確かに」
カレーも、パスタも、ハンバーグも、この蒸した日には、食欲がわかない。
「あ、真、次のページ見て」
南に言われ、ページをめくると、涼しげな色が全面に載せられている。その中央に、“冷麺”の文字が見えた。
「え、冷麺ある」
「良かったじゃん」
頬を手に乗せながら、笑いかけられる。
一気に、冷麺の口になった。
「俺、これにする」
「はやいね」
南も、メニュー表を片手でペラペラめくる。
「僕は、ハンバーグにしようかな、チーズ乗ってるやつ」
こんなに暑い日に、熱いものを食べるのか。
「僕は結構、脂っこいもの好きだよ」
いまさら、南の食の好みを知った。
「外暑いから、涼しくなるまで、ここにいようか」
もちろん、迷惑にならない程でね、と付け加える。
「そうだな」
南は、追加でドリンクバーも二つ頼んだ。
「うまい」
「良かったね」
冷たい麺が口の中に入ると、体まで冷やしてくれている感じがする。しかも、好きな硬さの麺の茹で具合だ。ねぎも辛くない。
「ここの冷麺はリピートする」
「すごい気にいってるね」
南は丁寧にハンバーグを切り、冷ましながら食べている。ご飯といっしょに口に運んだ。
「うま!」
顔が美味しいと、表現している。
「良かったな」
真もつられて、口角を上げた。
南はいつも、食物を頬張ると笑みが溢れる。本当に美味しい時は、目を開いて、眉が上がる。見ていて面白いし、気持ちがいい。
「なんか、付いてる?」
南を見過ぎていて、変に思われてしまった。
「南は、美味しそうに食べるなって」
「…そう?」
自覚なかった、と照れくさそうに笑った。
無意識にやっていたなんて、愛おしいな。
「南とご飯を食べるの、好き」
「ほんと?嬉しい」
僕も好きだよ、と言いながら、二口目を頬張った。
食器を片付けてもらい、手元には飲み物が入ったコップだけが残る。
店内を見渡すと、まだ席はかなり空いていた。あと、一時間程は大丈夫だろう。
真は、さっきのメモを取り出した。
「ここが気になる」
「そうだね」
真は、数直線をペンの先で指した。
「記憶のないところの切り替わっている、小5の終わりと、南が記憶を取り戻した高1の5月」
「こっちは、予想つくよね…」
南と考えていることは、おそらく同じだ。
「小5の終わりは、父が亡くなった」
二人は、納得したように頷いた。
「お父さんの死が、関係してそう」
「かなり、ショックな出来事だもんな」
それに、亡くなった原因は、どちらも脳の病気と一致している。
「薄々、感じてるよね」
「…うん」
「家族が、一緒っぽい」
試しに、家族の情報を共有した。
母の名前も、父の名前も同じだった。
誕生日も、完璧に一致。
そして、家の最寄駅も。
「なんで、会わなかったんだろうな」
「時間が違う、とか?」
「確かに、俺はいつも早く学校に行ってたし、今日は珍しく南のほうが早かったからな」
「いつも、ギリギリだもんね」
多分、眠れなかったんだろうなと、予想した。
少し、胸が痛い。
「じゃあさ、二人で勉強した時も、本当は帰り一緒だったんだ」
「確かにな」
「真、よく塾で反対方面行くから、全然気づかなかった」
それも、ある意味偶然だよね、と笑い合った。
・家族が一緒
・最寄駅も一緒
