石橋は二人で渡れば怖くない

いつもの時間に学校につくと、誰もいない教室に、南がいた。
「おはよ」
「…おはよう、早いな」
南は、うん、と返事をし、腕に顔を埋めた。
リュックをおろし、後ろ向きに席に座る。
「眠いの?」
「うん」
「多分、もう人来るから、放課後話そう」
「…うん」
完全に顔が埋まると、静かに寝息が聞こえてきた。

南の頭に、ゆっくりと、手を乗せてみた。サラサラの髪をそっと撫でる。心がじわじわ暖かくなる。

廊下から女子の声が聞こえてきたので、ゆっくり体を前に向けた。





期末テストが終わると、授業はなくなるため、早帰りになる。日誌を書き終え、人がいなくなったことを確認し、教室のドアを閉めた。

「とりあえず、整理しよう」
「そうだね」
「俺、ややこしいから言わなかったことがある」
何?と南は少し不安そうな顔をした。
「小学校の記憶がないって言ったけど、厳密にいうと、小5までの記憶がない」
「…より、不安なんだけど」
「なんで?」
「僕は、小5までの記憶がある。小6から、ない」
謎は深まるばかりだ。


真はルーズリーフを取り出し、数直線を書き出した。

0から11、11から15、15から16と、3つの区切りで分けた。

「南は0から11歳まで、俺は11歳から15歳まで、15から16歳は、二人とも記憶がある」

ペンを貸して、と言われたので、南に渡した。

【気になる点】という項目を書き出す。


・二人とも記憶がない部分がある→お互いがない部分を補っている感じ

・階段の落ち方と、時期が一緒

・父親が脳の病気で亡くなっている


こんなもんか、とペンの先を顎につけた。

「関係あるか、分からないけど」
南にペンを返してもらい、付け加える。


・苗字が一緒



「忘れてた」
「重要かは、分からない」
この中だと微妙だね、と笑い合う。

南は体を伸ばし、リラックスした。真も机に手をついて、くの字に体を伸ばした。よーし、と南が一息つく。

「俺は勝手に、階段から落ちたから記憶が無くなったと思ってたけど、そうじゃないかもしれない」
うん、と南は頷いた。
「だから、もしかしたら、南も、病気じゃない可能性がある」
南の瞳が揺れた。そうだといいな、と少し笑った。

「検討していくか」
「そうだね」
「気になったこと、聞いてもいいか?」
何でもどうぞ、と南は机に座った。
「小5までの記憶で、どうやって高校生活を送れたんだ」
「…これが、不思議でさ、体が覚えてた」
胸が、熱くなる。
「知識とか、普段のルーティーンとか、学校までの道とか、体に任せてたら、自然とできた」
全く、同じだ。
「だけど、人間関係とか、思い出とか、そういう部分が、欠けてる」
真は、南を見る。
「…一緒だ」
南は、おかしそうに笑う。
「何なんだろうね」
二人で、しばらく思考を巡らす。

「あ」 
南が、急に顔を上げた。
「何か、わかった?」
「知識の面で、気になることある」
「知識?」
「テストの点が、同じ」
忘れていた。そういえば、そうだった。
「前回は?最初のテスト」
「点数は覚えてないけど、クラス3位だったよ」
「…俺も、だ。そういえば、3位だった」
真は、眉をひそめる。
「でも、そこに関しては、俺は変に思わないというか、ちゃんと勉強してる感覚がある」
南が、口に手を当てた。
「確かに、記憶がない部分の知識は、すでに頭に刷り込まれてて、それ以降は、自分で覚えてたな」
真も、頷いた。

一応ね、と南はメモを付け足す。


・テストの点が同じ


「今度は、僕からいい?」
「うん」
「僕も、細かいから言ってなかったことがある」
「なに?」
「意識を取り戻した時、高1の5月なんだ」
なんでそんな、中途半端な時期なんだ。

真は、さっきの数直線に、15の隣に、5月と付け加えた。
「そういえば、俺の年で数えてたけど、南はいつが誕生日なんだ?」
真は早生まれなので、一般の年の数え方とは違う。
「僕は、1月17日」
真は目を見開いた。
「だから、年は合ってるから気にしなくていいよ」
南は、真を見て、どうした?と問う。
「…誕生日も一緒」
「え?」
「俺も、1月17日だ…」
なんだ、これは。偶然にしては、色々起き過ぎだろう。

・誕生日が一緒


「実は、双子説、あったりするかな」
「いや、そしたら家も一緒のはず…」
冗談のつもりで言ったが、南は、あれ?と首を傾げた。
「南の妹さん、いくつ?」
確かに、この前、妹が似てるっていう話を聞いたな。
「中2」
「…部活は?」
「テニス」
ん?と南は真の方を見る。
「…名前は?」
「二ノ瀬、凛音(りお)」
「…僕の妹も、りお、なんだけど、テニス部だし」
南は、まだ分からない、と溢した。
「りおって、どんな字?」
「凛に、音」
南はもう、笑っている。
「なんで一緒なんだ」
おかしくて、真も笑ってしまった。


・妹の名前が一緒