石橋は二人で渡れば怖くない

周りがどんどんと、顔合わせを始めている。最悪なことに、前後左右女子に囲まれ、簡単に声をかけられそうな人はいない。
後ろから教室を見渡し、自分に合いそうな人を探す。あの、一番前の眼鏡をかけ、姿勢がいい人は合いそうな気がする。
左側に目を向けると、後ろを向いて楽しそうに話す、元気そうな人と目が合った。
目が合ってすぐ、その人は立ち上がり、真の席に走ってきた。
「ねぇ、友達になろ!」
真の机に手を乗せ、瞬きをする。
「え、うん」
「オレ、堺」
「俺は、二ノ瀬」
よろしくなー!と、いきなり握手をしてきた。
「なんで、俺?」
「直感!!」
堺は笑顔でグッドマークをした。元気すぎて、距離の縮める早さには驚いたが、一人目の友達ができて、少し安心した。
「何読んでるの?それ」
堺の目線は、さっきまで読んでいた本に移る。
「芥川龍之介の、地獄変」
「芥川龍之介?難しそー」
「確かに、少し」
堺は、口元に手を当てる。
「中学の時に羅生門やったけど、なんか怖かった記憶ある」
「そうだな、死人の髪を抜いてカツラを売るおばあさんとか」
「そうそれ!めっちゃ奇妙だった」
羅生門を覚えているということは、ちゃんと勉強してきた人なのだろうか。
「部活とか決めた?」
「いや、帰宅部にしようと思う」
「あ、そうなんだ!オレはバスケ」
「バスケ部?ここのバスケ部は厳しいって聞いた」
「そう、強いからこの高校入った!」
勉強大変だったー、と溢す。
「すごいな」
「何がー?」
「やりたいことに、一直線で」
堺は、照れくさそうに笑った。
「二ノ瀬は?好きなことある?」
「好きではないけど、強いていうなら、勉強」
うわ、と堺は苦い顔をする。
「勉強きらーい」
声を変にして言うので、真は思わず笑ってしまった。
「でもさー、なんでうちにしたの?」
「なんで?」
「だって、うちの高校、入る時の偏差値は高いけど、卒業する時の偏差値は、低くなるって評判じゃん」
「え、そうなの?」
「なんか、制服がオシャレだから、それ着たくて頑張って入るけど、結局そこで燃え尽きる人が多いらしい」
勉強なら、隣の高校の方がしやすいんじゃない?と真顔で言われた。

それは、入学前に知りたかった。








堺の言った通り、かなり勉強をしない人が多い印象だ。さすがに、授業中に騒ぐ人はいないので、授業自体はちゃんと受けることができるが、授業中にスマホでゲームしたり、こっそり自撮りする人がいる。寝てる人も多い。そのあたりとは、価値観が合わない。

「何調べてるの?」
真のスマートフォンを覗き込んできた。
「大学」
「えー、まだ高校一ヶ月しか経ってないのに、もう?」
真面目だなぁ、と背中をポンと叩かれた。
「ねぇ、少し高校生らしいことしようよ」
堺は、つぶらな瞳で真を見つめる。
「高校生らしいこと?」
「二ノ瀬、ゲームやる?」
「…アイドルライフっていうアイドル育成ゲームとか、くらいだな」
「あ、意外とやるんだ」
堺は、まってね、と目をつぶり始めた。
少し経った後、これだ!と目を開けた。
「桃鉄とか、興味ある?」
朝ご飯を食べながら、チラッと目に入ったテレビのCMで、日本全国を電車で回っている場面を見たことを思い出す。その地に縁のある歴史上の人物や、特産物、施設などが、細かく再現されていた。地理や歴史の勉強にもなりそうだな、と感心した記憶がある。
「興味ある」
「マジ?じゃあゴールデンウイークに家でやらない?」
真は目を丸くし、徐々に口角があがる。
「いいの?」
「もちろん」
「じゃあ、決まり!」
高校生らしいこと、という文言に、心が動いた。



シンプルに整頓された部屋。壁には、知らないバスケットボールの選手のポスターが飾ってある。
「やり方は、こんな感じ」
「だいたい分かった」
コントローラーのボタンの機能や、簡単なルールを教えてくれた。このゲームは、カードが肝になるらしい。サイコロが三つになったり、他のプレイヤーからお金を奪ったりできるなど、面白いなと思った。
小さいテーブルに、ゲーム機を置き、画面を二人でのぞきながらやる。
「3年決戦もあるけど、99年が一番面白いかな」
「99年って、どれくらいかかるんだ?」
「うーん、ずっとやって三日くらい?」
「三日!?」
やっちゃう?と堺はイタズラな目で見てきた。
「うち、家族は旅行行ってるから毎日来ても問題ないよ」
経験したことのない、友達とゲームを三日間もやるという計画に、ワクワクしてしまった。
「…やる」
「よし!決まり!!」
堺はプレイ年数を99年に設定した。
「そういえば、部活はないの?」
「顧問が、予定あるからその前の休みを全部部活にして、そのかわりゴールデンウイークは休みってことになった」
「なるほど」
「だから、二ノ瀬と遊ぶチャーンスと思って」
堺は、プレイヤーを設定しながら、続ける。
「…二ノ瀬、なんか焦ってそうだから」
「焦ってる?」
「うん、悪いことじゃないけど、もっと肩の力抜いて、楽しいことしてもいいと思う」
珍しく、真面目なトーンに、堺の言葉が響いた。
「よし!準備できた!」
「…ありがとな」
二つの意味を合わせて、言った。堺は、ふっと笑い、よーし、と肩を組んできた。
「3日間、桃鉄だー!!」
元気の良さにつられて、肩の力が、少し抜けた気がする。