石橋は二人で渡れば怖くない

堺の家に、南とお邪魔した。
「これ、飲み物とお菓子」
「マジ?サンキュー!」
玄関で靴を揃え、そのまま真っすぐ階段を登った。ひとつ部屋を通り過ぎ、突き当たりの部屋へと案内された。
入ると、エアコンがきいていて涼しい。小さなテーブルと、三人分のクッションが用意してあった。
「麦茶でいいー?」
「うん、ありがと」
コップと氷を取りに、堺は部屋を出た。
「堺の家、来たことあるの?」
「去年ゲームしに来た」
「何のゲーム?」
「桃鉄」
「真、好きそー」
ククッと笑う。
こっちはテストのことで、頭が埋め尽くされているのに、南は通常運転だ。
「お待たせー」
何の話してたの?と堺は、コップに買ってきた麦茶を注ぐ。
「去年、堺の家でゲームした話」
「あー!」
二人で99年やったよねー、と堺は懐かしそうに話す。
「どっちが勝ったの?」
「まこっち」
へー、と南は真の方を向いた。
「今度、僕とも、やろうよ」
「桃鉄やったことあるか?」
「あるよ、ちなみに、強い」




文系科目は真、理系科目は南が担当し、順番に堺に教えた。
「助動詞の意味、多すぎて無理!!」
「“べし”だけだよ」
「どうやって7個も覚えればいいのさ」
真は、塾で教えてもらった語呂合わせを堺に教えた。
「“すいかとめてよ”で覚えるといい」
「すいかとめてよ?」
「推量、意志、可能、当然、命令、予定。頭文字を取れば、“すいかとめてよ”になる」
「おおー!!」
「ただし、“か”は注意して」
堺は首をかしげた。真は、自分がよく間違えてしまうことを、あえて伝えた。
「仮定っていう意味を持つ“む”があるから。実は、助動詞の“む”も、“すいかかえて”で覚えられるから、“か”の意味が混ざる」
助動詞の“む”の方の“か”は、可能ではなく、仮定と、勧誘だ。
「確かに、“か”だけど覚えてると、間違えるね」
ちゃっかり、南も聞いている。
「だから、例文で覚えていたほうがいい」
真は、現代語に訳しやすい徒然草の例文を挙げた。さてもやは永らへ住むべき。そのまま生きて長らえて住むことができるだろうか、いやできない、という意味だ。
「それ、覚えやすいね」
南は、自分の勉強はしなくても余裕、ということなのか。



「1,3,5,7…っていう数字は、どんな規則性ある?」
「2個ずつ、足していってる」
「そうだね、じゃあ、1を第1項、3を第2項として、第100項はどうなる?」
「え、全部足すの…」
南は、そこで、便利な方法がある、と目を堺に向けた。
「まず、第100項までに、何回2をたさなきゃいけないかを考えるのね」
どう?と堺に問う。
「99回!」
へぇ、と南は眉を上げた。
「いいね、何で99回だと思った?」
「1と3の間で2を足してるから、100までの間の数は100-1で99回」
おおー、と軽く拍手をした。堺は、オレ天才!とドヤ顔をする。
「じゃあ、答えはどうなる?」
「99回、2を足せばいいから、198!!」
惜しい、と真が溢す。
「図で描くとわかりやすいんだけど…」
南は規則性に沿って数を並べた。
「あっ!最初の1をたさなきゃいけないのか!」
「そう!」
199か!と、堺は答えを導き出すことができた。
「じゃあ、これをもっと項数が大きくなった時、簡単に解けるように式を作ろうか」
「1+2(n-1)でしょ!」
早いね、と南は褒める。
「じゃあ、括弧の中身を展開して、もっと簡単にすると?」
「2n-1!」
堺も、徐々に理解が早まっていく。
教え方が上手いな、と真は感心した。

「…Σは、こういう使い方をする」
「なるほど!」
「まずは、理屈を考える前に、手を動かしたほうがいいよ」
真は、地学を勉強している手が止まる。
「数学は、進んで後から分かることもあるから」
真は南をちらりと見た。前に苦手と言ったからか、南の言う事が、自分へのアドバイスのように聞こえた。
「1+1=2って、僕たちは当たり前にやっているけど、実は大学レベルじゃないと証明できない」
「へー!!」
そうなのか、と純粋に聞き入ってしまった。
堺は、問題を苦戦しながらも、一つずつ解いていった。



「ああー、疲れたあー」
「お疲れ様」
堺は自分のベットに飛び込んだ。
「何とか、赤点は回避できそうだな」
「二人のおかげー」
「来週なのに数学三ページしかやってなかったって、すごいね」
結局なんとかなるからなー、と自慢げに言った。
「一年の時のテストも、まこっちに手伝ってもらったよね」
「まぁな」
そうなの?と南は興味深そうにした。

「むかしむかし、桜が舞い散るころ…」
堺は起き上がり、懐かしそうに話始めた。