生徒会室は本日も「甘やかし」につき使用中

◇◇◇

 体育館のステージに立ち、マイクを握る俺の姿は、少なくとも周囲の目には完璧に映っていたはずだ。

 背筋は真っ直ぐに伸びている。
 声も震えてはいない。

 落ち着いたトーンで原稿を読み上げ、必要なところでは顔を上げる。堂々とした立ち振る舞いに、どこか近寄りがたいほど涼しげな顔つき。
 きっとそう見えているだろう…きっと。

 けれど、

(無理無理無理、心臓が弾け飛ぶ…っ!)

 俺の心はそれどころではなかった。
 体育館中の視線が、今この瞬間、ステージの上にいる俺へと集まっている。

(なんでこんなに人がいるんだよ……!)

 叫び出したい。
 今すぐマイクを置いて、ステージ袖まで走って逃げたい。

 けれど、そんな本音をおくびにも出さず、俺は淡々と原稿を読み続ける。
 マイクを握る指先には、無意識のうちに力が入っていた。白くなった指先が、僅かに震えている。

 額には滲む程度の汗。
 背中を伝う冷たい感触が、制服のシャツをじわりと湿らせていく。

 それでも、表情だけは崩さない。………崩せない。
 生徒会長として、全校生徒の前に立っているのだから。

 ふと、隣に立つ圭太が視界に入った。
 副会長として、何食わぬ顔で俺の隣に立っている。そして、ちょうどこちらを見ていた圭太と目が合った。

 一瞬。
 本当に、それだけだった。

 圭太は何も言わない。
 ただ、俺にしか分からないくらい僅かに目を細めた。

__大丈夫や、安心しぃ。

 そう言われた気がした。
 それだけで、不思議なくらい胸の奥が静かになる。

 さっきまで暴れ回っていた心臓が、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻した。張り詰めていた緊張の糸が切れる代わりに、繋ぎ止められた感覚になる。

(心強いな)

 こんな大勢の前で、俺がどれだけ必死に平静を装っているのか。
 それを知っているのは、きっとこいつだけだ。

 俺は小さく息を吸い直した。
 そして何事もなかったかのように、再び原稿へ視線を落とす。

 声は、もう震えていなかった。