生徒会室は本日も「甘やかし」につき使用中

「顔、隠さんでもええのに。俺しかおらんのやから」
「うるさい…。お前のせいで調子狂うんだよ」
「俺のせい?」

 楽しそうな声が頭上から降ってくる。

「頼りにしてくれてるんちゃうの?」
「ちがっ…!」

 反射的に否定してから、少しだけ声を落とす。

「……頼っちゃうんだよ、無意識の内に」
「っ、ほんっまに可愛ええやっちゃな」

 圭太の腕は緩むどころか、むしろ愛おしそうに強くなっていく。
 トントン、と一定のリズムで背中を叩かれる。その手が妙に心地よくて、さっきまで張り詰めていた肩から、少しずつ力が抜けていく。

「はぁ……」

 小さく息を吐く。

「…今日の集会の挨拶、変わってくれないか」
「無理やな~」

 圭太の制服を握る指に、再び力が入る。

「人前に立つだけで吐きそうなのに…」

 ぽつり、ぽつりと弱音が零れた。
 外では誰にも見せない、本当の自分。

 凛としていて、何でもそつなくこなす。
 そんな生徒会長の面影なんて、今の俺には欠片もない。

「大丈夫やって。俺が横におるし」

 圭太の声が、すぐ頭上から落ちてくる。

「……お前、副会長だろ」
「せやな」
「…助けてくれないと困る」
「おっ、珍しく素直に助け求めたな?」

 途端に、圭太の声が嬉しそうに弾んだ。

「っ、」

 しまった。

「意地の悪い言うなら、もうお前には頼らん!」
「ごめんごめん。冗談やって」

 ぷいっと顔を背けようとした瞬間、大きな手が頬を包み込んだ。そのまま、強制的に視線を合わせられる。
 柔らかく目尻を下げた圭太の顔が、すぐ目の前にあった。

「亜蘭が困ったら、俺が全部フォローしたる」
「……」
「挨拶で詰まったら俺が助け舟出すし。緊張して震えそうになったら、見えへんところで手ぇ繋いだる」
「…ホントかよ」
「ほんま。せやから、あんまり1人で抱え込まんといて?」

 耳元で囁かれた低く優しい声に、胸がトクンと跳ねた。

 ……本当にずるい。
 こっちは格好悪いところばかり見せているのに。

 こいつはいつだって余裕そうで、格好良くて。
 まるで俺が欲しい言葉を、最初から全部知っているみたいにくれる。

「亜蘭、顔上げて屋」

 何の気もなく、言われたままに反射で顔を上げる。すると満足そうに笑った圭太が、俺の額へ軽く唇を落とす。

「……っ!」

 思わず目を見開く。

「い、いきなりすんな!」
「頑張る生徒会長さまへのおまじない」

 くすくす笑いながら、圭太が頭をぽんと叩く。

「ほら、そろそろ体育館行かな。顔、整えとき?」

 その言葉と同時に、身体を包んでいた腕が離れていく。
 圭太は扉の鍵を開け、そのまま何事もなかったかのように扉を開いた。

 俺はそんな背中を見つめながら、大きく息を吸う。
 そして、ゆっくりと吐き出した。

__大丈夫。

 そう言い聞かせるように、制服の襟を整える。
 さっきまでの情けない自分を胸の奥へ押し込めて、いつもの顔を作った。

 凛としていて、隙がなくて。
 誰から見ても『完璧な生徒会長』に見えるように。

 そうして俺は、圭太の後ろを追いかけるように生徒会室を後にした。