生徒会室は本日も「甘やかし」につき使用中


 そんな理不尽な選挙から、約2か月後。
 生徒会の仕事にもようやく慣れ始めた頃、俺たちの間にはいつの間にか1つの習慣ができていた。

「悪い。生徒会のことで急用ができたんだ。圭太のこと、借りてもいいか?」

 努めて平静を装う。
 声も、いつもより少し低く。できるだけ自然に。

 加えて、他人から「整っている」と評されるこの顔は、真顔でいるとどうにも威圧感があるらしい。

 現に声を掛けただけの同級生は、見るからに緊張した様子で何度も頷いていた。

「圭太、ごめんな。その、引き止めて…」
「いや、ええよ。俺の方こそ、気ぃ遣わせて悪いな」

 これで終わるはずだった。
 ……はずなのに。

(……まだ話すのか)

 別に、急いでいるわけじゃない。
 生徒会室へ行くのだって、数分くらい遅れたところで何の問題もない。

 それでも、目の前で別れを惜しむようにズルズルと楽しそうに話されると、どうにも面白くない。

 自分でも子供っぽいと思う。
 思うけれど、どうしようもない。

 僅かに唇を尖らせると、それに気づいた圭太がこちらを見た。目が合った瞬間、案の定、口元が楽しそうに緩む。

「はいはい。ちゃんと行くから、そんな怒らんといて」

 そう言って、圭太はごく自然な動作で俺の腰に手を回した。まるで、いつものことだと言わんばかりの慣れた手つき。
 それが妙に腹立たしくて、俺はその手を乱暴に引き剥がす。

「じゃーな、圭太」

 背中越しに聞こえた声に、圭太がひらりと手を振る。

「またなー」

 ……何でこいつは、こんなに余裕なんだ。

 俺がどれだけこいつに会いたくて、わざわざ理由までこしらえて呼び出しているのか。
 全部分かっているくせに、それなのにコイツはいつだって余裕綽々だ。

 そんなことを考えながら、圭太と並んで旧館3階の生徒会室へ向かう。

 廊下を歩く間、特に会話はなかった。

 ただ、俺だけが妙に落ち着かない。

 さっきまで教室にいたときは、あんなに平然としていられた。でも、こうして2人きりになる時間が近づくにつれて、胸の奥がそわそわと騒ぎ始める。

 それを誤魔化すように、いつもより少しだけ歩調を速めた。