この日のルアンとセリスの業務は、宮廷魔法士専用の執務室での事務作業だった。
ここ連日、城内では魔法による結界の改築作業が行われ、それに伴う大量の報告書をルアンとセリスが二人で一手に請け負っていたからだ。
二人は朝から山積みの書類に向かい、ひたすらに羽ペンを走らせていた。
ふと手を止めたルアンが隣に視線を向ける。
すると、セリスが目を何度もしばたたかせていた。
「セリス、そろそろ疲れてきてるだろ。ペース落ちてるぞ」
「少しね。でも、まだ全然大丈夫だよ」
「根詰めすぎるな。いくら忙しい時期とはいえ、休憩したって罰は当たらないだろ」
「そうだけど、締切が今日までなのがいくつかあるから」
隣からかけられる言葉に、セリスは手を止めることなく淡々と返す。
ルアンは、そんな彼女の様子に小さく息を吐き、
「だったら、こっちにも半分回せ」
「えっ、でも…」
「いいから。お前だけにやらせたら、終わる前に倒れるだろ」
と言い、自分の机の一角を指先で小さく叩く。
それは、ここに置けと言う彼の合図。
セリスが隣のルアンの机を覗くと、彼の方は半分くらい減っていた。
「ルアンだってまだ結構あるじゃん」
「お前よりはマシだ」
「じゃあ、お願い」
セリスは厚意に甘え、半分を彼の机の上に置き再び作業に取り掛かる。
ルアンもそれを一瞥した後、何でもないかのように再開した。
そうして処理を続け、一区切りつくとーー。
「一旦休憩にするか」
徐ろにそう言い、ペンを置いた。
「そうだね」
セリスも、今度はルアンの提案に乗り、ペンを置くと座ったまま天高く体を伸ばす。
「今、珈琲淹れるから待ってろ」
ルアンは起立し、肩を回しながら室内の休憩スペースへ向かう。
それから、数分も経たない内に、挽きたてのこうばしい香りが部屋中に広がった。
「いい香り!ルアンの淹れる珈琲は、美味しいんだよねぇ」
「そうか? 大して変わらないだろ。こんなの誰が淹れても」
ぶっきらぼうな口調だが、ルアンの口角は上がっている。
「それが違うんだなー。ルアンのは特別」
セリスが心を躍らせて待っていると、二人分の黒いカップを持って戻ってきた。
「ほら」
「ありがとー!」
差し出された珈琲を両手で受け取り一口啜る。その途端、自分好みの絶妙な甘さ加減にセリスの頬が綻ぶ。
「ん、やっぱり美味しいー!」
「それは良かった」
美味しそうに飲むセリスを満足気に見ながら、ルアンは自分の椅子に座りカップに口をつけた。
そんな、のほほんとした空気の中、突然執務室の扉が強くノックされた。
ルアンがカップを机に置き、扉を開ける。そこに立っていたのは、息を切らした伝達役の者。
只事ではなさそうだと感じたルアンの眉間に皺が寄り、セリスは真剣な表情をなる。
「一体どうした。何があった?」
「敵国が進軍してきた模様! 敵は城門付近まで到達しようとしています! 他の魔法士は既に戦闘中、至急お二人も戦闘に参加せよとの事です!」
「分かった。直ぐに出る。行くぞ、セリス」
珈琲を飲み干したルアンは、カップを机に置くと走り出した。
「解ってる!」
セリスも飲み干した珈琲のカップを机に置き、ルアンと共に急いで部屋を出て、城外へ向かった。
こうして二人は、急遽戦闘に駆り出される事になったのだった。
二人が外に出ると既に混戦状態になっていた。
それぞれ城門前の離れた場所につき、ルアンは雷魔法で攻撃、セリスは光魔法を使役し応戦を始める。
しかし敵の数は、倒しても倒してもキリがない。
魔法を放つ度に体力は削られて、息が荒くなる。セリスの体は少しずつ、だが確実に疲労が蓄積していた。
その時、彼女の反応が微かに遅れる。
その刹那の隙を見逃すほど、敵も愚かではない。
「油断したな!」
セリスの死角にいた敵魔法士が、彼女めがけて黒い靄のような物を放った。そして、それは吸い込まれるように彼女の体の中に入っていく。
(!…何!?今の…!?私、何されたの!?)
「ヒヒッ!それは呪いだ。お前は徐々に身体が石のように動かなくなっていくぞ!」
何が起きたのか解らず戸惑っているセリスに、靄を放った張本人の敵魔法士が高らかに告げる。
(!そんな……!)
セリスの顔から血の気が引く。
「これで、終わりだ!」
更に追撃とばかりに敵の魔法士が放ったエネルギー弾を容赦なく撃った。
エネルギー弾は、ショックを受け動揺しているセリスに向かって真っ直ぐに向かっていく。
急いで防御魔法の光の盾を発動するセリスだが、右後ろからの至近距離攻撃に、
(ダメだ、間に合わない!)
セリスは死を覚悟し目をギュッと閉じる。だが、いつまで経っても衝撃は来ない。
不思議に思っていると、ドサッと何かが倒れるような音がセリスの耳に入った。
(?)
恐る恐る目を開けると、視界に映ったのは、ルアンの背中だった。
おそらく、粗方己の方の敵を蹴散らし終えたルアンが、セリスの加勢に急行する途中、彼女を狙ったエネルギー弾を目撃し、風魔法で弾を相殺。
それから、セリスの前に着くと彼女に守るように立ち、彼女を襲おうとした敵の魔法士を天雷球で撃破したのだ。
「……ルアン?」
未だ頭が追いつかないセリスは、呆然とした様子で、背中を向けたままのルアンに声をかける。
すると、ルアンがゆっくりと振り向いた。
「………大きな怪我は…なさそうだな」
そのままセリスの身体を確認するように頭からつま先まで目を走らせ言った。
「うん。かすり傷だけだよ」
セリスは、そう言うと微笑んでみせる。
その答えに深く息を吐きながら、ルアンが安堵したように呟いた。
その時だった。
ルアンがトドメをさしたはずの敵の魔法士が苦し紛れの魔法弾を放ったのは。
それは次第に大きくなり、ルアンの背中に直撃する。
ここ連日、城内では魔法による結界の改築作業が行われ、それに伴う大量の報告書をルアンとセリスが二人で一手に請け負っていたからだ。
二人は朝から山積みの書類に向かい、ひたすらに羽ペンを走らせていた。
ふと手を止めたルアンが隣に視線を向ける。
すると、セリスが目を何度もしばたたかせていた。
「セリス、そろそろ疲れてきてるだろ。ペース落ちてるぞ」
「少しね。でも、まだ全然大丈夫だよ」
「根詰めすぎるな。いくら忙しい時期とはいえ、休憩したって罰は当たらないだろ」
「そうだけど、締切が今日までなのがいくつかあるから」
隣からかけられる言葉に、セリスは手を止めることなく淡々と返す。
ルアンは、そんな彼女の様子に小さく息を吐き、
「だったら、こっちにも半分回せ」
「えっ、でも…」
「いいから。お前だけにやらせたら、終わる前に倒れるだろ」
と言い、自分の机の一角を指先で小さく叩く。
それは、ここに置けと言う彼の合図。
セリスが隣のルアンの机を覗くと、彼の方は半分くらい減っていた。
「ルアンだってまだ結構あるじゃん」
「お前よりはマシだ」
「じゃあ、お願い」
セリスは厚意に甘え、半分を彼の机の上に置き再び作業に取り掛かる。
ルアンもそれを一瞥した後、何でもないかのように再開した。
そうして処理を続け、一区切りつくとーー。
「一旦休憩にするか」
徐ろにそう言い、ペンを置いた。
「そうだね」
セリスも、今度はルアンの提案に乗り、ペンを置くと座ったまま天高く体を伸ばす。
「今、珈琲淹れるから待ってろ」
ルアンは起立し、肩を回しながら室内の休憩スペースへ向かう。
それから、数分も経たない内に、挽きたてのこうばしい香りが部屋中に広がった。
「いい香り!ルアンの淹れる珈琲は、美味しいんだよねぇ」
「そうか? 大して変わらないだろ。こんなの誰が淹れても」
ぶっきらぼうな口調だが、ルアンの口角は上がっている。
「それが違うんだなー。ルアンのは特別」
セリスが心を躍らせて待っていると、二人分の黒いカップを持って戻ってきた。
「ほら」
「ありがとー!」
差し出された珈琲を両手で受け取り一口啜る。その途端、自分好みの絶妙な甘さ加減にセリスの頬が綻ぶ。
「ん、やっぱり美味しいー!」
「それは良かった」
美味しそうに飲むセリスを満足気に見ながら、ルアンは自分の椅子に座りカップに口をつけた。
そんな、のほほんとした空気の中、突然執務室の扉が強くノックされた。
ルアンがカップを机に置き、扉を開ける。そこに立っていたのは、息を切らした伝達役の者。
只事ではなさそうだと感じたルアンの眉間に皺が寄り、セリスは真剣な表情をなる。
「一体どうした。何があった?」
「敵国が進軍してきた模様! 敵は城門付近まで到達しようとしています! 他の魔法士は既に戦闘中、至急お二人も戦闘に参加せよとの事です!」
「分かった。直ぐに出る。行くぞ、セリス」
珈琲を飲み干したルアンは、カップを机に置くと走り出した。
「解ってる!」
セリスも飲み干した珈琲のカップを机に置き、ルアンと共に急いで部屋を出て、城外へ向かった。
こうして二人は、急遽戦闘に駆り出される事になったのだった。
二人が外に出ると既に混戦状態になっていた。
それぞれ城門前の離れた場所につき、ルアンは雷魔法で攻撃、セリスは光魔法を使役し応戦を始める。
しかし敵の数は、倒しても倒してもキリがない。
魔法を放つ度に体力は削られて、息が荒くなる。セリスの体は少しずつ、だが確実に疲労が蓄積していた。
その時、彼女の反応が微かに遅れる。
その刹那の隙を見逃すほど、敵も愚かではない。
「油断したな!」
セリスの死角にいた敵魔法士が、彼女めがけて黒い靄のような物を放った。そして、それは吸い込まれるように彼女の体の中に入っていく。
(!…何!?今の…!?私、何されたの!?)
「ヒヒッ!それは呪いだ。お前は徐々に身体が石のように動かなくなっていくぞ!」
何が起きたのか解らず戸惑っているセリスに、靄を放った張本人の敵魔法士が高らかに告げる。
(!そんな……!)
セリスの顔から血の気が引く。
「これで、終わりだ!」
更に追撃とばかりに敵の魔法士が放ったエネルギー弾を容赦なく撃った。
エネルギー弾は、ショックを受け動揺しているセリスに向かって真っ直ぐに向かっていく。
急いで防御魔法の光の盾を発動するセリスだが、右後ろからの至近距離攻撃に、
(ダメだ、間に合わない!)
セリスは死を覚悟し目をギュッと閉じる。だが、いつまで経っても衝撃は来ない。
不思議に思っていると、ドサッと何かが倒れるような音がセリスの耳に入った。
(?)
恐る恐る目を開けると、視界に映ったのは、ルアンの背中だった。
おそらく、粗方己の方の敵を蹴散らし終えたルアンが、セリスの加勢に急行する途中、彼女を狙ったエネルギー弾を目撃し、風魔法で弾を相殺。
それから、セリスの前に着くと彼女に守るように立ち、彼女を襲おうとした敵の魔法士を天雷球で撃破したのだ。
「……ルアン?」
未だ頭が追いつかないセリスは、呆然とした様子で、背中を向けたままのルアンに声をかける。
すると、ルアンがゆっくりと振り向いた。
「………大きな怪我は…なさそうだな」
そのままセリスの身体を確認するように頭からつま先まで目を走らせ言った。
「うん。かすり傷だけだよ」
セリスは、そう言うと微笑んでみせる。
その答えに深く息を吐きながら、ルアンが安堵したように呟いた。
その時だった。
ルアンがトドメをさしたはずの敵の魔法士が苦し紛れの魔法弾を放ったのは。
それは次第に大きくなり、ルアンの背中に直撃する。


