青い川から赤い川へ流れ、白い白い、と僕は言った。


 冬でも最低気温は15度以上。
 そんな熱帯雨林(ジャングル)で、凍えた話をしよう。


 僕は当時、青い川(レルサフ)って、呼ばれてた。
 子供は、そういう名前をつけられる。

 臆病なピューマ(オンピオンピ)。
 けたたましいクモザル(カッカラビィ)。
 短い蔓(テテヅ)。短い大蛇(ボアヅ)。

 自然に持ってかれないため。
 自然ならざる名は、自然に取り込まれる。

 小舟(カヌア)。山刀(マチエテ)。竈門(ベルディエ)。
 そんな名前は、決してつけない。

 まあ、僕は、自然に。
 持ってかれちゃったんだけど。



 ジャングルは暑い。
 ヤシの葉を束に日影に。
 ゆりかご、という歳では。
 もう、ないけど。
 僕は、小舟(カヌア)の上、揺ら揺られ。

 鳥や猿の声、虫や風の音。
 うっとうっとと、眠りこけ。


 目が覚めた。流されていた。
 小舟(カヌア)が舫(もや)ってなかった?

 雨季には、まだ早い。
 なのに川幅が広くなって。

 ただ、この時の僕は、ちっとも怖くなく。
 だって川(レ)ってのは。
 遡っていけば、帰れる。
 なんて。そう思ってた。

 船上にはヤシの実。
 魚籠の中に獲った魚(カージナルテトラ)。
 食料はあったから、どうにかこうにか。

 
 三日三晩。流された。
 そのとき僕は、三(ロア)まで数えられたから。
 間違いない。

 僕は、世界の狭間を見た。
 青い川(レルサフ)。
 赤い川(レメルビ)。

 青(サフ)の水と赤(ビ)の水が。
 混ざり合うことなく。
 二つの色の違う川(レ)が、
 ずっとずっと、続いていた。

 大蛇(ボア)。長い大蛇(ボアデ)。長い長い大蛇!(ボアデデ)
 そう思った。

 僕は、大蛇(ボア)の背を小舟(カヌア)で渡った。
 青い川(レルサフ)から赤い川(レメルビ)へと。

 赤い(ビ)水に、手を入れると。
 青い(サフ)水とは違って、冷たくて。
 けれど、優しく感じて。
 なんだか不思議な気がした。


 赤い川(レメルビ)の岸に着いた。

 知らない鳥の声。知らない猿の声。
 知らない虫の音。知らない風の音。

 僕にとって、全くの新世界。

 小舟(カヌア)が流されないよう。陸まで引っ張って。
 初めて見る長い蔓(テテデ)を山刀(マチエテ)で切って。
 木にくくって。奥の方へ。奥の方へ。

 三日三晩。野宿をし。
 四、当時は数えられない。
 四日目の朝が来た。

 冷たい。とは違う。
 汗が乾く、水浴びをする。
 ヤシの葉を被さったときとも違う。
 初めての感覚。

 凍える。僕は、まだその言葉を。
 知らなかった。

 だから。

 ただ。

 白い(シジュ)。白い(シジュ)、白い(シジュ)。白い(シジュ)白い(シジュ)白い(シジュ)。
 うわ言のように唱え震えた。
 体に葉を巻いて。火を焚けるだけ焚いて。
 諤々と体を震え合わせ。

 意識も。
 遠く。
 遠。
 と。





 大人になってから知ったことだけど。
 青い川(レルサフ)と赤い川(レメルビ)が混ざらないのは。
 水温や流れの速さが違うから。
 らしい。
 
 そして二つの川は酸性度も違う。

 青い川(レルサフ)は、酸性。
 酸性の川は、ボウフラが育たない。

 赤い川(レメルビ)はアルカリ性。
 よく、蚊も育つみたいで。



 そう僕は、ジャングルで。
 マラリアによって、凍えたんだ。