姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 誕生日の放課後に、突然生駒先輩から一緒に寄り道しようと誘われた。

 連れられて来たのは、徒歩10分程で着いたお洒落なカフェ。
 向かい合う席に座った俺は、店内を見渡す。
「学校の近くにこんなカフェあったんですね」
「夏休み中にオープンしたんだってさ。学校帰りに寄ってみたいなぁって思ってたんだけど、一緒に行く人いなくて」
「…高柳先輩とは行かないんですか?」
「高やんはねぇ、運動部だったからかな?がっつり食べられるお店の方が好きなんだよ。こういうスイーツを楽しむ店は向いてないかなって」
「なるほど…」
「どのケーキも美味しいって口コミに書いてたけど、妹尾君どのケーキセットにする?あ、今日は俺がご馳走するからね」
「えっ、いやいや。それは申し訳ないです。自分で払いますよ」
「いいのいいの。誕生日だし、俺一応先輩だし」
「…ありがとうございます」

 ✳︎

 ケーキセットを食べ終わっても、俺と生駒先輩は帰らずに色んな話をしている。
 てっきり生駒先輩の口からは、高柳先輩の名前ばかり出てくると思っていたけど、実際は違った。趣味や受験のことから他愛ない話まで色んな話をしてくれたし、俺の話もたくさん聞いてくれた。


 レジで支払いを終えた生駒先輩は、ドア前で待っていた俺に「暗くなるの早いねぇ」と言いながらドアを開けてくれた。
「ありがとうございます。ご馳走さまでした」
「いえいえ。…外、寒いね」
「秋って一瞬ですもんね。すぐ冬になっちゃう」
「うんうん、分かる。妹尾君、電車だよね?」
「はい、そうです。生駒先輩は…」
「俺はバスだよ。…じゃあ、駅まで送るよ」
「えっ、いや、わざわざ大丈夫ですよ。むしろ、俺がバス停まで送りたい気分です」
「ふふ、妹尾君優しい。じゃあ、お言葉に甘えて送ってもらおうかな。誕生日なのにごめんね?」
「いえ、美味しいケーキと楽しい時間をいただいので、お礼させてください」
「ありがとう」

 ◇

 沢山の人にお祝いしてもらった誕生日から約1週間。今、俺の身には不思議なことが起こっている。
 朝、ベッドの上でアラームを止めた俺は、薄っすら開けた目でスマホ画面を確認する。
 身体を起こし通知を開くと、生駒先輩から“おはよう”とメッセージが送られてきていた。
 実は誕生日の日から生駒先輩とメッセージのやりとりがずっと続いている。おやすみなさいでキリよく終わっても、起きたらおはようと連絡が来て、また他愛ないやりとりが続く。最初は戸惑っていたけど少しずつ慣れてきて、生駒先輩の優しい文面に癒されている。受験生なのに俺と連絡なんか取ってる暇はあるのか心配になったけど、AO入試で合格し、すでに進路が決定したため時間に余裕が出来たらしい。

 ✳︎

「キイ、あったか」
 体育館でバドミントンの授業中、待機中の瀬古は俺を後ろから包む形で床に座っている。
「つーか、キイ手冷たくね?」
 そう言った瀬古に指先をにぎにぎされて、一気に鼓動が速くなる。

 ドキドキドキ……

 恋を応援していても、瀬古に触れられると、瀬古の匂いがすると、身体は勝手に熱くなり、心は幸せを感じてしまう。
「おい、そこのイチャイチャカップル、順番だぞ」
「りょーかい。キイ、行こ」
「うん」

「キイ、前衛でいい?」
「うん、大丈夫だよ」
「無理そうなの全部俺に託していいから。キイに勝利をプレゼントしてやるからな!」
「ふふ、ありがとう!」

 宣言通り勝利しちゃう瀬古は、やっぱりかっこいい。

 ✳︎

 放課後、1人で校門へ向かっていると「妹尾君!」と声が聞こえた。
 振り返ると生駒先輩と高柳先輩がいる。
「あ、お疲れ様です」
「ちょうど良かった。これあげる」
 昨日メッセージのやりとりで話題に上がったグミを手渡された。
「え、いいんですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」
「生駒、いつの間に妹尾君とそんなに仲良くなったん?」
高柳先輩は不思議そうに聞いてきた。
「内緒」
「え、内緒なの?」
「今度2人で映画観に行くんだぁ。ね?」
「あ、はい」
「え!?…なんか俺の生駒が後輩に取られた気分」
「別に俺は高やんのものじゃないから」
「何でそんな冷たいこと言うんだよ」
「とにかく俺と妹尾君の仲を邪魔しないでよ」
「まじかよ…」
ぼそっと呟いた高柳先輩の表情から戸惑いと焦りを感じた。
「……。」


 2人と別れ、1人になった俺は貰ったばかりのグミを一粒口に入れた。
「…ん、美味しい」

 ていうか、高柳先輩でも生駒先輩を取られるとか思うんだ。…ん?なんか俺、当て馬キャラになってない?……あ!分かった。俺を当て馬キャラにして、高柳先輩に好きを自覚させて正式に付き合う作戦ですよね!?
 えー、どうしよう。生駒先輩は俺を当て馬にして高柳先輩と付き合いたい、俺は生駒先輩に好きになってもらって、高柳先輩が生駒先輩を諦めることで瀬古にチャンスを与えたい…。つまり両思いのフリしたところで、上手くいくのはどっちかの望みだけだよねこれ。

 ◇

 週末の夕方、バイトの終わった俺は生駒先輩との待ち合わせ場所へ向かった。
「お待たせしました」
「お疲れ様ー」
 生駒先輩の微笑みに仕事の疲れも吹っ飛ぶ。
「じゃあ、行こっか」

 映画館に着いた俺達はチケットを購入し、ドリンクだけ注文してスクリーンに移動した。
 選んだ作品は感動系のアニメ映画。泣いちゃうかもしれないから、1人で観に行こうか悩んでいたら、まさかの生駒先輩も同じ理由だったことが判明し、一緒に観ることになった。
「俺、引くほど泣いちゃうかもしれないけど、スルーしてね」
「全然大丈夫ですよ。俺こそ鼻水ズビズビ言わせたらごめんなさい」
「ふふっ、2人で泣いたら恥ずかしくないね」
「そうですね」

 ✳︎

 観終わった俺と生駒先輩は目は真っ赤、鼻水ズルズル状態で、明るくなった瞬間顔を見合わせて思わず笑った。

「いやぁ、めちゃくちゃ良かったですね」
「うん、本当に良かった。映画館で観たから余計感情が昂ぶちゃった」
「分かります。久しぶりにあんなに泣きました」
「俺もだよ。そのおかけでなんだかスッキリしてる」

 上映中にふと横を見た時の生駒先輩の泣き顔があまりに綺麗で、一緒に映画を観ているのが非現実みたいだった。

「いっぱい泣いたらお腹空いちゃった。ご飯食べに行こっか」
「はい」

 ◇

 翌朝、教室の席に着いた俺に後ろから瀬古が顔を近づける。
「おはよ」
「おはよう」
「あのさ」
「うん?」
「昨日、生駒先輩と一緒にいた?」
「えっ」
「駅近くでキイと生駒先輩が歩いてんの見かけたんだけど」

 えっ、瀬古あの時近くにいたの!?…まぁ、別にわざわざ隠す事でもないよね?

「うん、生駒先輩と映画行ったんだよ」
「映画?生駒先輩と?」
「うん」
「何で俺じゃなくて生駒先輩なんだよ」
「たまたま観たい映画が同じで…」
「…先輩に俺のキイが奪われた気分なんだけど」

 うわ、高柳先輩と同じようなこと言ってる!…よし、ここは生駒先輩を見習ってみよう。

「…俺は瀬古のものじゃないもん」
 ぐいっ…、瀬古は俺の頬を掴んだ。
「…っ」
「キイは俺のものだけど?…だから、そういう冗談禁止」
「……。」

 いやいや、俺は瀬古のために…瀬古の恋が上手くいくようにやってるのに……何でそんな嫉妬狂ったみたいな顔するんだよ。


 その日、久しぶりに席替えが行われた。俺は廊下側の1番後ろ、瀬古は窓際の1番前になり、離れ離れになってしまった。