姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 体育祭も残すところ、クラス対抗リレーと部活動対抗リレーのみになった。はーぎーがクラスリレー、瀬古と貝原が部活リレーに出場するため、俺は他のクラスメイトと応援席に残っている。
「…。」
 隣のD組応援席をぼんやり眺める俺は、安定でラブラブオーラを放つロミジュリカップルを視界から外した。

 応援合戦の途中、俺は衝撃の事実を知った。というより、大きな勘違いに気付いた。瀬古が好きなのは生駒先輩ではなく、元部活の先輩でもある高柳先輩ということに。

 確かにあの時、相手の名前聞いたわけじゃなかったよなぁ…。

 文化祭の時のことを思い出してみた。瀬古が好きな人がいると教えてくれた時、俺はてっきりステージの真ん中で歌う生駒先輩を見ていると思った。だけど今思えば、そのすぐ後ろにはドラムを叩く高柳先輩がいた。視線の方向が同じでもおかしくない。
 ロミジュリサプライズの写真タイムで、高柳先輩に生駒先輩を可愛いか聞かれた時の照れは、内容じゃなくて顔を覗き込まれたシチュエーションに対する照れだったんだ。
 普段の生駒先輩に対する少し素っ気ない態度は、恥ずかしさじゃなくて、高柳先輩とカップルと言われている相手への嫉妬からくるもの。

 あ、だから俺が高柳先輩にクッキー渡すって言った時あんなに驚いたんだ。……ん?ってことは俺、応援するどころか嫌がらせしてたってこと!?協力じゃなくて、邪魔してたってこと!?

「うわぁ〜…」
「大丈夫?」
 頭を抱えてしゃがみ込んでいる俺にクラスメイトが声をかける。
「どうしよう…もうダメかもしれないぃ…」
「キイちゃん大丈夫だって。まだC組が優勝する可能性残ってるから」
「…。」

 ✳︎

 クラス対抗リレーは1年と3年が1位を取り、総合優勝の可能性が出てきた。
 そして、最後の種目である部活動対抗リレーが始まった。入場してきたユニフォーム姿の瀬古と貝原は、いつもと雰囲気が違って新鮮だ。

 文化部のリレーが終わり、運動部の選手たちがスタート地点に並んだ。瀬古は第一走者らしい。
「…。」
 頭の中は、まだ整理が出来てなくてぐちゃぐちゃ。だけど、瀬古が走るこの一周だけは、瀬古のことだけを見ていたい。瀬古のことだけを考えていたい。だって…俺が瀬古を好きな気持ちだけは勘違いじゃないから…。

 ピストルの音とともに走り出した瀬古含む第一走者。
 さすがは陸上部。速いと言われているサッカー部と野球部を差し置いて、先頭をハイスピードで駆ける。

 あぁ、やっぱりかっこいいな。偽カップルだろうと、瀬古は俺の自慢の彼氏だよ。

 接戦を繰り返した結果、陸上部が1位、サッカー部が2位になった。
 そして、体育祭の総合優勝はD組。C組は惜しくも準優勝だった。
 
 せせカップルはまだまだロミジュリカップルには追いつけないのかと勝手に痛感し、初めての体育祭は幕を閉じた。

 ◇

 体育祭の翌週。季節はすっかり秋になり、日中に肌寒い日も増えてきている。

 放課後、清掃の班が同じ俺と瀬古は中庭の掃き掃除をしていた。
 他のクラスメイトが近くにいないのを見計らって、瀬古に聞いてみた。
「あのさ…」
「ん?」
「すっごく今さらなんだけど……その、いつから高柳先輩のこと、好きなの?」
「え…」
「いや、ちょっと気になって…」
 ホウキで集めた落ち葉を見つめる瀬古は、すんなり教えてくれた。
「簡単に言えば、去年の文化祭の劇で一目惚れしたってやつかな」
「…ロミオとジュリエットの?」
「うん。一緒に行ってた奴らは、生駒先輩の可愛さに夢中になってたけど、俺は高柳先輩のカッコ良さから目が離せなかった」
「…。」
「元々志望校だったから、高柳先輩目当てで受験したわけじゃねぇけど、絶対合格したいって気持ちは生まれたよな。で、入学して体験入部に行ったら高柳先輩がいて、死ぬほどテンション上がった」

 そりゃあ、運命感じるよね。

「…けど、すぐに姫ポジの生駒先輩と校内公認カップルだって知って、すげぇ複雑だった。だってさ、ロミジュリの格好じゃなくてもあの2人お似合いなんだぜ?…諦めようと思っても、部活で関われば関わるほど好きになって、生駒先輩への特別扱いを見て嫉妬する反面、全力で特別扱いする高柳先輩がカッコよく思えた。好きと同時に憧れも大きくなって…」
「……。」

 あ…だから最初から俺のことを誰よりも彼女扱いしてたのか…。そっか…。
 …憧れの人を真似してただけなのに、それを本気に捉えて好きになっちゃうとか…俺は本当に単純でおバカだな。自分を好きだと勘違いして、生駒先輩を好きだと勘違いして、やっと正解に辿り着くなんてポンコツ過ぎない?俺って姫ポジではなく、ただのポンコツなのでは?

 ◇

「お待たせ」
「天馬、かい、お疲れ!」
 休日の今日は、久しぶりに瀬古、はーぎー、貝原と遊ぶ。午前中部活だった瀬古と貝原に合わせて昼過ぎに集合した俺達は、ゲームセンターからの夜ご飯に行く予定のため、早速ゲームセンターへ向かった。

 ゲームセンターに着いた途端、はーぎーはクレーンゲームへ一直線に進んでいった。
「天馬!キイちゃん!今日は俺とかいが好きなの取ってやる!」
「最善を尽くします」
「まじか!やったな、キイ」
「うんうん!ありがとう、楽しみ!」
 実は今日、今月誕生日を迎える俺と瀬古のダブル祝いをしてくれるのだ。
 日付は違うけど瀬古と同じ誕生月なのは、すごく嬉しい。
「どれが欲しい!?」
「せっかくならでけぇのがいいな」
「大きいほうが誕生日プレゼントって感じだよね!」
「あ!あれとかどうよ!?」
 はーぎーは、大きなぬいぐるみのあるクレーンゲームの前に立った。
「これさ、色2種類あるから天馬とキイちゃんでオソロとかよくね!?」
「はーぎー、それ名案。キイ、オソロしようぜ」
「…うん!」

 今日まで密かに特訓していたのかと疑うほど、はーぎーと貝原のクレーンゲーム技術は凄かった。スマホでその様子を動画に撮る俺と瀬古は、どんどん気分が上がっていく。
「…っしゃー!!」
あっという間に大きなぬいぐるみを2つゲットしてくれた。
「わぁー!はーぎー、貝原、ありがとう!大事にするね」
俺は取ってもらったぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


 その後、対戦ゲームなどをした俺達はメダルゲームをするため、それぞれ好きな台を選んで遊び始めた。
 椅子に座った俺は、ぬいぐるみを膝の上に乗せてメダルを入れ出す。
「…。」

 もうすぐ瀬古の誕生日だ。俺も何かプレゼントしたいけど、何が嬉しいのかな。…でも、俺からのプレゼントなんかより、瀬古が喜ぶのは誕生日当日に高柳先輩に会えることなんだろうなぁ。

「せっかくだし会わせてあげたいけど…」

 学校にいる高柳先輩は、生駒先輩と一緒にいるのが当たり前だから、誕生日にわざわざその光景を見せたくはない。

「あ!」

 俺が生駒先輩を呼び出せばいいんじゃない!?ていうか、俺のこと好きにさせる相手は生駒先輩になったわけだし、2人きりになって交流深めたら一石二鳥だ。……まぁ正直、高柳先輩よりも生駒先輩を落とす方がハードルが高い。だって、高柳先輩の隣にいる生駒先輩は、正妻ですって顔してるもん。いや、俺だって瀬古の正妻面しちゃってるけどさ。そもそも絶対的姫ポジが、ポンコツ姫ポジを好きになるとか無理じゃない!?姫ポジ同士の恋とか前代未聞じゃない!?

「キイ、手止まってる」
 急に耳元で瀬古の声がして身体がビクッとなった。
「…びっくりしたぁ」
「この台微妙?」
「うーん、まあまあかな」
「なら向こうのやつ一緒にしよ」
「あ、うん」

「つーか、ずっと抱きしめてんな」
 ぬいぐるみを脇に抱える瀬古は歩きながら俺に言ってきた。
「え?」
瀬古は俺のぬいぐるみを指差した。
「大事そうにぎゅっとしてんのすげぇ可愛いけど、ちょっと妬ける」
「へ…?」

 え、ぬいぐるみにヤキモチ妬いたってこと?…俺の事好き過ぎるみたいな発言ずるいよ。

「…人の気も知らないで」
「えっ、どゆこと?」
「ううん、何でもない」
「え、キイなんか怒ってる?」
「別に」
「いや、怒ってんじゃん。俺なんかした?」
「だから…っ!?」
 足を止めた瀬古は俺からぬいぐるみを奪い、もう片方の脇に抱えた。
「…?」
「キイ、俺の腰あたりに腕回して」
「え、何で?」
「いいから」
「…。」
 正面から抱きつく形で瀬古の腰に手を回した。
「はい、力強くぎゅーってして」
言われるがままぎゅっとすると「キイ…」と名前を呼ばれて上を向いた。

 ちゅっ…

 瀬古は俺の鼻先にキスをした。
「…っ!?」
「キイが怒んのも、抱きしめんのも、俺だけにしとけよ?」
「…。」

 もぉ…ほらまた勘違いしそうになる。