姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 高柳先輩に助けてもらった日から数日後。
 1年C組は、家庭科室で実技の授業を受けていた。
「では、今日はクッキーとプリンを作ります」
 先生の言葉に室内は騒つく。
「え!?クッキーとプリン!?」
「んな女子が作るもん作れねーよ!」
「つか、女子の作ったスイーツを食いてーし!」
「はい、静かにー。料理が作れる男が現代においていかにポイントが高いかは、前回の調理実習で説明したわね。今回みんなに知ってほしいのは、スイーツ作りがいかに難しくて、時間のかかるものかってこと。彼女や奥さんが手作りスイーツをくれた時に、ただ美味しいと味わうんじゃなくて、作るまでの過程の大変さを理解した上で、作ってくれてありがとうって言ってほしいの」
「じゃあつまり、大変な手作りスイーツをくれるってことは、それだけ渡す相手である俺のことを想ってるってことだよな!?」
「そうよ!!」
「ふぅーーー!!!スイーツ最高ーーー!!」


 各班に分かれて、悪戦苦闘しながらお菓子作りをやり遂げた俺達。みんな想像以上の大変さに疲れ切っている。
「みんなお疲れ様!スイーツ作りって大変でしょ?…失敗したものや不恰好なものは自分達で食べて、綺麗にできたものはこれから袋を配るから、お世話になってる先生や友達にあげてみてください」
 そう説明されて、ふと頭に浮かんだのは高柳先輩だった。

 ていうか、高柳先輩と生駒先輩って実際に付き合ってるのかな?見るからに両思いだけど、正式に付き合ってないなら、瀬古にもチャンスはあるんだよね?生駒先輩が瀬古を好きになるには……あ!高柳先輩が他の人を好きになれば、生駒先輩も他の人に目を向けるんじゃない!?
 …高柳先輩は姫ポジの生駒先輩が好き(多分)ってことは、同じ姫ポジの俺を好きになる可能性もあるのでは?
 もちろん、俺はまだ瀬古が好きだけど、瀬古の恋が上手くいくために協力したいとも思ってる。ロミジュリカップルの仲を引き裂くのは心苦しいけど、瀬古のためだもん。…よし!俺、一肌脱ぎます!!

「俺は…高柳先輩に渡しに行ってみようかな」
「…え!?キイが!?何で!?」
 隣に座る瀬古は驚いている。
「この前助けてもらったから、そのお礼的な?」
「あぁ、なるほどな」
「せっかくだし、瀬古も生駒先輩に渡してみたら?」
「えっ、生駒先輩に?」
「俺と一緒に行ったら渡しやすくない?多分2人一緒にいるだろうから、片方だけにあげるのも気まずいし」
「…まぁな」

 ✳︎

 昼休み、ご飯を食べた俺と瀬古は包装したクッキーを持ち、3年の教室がある1階へ向かった。

 1階の廊下に着くと、ちょうど何処かから戻ってきた高柳先輩と生駒先輩と出会した。
「お、天馬じゃん!」
「お疲れ様ですっ」
「あ、妹尾君あれから体調大丈夫?」
「あ、はい。もう元気いっぱいです。で、あの…」
「おやおや!ロミジュリカップルとせせカップルがダブルデートしてるー!!」
「まじで!どこどこ!!」
 俺達4人を見て、他の3年生達が騒ぎ始めた。
「後輩がビビるからあんま騒ぐなって」
「ごめんね?ここだと外野がうるさいからあっち行こうか」

 生駒先輩に誘導され、校舎裏に移動をした。
「あの、この間助けてくれたお礼です。家庭科で作ったんですけど、良かったら…」
少し緊張しながら高柳先輩にクッキーを渡した。
「え!?俺に?」
「はい」
「わぁー、ありがと!!めっちゃ嬉しい!」

 良かった、喜んでくれてる。

 俺の横で瀬古も生駒先輩にクッキーを渡した。
「生駒先輩、良かったら食ってください」
「え、俺も貰っていいの?天馬君のこと助けてないけど」
「いや、そこは関係ないっつーか…ま、ぜひ」
「天馬君、ありがとう!」
「…。」

 良かったね、瀬古!

 ◇

 今日は体育祭。全校生徒が続々とグラウンドに集まって来る。
「この時期に体育祭とか神だよなぁ!動きまくっても暑くねーし」
「だな。今日は日中も涼しそうだけど、キイはしんどくなったらすぐ言えよ?」
「うん、ありがと」

 2年生の学年種目、騎馬戦から始まった体育祭。初めての体育祭にワクワクする俺は、瀬古達とC組の応援スペースから声援を送る。

 騎馬戦の次は、各クラスの代表者が参加する借り人競走。学年ごとに行われるため、1回目はクラスの友達を応援していた。
 すると、E組の生徒がお題の用紙を持って、こっちに走ってくる。

 確か、瀬古と同じ陸上部の…

「瀬古ー!」
「え!もしかして、俺連れて行く気か!?」
「違う!…きいたん、借りていい!?」
「はぁ!?ダメに決まってんだろ」
 瀬古は俺の肩を抱き寄せた。
「そーだそーだ!俺らのキイちゃんをライバルなんかに渡さないぞ」
「他をあたれよー」
はーぎー達も文句を言い始まる。
「もぉ、そんな事言ったら可哀想だよ」
俺は瀬古の手をどかして、E組の生徒の前に行った。
「一緒に走ればいいかな?」
「あ、おん。よろしく」
 走り出した俺達に「俺のキイに手出したら許せねぇからな!」と瀬古の声が聞こえる。

 生駒先輩が聞いてるかもしれないのに…。

 どうやらお題は【守りたくなる人】だったみたい。

 最後に3年の部が開始され、出場者の中には生駒先輩がいる。お題を引いた生駒先輩は、迷わずD組の応援席に向かって行く。

 あ…。

 高柳先輩の手を引いた生駒先輩。周りが興奮する中、笑顔の高柳先輩はいきなり生駒先輩をおんぶし、そのまま走り出した。
「…。」
 瀬古は視線を下に逸らし、明らかに気分が下がっているように見える。

 生駒先輩の引いたお題は【名字の読みが5文字以上の人】だったらしい。おんぶは、高柳先輩のアドリブ演出。

 全校生徒の前で、普通にそういうこと出来ちゃうからすごいんだよね。

 ✳︎

 後半の部は応援合戦からスタートし、A組から順に披露していく。次の出番の準備をするB組以外は各応援席から観覧している。
 トップバッターのA組がグラウンドに現れた。全員白Tシャツや白シャツの上にデニムジャケットを羽織って、爽やかに登場。
「何あれ、モデル軍団みたいじゃんか!」

 A組のダンスが終わり、俺達C組は衣装に着替える為室内へ移動する。

 ベージュのセットアップにシャツとネクタイを合わせたC組の衣装。そして、軽くメイクをして韓国男子になりきっているC組一同。ちなみに俺は、ハーフパンツにベレー帽を合わせた可愛いバージョンに抜擢された。

 C組の登場にグラウンド内は歓声が起きた。アイドルのライブを完璧に表現する為、中塚先輩と数人の3年生は、ヘッドセットマイクを付けて踊りながら口パクで歌うことになっている。

 曲に合わせて踊り始めた俺達。中塚先輩達の応援席や本部に向かって踊り歌う姿は、本物のアイドルにしか見えなくて、観客席に女の子がいたら確実に惚れていたと思う。


 踊り終わった俺達は衣装のまま応援席に戻り、D組の登場を待った。

 …!!

 D組の応援団長である高柳先輩が長ラン姿で1人現れ、朝礼台に登った。その凛としたカッコ良さに思わず息を呑んでしまう。
「D組ーーー!!いくぞーーーーー!!」
 高柳先輩の叫びを合図に、長ランを着たD組の生徒達がグラウンドに走り出した。今年、漢らしさで勝負するのはD組のようだ。
 曲が流れ始め、キレのあるダンスを披露するD組。
「やば!……つうか、いつも可愛らしい生駒先輩が長ラン着てカッコよく踊ってんの、ギャップ萌えやばくね!?」
はーぎーの言葉を聞き、俺も生駒先輩を見た。

 ほんとだ。いつもと雰囲気違う。…きっと内心キュンキュンしてるんだろうな。

 と、横にいる瀬古を見たが、目線が違う方向を向いている。

 あれ?

 瀬古の視線の先を確認すると、そこには朝礼台の上で人一倍キレ良く踊っている高柳先輩の姿があった。

 仲の良い先輩だし、あんなに上手いと好きな人よりも見ちゃうか。

「かっこいいね、高柳先輩」
「うん。…あんな姿見せられて、これ以上好きになったらどうすんだよな」
と瀬古は呟いた。

 え…?これ以上好きに…?

 頭の中がフリーズした後、大混乱を起こす。

 それは人として、先輩として好きってことだよね?だって、瀬古は生駒先輩が好きだもんね?

 改めて瀬古の顔を見たら、高柳先輩をじっと見つめたまま、ほんのり頬を染めている。
「…。」
 それでもまだパニックが収まらない俺は、平然を装って聞いてみた。
「…あんなカッコいいところ見て、勢いで告白しそうにならない?」
「あはっ、確かにな」
そう笑った瀬古を見て、自分のとんでもない勘違いに気がついた。

 瀬古の好きな人は、生駒先輩じゃない。…高柳先輩だ。