文化祭初日。
先輩に絡まれたところを瀬古に助けられ、キュンキュン状態のまま模擬店スペースにいる貝原達と合流した。
「あ、天馬!キイちゃん!こっちこっち」
はーぎーに手招きされ、唐揚げ&ポテトを販売する模擬店の最後尾に並んだ。
「ナイスタイミング!」
「え、何が?」
「さっきちょうどロミジュリカップルが店番になったんだよ」
「あの2人去年の文化祭以降、保護者や他校の生徒にも人気だから、今からお客さん増えるタイミングみたい」
貝原の言葉を聞き、振り返ると俺達の後ろにはすでに5組並んでいた。
「ほんとだ、すごい…」
「ロミジュリカップルって、後夜祭でバンド演奏するんでしょ?」
貝原が瀬古に問いかけた。
「うん、そう言ってたけど」
「カップルでバンドとか最強かよ。…あぁ、共学だったら準備中に距離が縮まって、後夜祭に告白して付き合うとかあったのになぁ」
「そんなイベントマジック、男子校は無縁でしょ」
イベントマジックかぁ…。
やっとレジ前にたどり着くと、レジには生駒先輩、その後ろの作業スペースに高柳先輩の姿が見える。
「いらっしゃいませ。あ、天馬君」
「…お疲れ様でーす」
生駒先輩の微笑みに瀬古が視線を逸らしたように見えたのは気のせいかな?
「高やん、天馬君来てくれたよー」
生駒先輩は高柳先輩を呼んだ。
「お、天馬お疲れー!」
「お疲れっす」
「来てくれてありがと!」
「そりゃあ来ますよ。買わないと皆さん後が怖いんで!」
「おいおい、陸上部のイメージ下げるなよ」
「高やん、お客様待ってるからそこまでね」
「ごめんごめん」
「天馬君たち、注文していいよ」
会話といい、雰囲気といい、高柳先輩と生駒先輩は、安定した熟年カップルって感じだ。
✳︎
初日が無事に終了し、片付けの必要もないため、教室に集まったお魚姿のC組一同は、担任、瀬古と貝原の話を聞いた後すぐに解散した。
ペンギンの被り物を脱ぎ、教室を出ようとした時、瀬古に呼び止められた。
「キイ、ちょっといい?」
「うん?」
誰もいなくなった教室のドアを閉め、再びライトアップされた海の空間を作り出した瀬古。
そのままドアの前で膝を立てて座り、足と足の間をトントンした瀬古に「キイ、こっち…」と言われたから、背を向けてちょこんと間に座った。
ドキドキドキ…ー
「今日、色んな奴と写真撮った?」
「え、あー、うん。他のクラスの子とか、あと先輩達とも…あ、でもあの3人の先輩とは撮ってないよ」
「そっか。キイのペンギン姿ヤバかったもんなぁ」
「そぉかな?瀬古のカニさんの方が可愛かったけどなぁ」
「それはねぇよ。…でも、俺だけの可愛いペンギンなのになぁ」
ぎゅうー…
強く抱きしめられ、鼓動が激しくなっていく。
「はぁー…、やっぱ疲れが吹っ飛ぶわ」
安心し切った瀬古の口調に嬉しさが込み上げる。
「瀬古、朝からずっと忙しそうだったもんね」
「うん、想像以上にバタバタした」
「明日も忙しいと思うけど、無理しないでね?」
「ありがと。……明日の後夜祭、一緒に見ような?」
「うん!」
◇
翌日、2日目を迎えた文化祭。
昨日同様にペンギンの被り物を被っている俺は、サメになっているはーぎーとドア前の廊下で受付中。
そろそろ担当時間が終わる頃、廊下をバタバタと生徒達が走り始めた。
何かあったのかな?
「なになに!?どしたん!?」
はーぎーは、駆けていく他クラスの生徒に問いかける。
「今、サプライズでロミジュリカップルがロミジュリになってるらしい!」
「え、どゆこと!?」
「去年の劇と同じ衣装で2人揃って現れたらしい」
「まじか!!!」
受付が終わった俺とはーぎーは、ロミジュリカップルがいる中庭へ向かった。
「うわ!すげー人だかりじゃん」
「ほんとだね。あの囲まれてる中に生駒先輩達いるんだよね?」
「キイちゃん、俺達もいこうぜ」
「うん」
人だかりの中を進むと、王子様みたいな衣装を着た高柳先輩とロングヘアのカツラにドレス姿の生駒先輩がいた。顔にはちゃんとメイクを施している。
うちの生徒だけでなく、保護者や他校の生徒にも囲まれ、写真を撮られている2人。
「あれで男ってまじかよ。どう見ても女子じゃん!」
こんな美男美女が男子校に存在するんだ…。
初めて生で見るロミオとジュリエットに、はーぎーも俺も驚き感動していた。
2人の去年のロミジュリ姿は画像が出回っているため、1年生含めほとんどの生徒は見たことがある。しかし、自分の目で見る2人は、写真とは比べ物にならないほど華麗で美しかった。
半分放心状態で見ていると、陸上部の1年生数人が2人との写真タイムを始めた。その中には瀬古の姿もある。
「瀬古、ジュリエットの隣譲ってやるよ」
「いや、いいって」
「遠慮すんなって!」
生駒先輩の隣を断る瀬古に高柳先輩が肩を組んだ。
「天馬は俺のジュリエットに手出さないよな!でも、生駒めっちゃ可愛いでしょ?」
「…そうっすね」
顔を覗き込まれてそう言われた瀬古は、ほんの少し頬を染めた。
そうだよね。瀬古から見ても生駒先輩は可愛いよね…。…何だろ、この複雑な気持ち。
✳︎
一般公開の時間が終わり、生徒達は後夜祭に参加する為、体育館へ移動していく。
瀬古達と体育館に入ると、ステージ前は床に座って見るスペース、その後ろは椅子に着席、後方スペースは立ち見となっていた。2階のギャラリー部分はステージからの距離が遠いからか、まだあまり人がいない。
「どこで見るー?つっても前あたりは2、3年が陣取ってんな」
はーぎーはキョロキョロした後、椅子のスペースに進み始める。
「俺、萩原追いかけるけど、瀬古と妹尾は別で見る?」
何を思ってなのか、貝原が尋ねてきた。
せっかくだし、2人で見たい気持ちはあるけど…
チラッと瀬古を見た。
「んじゃ、お言葉に甘えてキイと後夜祭デートしてくるわ」
「分かった。じゃ、また後で」
「おう。…キイ、行こ」
瀬古は俺の手を引き、他の生徒とすれ違いながら後方へ歩き出した。
2人で2階のギャラリーへ移動し、1番後ろの席に横並びで座った。
生徒会長の言葉でスタートした後夜祭。トップバッターは、ダンス部のスペシャルメドレーだった。キレのある男らしい踊りを披露する途中、先生達も加わり館内は大盛り上がり。
「みんなカッコよかったね!」
「だな!」
ダンス部の次は、教員バンドの演奏が始まった。普段寡黙で大人しい印象の先生がボーカルで、ロックなカッコいい曲を歌い始めると、生徒達の熱気は急上昇。男子ならではの野太い声が館内に響き渡る。
「ギャップえぐいな」
「あれはファン増えるね」
そして、大注目のロミジュリカップル率いるバンドがステージに登場した。ボーカルは生駒先輩、ドラムは高柳先輩、残り2人の先輩がギターとベース担当のようだ。
「あ、あのベースの人、バレー部だった人だよね?えっと、中塚先輩だったかな」
「え…あ、ほんとだ。だから貝原知ってたんだな」
高柳先輩達の演奏が始まって数分。ずっと黙って聴いていた瀬古が口を開いた。
「あのさ、キイに伝えておきたいことがあって…」
「…うん」
瀬古はいつもより少し緊張した顔を見せる。
あれ、これはもしかして……
「俺…」
後夜祭で告白するっていうイベントマジック…
「好きな人がいんだよ」
「…うん」
ついに俺達も正式なカップルに…
「1番近くにいるキイには応援してほしくてさ」
…んん!?
「今んとこ脈なしだし、上手くいく自信ねぇけど……卒業までに気持ち伝えてーなって」
そう言った瀬古は、ステージを切なさ混じりの表情で見た。
俺も瀬古の視線の先を確認すると、そこには透き通った声で歌う生駒先輩の姿があった。
「……。」
え、瀬古の好きな人って…俺じゃなくて…
「…先輩のこと…好きだったんだね」
嫌なドキドキを感じながら、恐る恐る声に出してみた。
お願い。…違うって言ってよ。だって瀬古は…俺のことが……
「うん、すげぇ強敵なライバルがいるけどな」
瀬古は少し困った笑顔を浮かべた。ライバルは高柳先輩のことだろう。
「……。」
誰よりも俺を姫扱いする瀬古の好きな人は自分ではなく、絶対的な姫ポジの生駒先輩だった。
「他の奴には内緒な」
照れ臭そうに言った瀬古からは、俺といる時とは違う幸せそうなオーラが放たれている。
「……2人だけの秘密だね」
精一杯の笑顔を作った俺の心は今にも壊れそう。
…全部腑に落ちた。瀬古が普段からロミジュリカップルに興味が無さそうだったのも、昨日の模擬店で生駒先輩の微笑みに顔を逸らしたのも、今日高柳先輩から生駒先輩を可愛いかと聞かれた時の照れも……全部全部生駒先輩が好きだからだ。
そりゃあ、好きな人が偽カップルとはいえ他の男子とイチャイチャしてるの見たくないよね。好きがゆえに恥ずかしくて目が合っても逸らしちゃうよね。本人の前で可愛いって認めるの好きバレしそうで頬染まるよね。
そんなことにも気付かず、告白されるかもなんて浮かれていた自分が馬鹿みたいだ。
みんなと同じで、瀬古にとっても俺は姫ポジでしかなかったんだ。
こんな勘違い姫ポジの人間が、絶対的姫ポジの先輩に勝てる!?



