姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 土曜日の13時過ぎ。駅の改札口付近でそわそわする俺の元へ瀬古がやって来た。
「キイ!」
 今日は約束のデート日。
「悪りぃ、待たせて」
「ううん、俺もさっき着いたとこだから」
 平然を装っているけど、久しぶりに見た瀬古の私服姿にキュンとなっている。

 土曜日の午後なのに電車内は空いていて、2人並んで座ることができた。
「家帰ってシャワー浴びたんだけど、もし汗臭かったらごめんな」
「ううん、全然臭くないから大丈夫だよ。俺こそ、家から電車乗るのギリギリになって走ったから汗臭いかも」
 そう言った瞬間、瀬古が俺の首筋に顔を近づけてクンクン嗅いできた。

 …っ!?

「…いつものキイの匂いだけど」
 至近距離で特別な関係だと思わせる言葉を言われ、自分の鼓動が早くなるのが分かった。
「…ならよかった」

 ✳︎

 駅を降りて10分ほど歩いたら
「今日は……水族館デートでーす!」
と、瀬古が水族館の入り口前で足を止めた。
「…わぁ、水族館だ!着くまで全然気づかなかったよ」
「文化祭の展示が海に決まった時から来たいと思ってたんだよなぁ。さすがに1人で行くのつまんねーし、せっかくならキイとデートしたいなって」
「嬉しい!」


 受付でチケットを購入して、大勢の人がいる薄暗い展示スペースへ進んでいく。
「ここの水族館、規模はおっきくないからショーとかはねーけど、アート型?だからオシャレに展示してんだってさ。教室展示の参考になりそうじゃね?」
「うん、そうだね」
「いつもはあんま写真撮らねーけど、みんなに見せるために今日はいっぱい撮らなきゃな」
「俺も撮るよ。藤くんにクラゲの写真見せたら喜ぶと思うし」

 幻想的な館内に展示されている水槽を一つ一つじっくり見て、スマホの写真に納めていく俺と瀬古。
「あ!キイ、クラゲいたぞ」
「ほんとだ!…わぁ、綺麗ー」
 ピンクや紫にライトアップされたクラゲの水槽は美しくて、自然と体が引き込まれていった。
 写真を撮るのも忘れて、ぷかぷか泳ぐ水槽のクラゲたちを見ていたら、俺を後ろから包み込むような体勢で瀬古もクラゲを見始めた。

 ドキッ…

「ほんとすげぇ綺麗だし、なんか癒されるな」
「うん…」
 周りに沢山知らない人がいるのに、瀬古に学校と変わらない接し方をされ、恥ずかしさと嬉しさが混じってよく分からない気持ちになっている。

 ✳︎

 楽しかった余韻に浸りながら水族館を出た。
「ショーとか無くても十分楽しめたな」
「そうだね」
「キイ、まだ時間大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「んじゃ、少し早いけど夜飯食いに行こうぜ」
「いいね、賛成!」


 やって来たのは、瀬古おすすめのラーメン屋さん。
 別に本当の初デートでもないし、男女でもないし、ラーメン好きだし、夜ご飯のお店にロマンチックさは求めてないけど…

 …ただの友達感が否めない。

「ここのラーメンすげぇ美味いから、キイにも食わせてやりたいなぁってずっと思ってたんだよ」
 カウンター席で横に座る瀬古は笑顔でそう言って、メニュー表を渡してきた。
 さっきまでラーメン屋なことにモヤついていたくせに、俺の事を考えてくれていたんだと分かり「ありがとう!」と上機嫌でメニュー表を受け取った。


 ラーメンのデメリットは、すぐに食べ終わってしまうこと。瀬古おすすめのラーメンは、本当に美味しくて、あっという間に完食してしまった。
「ごちそうさまでした。すっごく美味しかったぁ」
「だろ?……水族館行って、ラーメンの美味さ共有できて、キイとデート出来て大満足だわ!付き合ってくれてありがとな」
「俺の方こそ、色々プラン決めてくれて、部活終わりで疲れてるのに遅くまでありがとう。すごく楽しかったよ」

 好きだと確信してたから、瀬古といる時間が楽しくてドキドキして幸せで仕方ない。

 ◇

 それから毎日、瀬古と貝原を中心にクラス全員で展示物の作製を頑張ったC組。瀬古が提供した写真や動画のおかげで、みんなのイメージも濃いものになり、作業は捗った。

 そして迎えた文化祭前日。
 無事に全ての展示物、装飾が完成し、全員が見守る中、最終確認を行っていた。
「じゃ、電気消しまーす」
貝原がドアと窓を閉め切った教室の照明を消した。
「おぉーー!!」「すげーー!」
 薄暗い空間の中にライトアップされた魚やクラゲ、大きなシャチなどが輝いている。まるで海の中にいるかのような演出にみんな感動していた。
「え、やばくね!?俺ら天才じゃね!?」
シャチ班のはーぎーは大興奮。
「いや、これマジで金取れるレベルだろ」
「だよな!展示部門優勝間違いないな!」
「めちゃくちゃ映えるし、女子ウケバッチリだなこれ」
「くそぉー、なんで開催が平日なんだよー!見にくる女子が少ねぇーじゃんかよー」
 今年の文化祭は2日間とも平日開催だ。両日とも一般の方々の参加可能だが、土日開催に比べて他校の生徒が来る確率は低い。年に一度しかない他校の女の子と関われる貴重な機会が奪われ、絶望している生徒が大半だった。

「女子のために作ったんじゃねぇのにな」
 はーぎー達がわちゃわちゃしているを見ていたら、瀬古が肩を組んできた。
「そうだね。でも、女の子が見てくれるっていうのも、やる気の源になったんじゃないかな」
「まぁな。…つーか、水族館デート思い出すの俺だけ?」
「……俺も思ってた」
「だよなぁ!」
と言って俺の方へ体を向けた瀬古は、空いてる方の腕も使って、横からハグをしてきた。
「明日から楽しもうな」
「…うん!」

 ◇

 文化祭1日目。
 朝のC組教室内、円陣を組んでいる俺たちは、みんなイルカやタコ、カメなどの顔が出るタイプの被り物をしている。
 カニの被り物をした瀬古が掛け声を始めた。
「えー、今日明日、俺たち可愛い海の生き物含めて最高の展示をお客様に楽しんでもらいましょう!目指すは展示部門優勝。1のCやったるぞーーー!!」
「「おぉーー!!!」」

 今日明日は、入り口で来客数を把握する受付係と教室内の展示案内係をみんなで順番に行う。俺は午前中にサメの被り物をしたはーぎーと受付をする予定。
「キイちゃんのペンギン姿可愛いなぁ」
「キーちゃん、一緒に写真撮ろ」
「うん」
 クラスメイト達と写真タイムを楽しんでいると、文化祭開始のアナウンスが流れた。

 初めての文化祭、楽しみだなぁ!

「キイちゃん、行こうぜ!」
「うん!」
 受付までの間、はーぎー達数人と他のクラスの展示を見ることにした。海の生き物の被り物をして校内を歩くことは、C組の宣伝活動も兼ねている。
 実行委員の瀬古と貝原はクラスのことだけじゃなく、校門での学校受付や校内巡回などもしなくてはならないらしく忙しいようだ。
「まずは…F組のジェットコースター行くか!」
「俺らが企画書負けしたやつな。お手並み拝見しとくか」


「ひゃっほーい!」
 F組のジェットコースターは想像以上にクオリティが高く、すごく楽しむことができた。多分、C組が作ってもここまでのレベルは無理だったと思う。

 その後、B組のモザイクアートやA組のお化け屋敷を満喫し、俺とはーぎーは受付の仕事をするため一度C組の教室へ戻った。

 教室に着き中を覗くと、室内は保護者や他校の生徒でとても賑わっている。
「おぉ、大盛況じゃん!」
「ほんとだね!良かった良かった」

「お疲れー」
 受付中、貝原が様子を見にきた。
「貝原お疲れ!あれ、天馬は?」
「なんかマダム達に捕まって、案内してる」
「あはは、なんだよそれ」

 今日は全然瀬古と話せてないなぁ…。

 受付が終わり、はーぎー、貝原と模擬店へ行く事にした。
「俺、トイレ行ってくるから先に向かってて」
「はいよー」

 用を足しトイレから出たら、ちょっぴり柄の悪い2年生の3人組が入ろうとしていた。
「お、希一君じゃん」
「あ、お疲れ様です…」
「キイちゃんペンギンかわいー。え、触っていい?」
「どうぞ」
「もふもふだー。つか、1人?」
「あ、いえ…」
「せっかく会えたし、一緒に回ろうよ。ちょっとでいいからさ、ね?」
「可愛いキイちゃんと思い出作らせてよぉ」
「希一君は、みんなのお姫様だもんなぁ!」
先輩達に腕を掴まれてしまった。

 うわ、どうしよう……

「俺のキイにちょっかい出さないでもらえますか?」

 …!!

 突然現れた被り物をしていない瀬古が、俺を連れて行こうとする先輩の腕を掴んだ。
 瀬古の冷たく牽制するような雰囲気に先輩達は一歩後ろへ下がった。
「悪りぃ悪りぃ。ちょっとからかっただけだって」
「んな怖い顔しないでよー。せせカップル?の邪魔する気ないっつーの」
 先輩達は面倒くさそうに去っていった。

 悪者を退治して守ってくれるとか…俺の彼氏(仮)ヒーロー過ぎませんか!?

「キイ、大丈夫か?」
「うん…ありがとう」
「まじ心配だから、1人で行動すんなって」
「ごめん…」
「別に怒ってるわけじゃねぇよ。キイに嫌な思いしてほしくねーだけ。…よし、はーぎー達んとこ行くか」
「…うん」
 瀬古に手を引かれ、ゆっくり歩き出した。

 あぁ、好きが止まらない。