姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 瀬古達との旅行初日。
「おっしゃ!楽しむぞ!」
「いぇーい!プール最高!!」
「2人とも走らないようにね」
 水着姿の瀬古とはーぎーは、ホテルに併設されたプールで大はしゃぎ。
 宿泊者のみが利用出来る豪華なプールがある、それが俺達がこのホテルを選んだ理由の一つ。


 途中、瀬古と2人で流れるプールを楽しんでいた時。普段は制服や体操服越しにしか触れ合わないせいか、直接肌と肌が触れ合うことに少し照れてしまった。

 さすが陸上部。細マッチョで良い体してるんだよねぇ…。

「水に濡れてるキイ可愛い」
「…どういう意味なのそれ…」
「何しても可愛いってこと」
 瀬古の目には俺がどう映っているんだろう。


 手のひらや指先がしわくちゃになるほどプールで遊んだ後は、ホテルを選んだ二つ目の理由である豪華な夕食バイキングを楽しみ、ホテル内の大浴場に向かった。
「プールで遊んで、バイキングで目一杯食って、でっけぇ風呂で疲れ取って…え、最高過ぎじゃね?」
「それな。部屋戻ってふかふかのベッドで寝て、明日は朝の美味いバイキング食って、昼間は観光して、電車で寝ながら帰る。…うわ、充実感やばくね?」
「来年は受験生だし、今年のうちに色々イベントや遊び楽しみたいよね」
貝原の言葉に3人で深く頷いた。

 ✳︎

 お風呂でしっかり温まり、ほかほか気分で部屋に戻った俺達。
「あとは寝るだけだな!どーする?どのペアで寝る?」
はーぎーの問いかけに貝原は冷静に答える。
「聞くまでもないって。瀬古は妹尾と一緒がいいんでしょ?」
「貝原、分かってんじゃん。さすが!」
「えー、俺だってキイちゃんと同じベッドで寝てみたーい!」
「萩原諦めなよ。妹尾と寝てても瀬古がベッドに侵入してくるだけだって」
「はーぎーは次回な」
そう言って俺の手を引き、窓際のベッドに腰掛けた瀬古。


 消灯した室内で、隣のベッドに寝転んだはーぎーと貝原はすぐに寝息を立てた。
「2人とも寝るの早っ」
「ふふっ、ほんとだね」
俺の身体にぴったり沿う形で横になっている瀬古は驚いている。
「え、泊まりの醍醐味って寝る前の恋バナや暴露大会じゃねーの?」
「朝早くから動いてたし仕方ないよ。瀬古は眠くないの?」
「うーん、もうちょいキイと喋ってたい。…キイ、今日楽しかった?」
「うん、すごく楽しかったよ」
「よかった。…去年はキイと全然夏休み遊べなかったから、思い出作れて良かった」
「俺も」

 去年の夏休みは、瀬古への気持ちが恋なのかどうか1人で悩んでたなぁ。懐かしい。

 多分去年ならこんな風にベッドの上で密着していたら、心臓が張り裂けるほどドキドキしたと思う。
 今、冷静でいられるのは奈留君と良い恋をしているから。瀬古に対して勘違いはしないって心に誓ったから。

 ◇

 翌朝目覚めると、瀬古に後ろから抱き枕みたいにホールドされた状態だった。
「…。」
絡んだ手足を避けても瀬古はぐっすり眠っている。

 はーぎーと貝原が起きて、朝食バイキングへ行く時間になっても瀬古は夢の中。
「天馬、全然起きねぇじゃん」
「爆睡だね。昨日はしゃぎ過ぎたんじゃない?」
「そうかもしれないね」
「いっぱい食いたいし、俺ら先に行っとくなー」
「うん」

 再びベッドサイドに座って瀬古の身体を軽く揺らした。
「瀬古ー、起きてー」
「んー…」
「朝食バイキング間に合わなくなるよ?瀬古楽しみにしてたじゃん」
一向に起きる気配のない瀬古。顔を近づけて呼びかけてみる。
「…おーい!天馬くーん!!」
 普段と違う呼び方が刺激になったのか、瀬古がようやく薄っすら目を開けた。
「……。」
「あ、やっと起きた。瀬古、朝ご飯…」

 ちゅ…

 …えっ…

 仰向けで寝転んだまま、俺の後頭部に片手を添え、グイッと引き寄せてキスをした瀬古。
「…。」
そして、何も言わずに再度目を閉じてしまった。

 え、今…えっ!?唇と唇が…当たったような…いや、うん、絶対触れた。えっと…これはつまり…キス!?

 これまで散々瀬古からのバグった接し方を経験してきた。手を繋ぐ、色んな角度からハグ、おでこにキス……だけど、唇へのキスをされたことはない。その一線だけは越えないことが、せせカップルとして大事なことで…。

 ていうか、瀬古寝ぼけてたよね!?だってまたスヤスヤ気持ち良さそうに寝てるもん。…ってことは、ノーカンになるの!?え、俺1人の記憶に残るってこと!?

「いやいや…だめだよ絶対…」

 ✳︎

 結局、瀬古が1人で朝食バイキングの会場に来たのは40分後だった。
 恥ずかしくて瀬古から視線を逸らす俺とは正反対に、瀬古はいつもと変わらない様子。やはり寝ぼけていたんだと分かったものの、すぐに切り替えられるほど俺は大人ではない。


 ホテルをチェックアウトした後、近くの観光スポットを巡ったり、かき氷を食べたりして、2日目の旅行を満喫した俺達4人。
「…。」
どんなに楽しんでいても、不意に今朝のキスを思い出してしまい、瀬古に対してぎこちなくなってしまったのは言うまでもなく…。


 帰りの電車内、もちろん俺の隣には瀬古が座る。
「この車両すげぇ冷房効いてて助かるー」
「…そう、だね」
「ふわぁー…、とりあえず寝るか」
瀬古は腕を組んで寝始めた。向かいの席に座るはーぎーと貝原もウトウトしている。
「……。」
 今瀬古の寝顔を見るのは避けたくて、俺もそっと目を閉じてみたけど、全く眠くない。

 奈留君を好きだと自覚してから、何をされても瀬古にドキドキすることは無かった。なのに…なのにどうして寝ぼけてされたキスにこんなに動揺しているんだろう。

 ◇

 旅行から1週間。奈留君と以前話していたクレープ屋さんへ向かう途中。
「キイ君、どうしたの?」
不意に奈留君に顔を覗き込まれた。
「…え、何?」
「なんかぼーっとしてるなと思って。何か考え事?」
「…えっと…」

 瀬古の寝ぼけキスについて悩んでいるなんて奈留君に言えるわけない。というか、言いたくない。事故チューみたいなものだとしても、奈留君を嫌な気持ちにさせてしまうのが分かるから。奈留君を悲しませたくない、裏切りたくない…好きだから当たり前。じゃあ、どうして俺が男友達である瀬古とのキスを引きずるのか…。

「…クレープどの味にしようかなって考えてて…」
「ふふっ、キイ君かわいいなぁ。シェアして食べようね」
「うん」


 クレープ屋さんに着くと、4、5組の列が出来ていた。
「わぁ、人気なんだね」
「ほんとだね」
 列に並んですぐに俺達の後ろにも人が並んだ。
「…キイ?」
聞き慣れた声が聞こえて振り返ると
「あ、瀬古」
制服姿の瀬古が陸上部数人と並んでいた。
「天馬君、久しぶり!」
「えっ!?生駒先輩!?」
 瀬古の驚きが奈留君がいることに対してなのか、奈留君と俺が一緒にいたことに対してなのかは分からないけど、心底驚いている様子。
「わぁ、お久しぶりです!」
「生駒先輩、元気でした!?」
陸上部員達が奈留君との再会に興奮し、前のめりに話しかける。
「みんな久しぶり。俺は元気だよ。みんなは部活帰り?」
「そうっす!」
「てゆーか、生駒先輩とキイちゃんってめちゃくちゃ仲良いんスね!」
「思ったそれ!2人の卒業式のツーショットが生徒間で出回ってたけど、卒業しても遊ぶぐらい仲良しなのはびっくり」

 どうしよう…バレちゃう!?

「卒業しても姫同士仲良くしてるんだぁ。ね、妹尾君」
「あっ…はい、そうですね」

 瀬古達と話しているうちに俺と奈留君の注文の番が来た。後ろから会話を聞かれているため、俺は久しぶりに奈留君に対しでずっと敬語で喋っている。奈留君に妹尾君と呼ばれ、付き合う前を思い出してしまう。

 商品受け取り口に移動した俺と奈留君は、小声でこっそり会話をする。
「なんかぎこちなくなっちゃうね」
「うん。ついタメ口が出そうになる」
「ふふ、あと少しの我慢だ」

 クレープを受け取り、瀬古達とさよならした俺と奈留君は、少し歩いて道沿いのベンチに腰掛けた。
「いただきまーす!」
「いただきます!」
「…ん!美味しいっ!」
「美味しいー!キイ君もこっち食べてみて」
「ありがとう」
差し出されたクレープにかぶりついた。
「うわ、美味しい!」
「でしょ?…キイ君、付いてる」
奈留君が人差し指で口元についたクリームを取ってくれた。
「ありがと。…俺のも食べ…」
「キイ」
クレープを奈留君の口へ運ぼうとした瞬間、突然現れた瀬古は、手にクレープを持っていない。
「えっ、瀬古どうしたの!?」
俺の問いかけをスルーした瀬古は奈留君の前に立った。
「あの、生駒先輩…」
「…うん?」
「俺、卒業したらキイと正式に付き合う予定なんで」
「…っ!?」

 え、え、ええええ!?!?