姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 2週間が経ち、テスト週間に突入した。
「ふぅー、休憩…」
 夜、自分の部屋で勉強をしていた俺は、スマホに通知が来ていないか確認をする。

 返信来てない…。

 奈留君から返信が来ていないことにほんの少し落ち込んでしまう。今は奈留君も前期テストに向けて勉強中のため、お互いのテストが終わるまで3週間近く会えない。

 こんなに会えないの初めてだ…。ゔぅー、辛いよぉ、寂しいよぉ。耐えられる気がしない。世の中の遠距離恋愛してるカップル、本当に心から尊敬します。

「はぁ…でも、こんな事で弱音吐いてたらいけないよね。良い点取って、奈留君に褒めてもらおっと」

 ◇

 期末テストをやり遂げ、夏休みまであと1週間。
「キイちゃーん。お迎えにあがったぞぉー」
 放課後、D組の教室にはーぎーが迎えに来てくれた。
「ありがとう、はーぎー」
「くっそ。俺だって部活が休みなら行ったのに」
俺の後ろをついて来た瀬古は不満そうだ。
「あはは、別に昼食うぐらいいいじゃんか。あ、でも何気に2人で外食すんの初めてじゃね?」
「あ、たしかにそうだね!」
「いぇーい!キイちゃんと初2人外食ー!」

 ✳︎

 はーぎーがお昼ご飯に連れて来てくれたのは、お蕎麦屋さん。
「はーぎー、渋いお店知ってるの凄いね!」
「意外っしょ?ここの蕎麦すげぇ美味いから」
「そうなんだ、楽しみ!」

 美味しいお蕎麦を食べているからか、いつもよりはーぎーのテンションが落ち着いている気がした。
「そういや、あれからルーキー君とはどう?」
「宇治原君はねぇ、学校で会ったら少し立ち話したり、たまに連絡くれたりするけど、特に変化はないよ」
「そっか。じゃあ、天馬も安心だな」
「だと思う。瀬古もなんだかんだで後輩としては、宇治原君のこと気に入ってるからね」
「あはっ。ま、基本的に天馬は学年関係なく誰とでも仲良くなれる人間だしなぁ。ルーキー君も天馬に憧れるかもよ?」
「ふふっ、そうかもね」
「……キイちゃんってさ」
「うん?」
「好きな人いる?」
「えっ」
 突然の質問に箸の動きが止まる。
「いや、キイちゃんって色々役割っつーか、立場があんじゃん?俺らとの仲良し4人組、校内でのせせカップル、みんなにとっての姫ポジ。でもさ、どこにも恋愛の要素ないだろ?せせカップルもみんなを楽しませるエンタメみたいなもんだし。ま、天馬はたまに度を越してるけどな。だからキイちゃん、周りに言えないだけで恋愛してたりすんのかなぁって勝手に思ってさ」
「…。」
 奈留君と付き合っていることは今だに誰にも言っていないし、高校卒業するまでは言わないつもりだ。

 仲の良いはーぎー達への隠し事をまだ続けなくちゃいけないのは心苦しいけど…。

「…好きな人、いないよ。出会いもないし」
「…そっかそっか。いつも俺らを癒してくれてるキイちゃんには幸せな恋してほしいからさ、好きな人出来たら教えてな!」
「…うん、ありがとう」

 ◇

 翌週、終業式の日。1学期最後のホームルームが終わった教室内では、何故か俺を愛でるタイムが始まっていた。
「キイちゃーん、夏休みの間会えないけど元気でなぁ」
 一部のクラスメイト達が1列に並び、順番に俺をハグして夏休み前の別れの言葉を伝えていく。
「暑いから身体に気をつけるんだよ、キイたん」
「うん、ありがとう」
「暇な時はいつでも遊びに誘ってな!キーちゃんのためなら飛んで行くから!」
「うん、都合合えば誘わせてもらうね」

 有難いけど…何なんだろう、この時間…。


 みんなを見送り、教室には俺と瀬古だけになった。
「今日も練習頑張ってね。暑いから熱中症には気をつけて」
「ありがと。…今年は俺、短期バイトしねぇからいっぱい遊ぼうな!」
「うん、もちろん。来月の一泊旅行も楽しみ!」
「同じく。…早く来てほしいけど、旅行終わったら夏休みの終わり迫ってくるから複雑だけどな。何で夏休み短いんだろ」
「せめて8月末まで夏休みならいいのにね」
「ほんとそれ。……そろそろ行くか。キイ、1学期も色々ありがとな」
「どうしたの急に。…こちらこそ、いつも気にかけてくれてありがとう」
「あたりめーだろ。キイを守んのが俺の役目なんだから」

 キイを守る…。多分瀬古は、自分のことをお姫様と一緒にいる王子様じゃなくて、お姫様を守る騎士とでも思っているんだろうな。だから前に言われた、俺の姫でいてって言葉もずっと守らせてって意味で、それ以上の深い意味はないのかもしれない。

 ✳︎

 一度家に帰った俺は、お昼ご飯や着替えなどを済ませて、太陽が照りつける中、再び外へ出た。


「奈留君!」
「キイ君!」
 誰もいない奈留君ん家の玄関ドアが閉まった瞬間、お互いに気持ちが抑えきれずすぐさま抱きしめ合った。
「…会いたかったぁ」
「俺もだよ」
「…死ぬほど寂しかった」
「うんうん、ほんとに寂し過ぎた」
「俺、遠距離無理だって思った…」
「分かる。耐えられないよね」
「うん。…ただどうしても、仕方なく遠距離になっちゃったらその時は耐えようね。別れる方が断然無理だから」
「そんなの当たり前だよ。俺がキイ君のこと手放すわけないじゃん」
「ふふ、嬉しい。俺も奈留君から絶対離れない」
「うん、知ってる」
 再会早々バカップルみたいな事を伝え合って、久しぶりに奈留君の体温を感じて安心する。


 止まらない喜びのまま、たくさん愛を確かめ合った俺と奈留君は、上半身裸姿でベッドの上に寝転んでいた。向かい合って手を握り、会えなかった分を取り戻すように会話を重ねる。
「この前はーぎーとお蕎麦屋さんに行ったんだけど、すごく美味しかったから今度奈留君とも食べに行きたいなぁって」
「いいね、お蕎麦。夏はさっぱりしてるもの食べたくなるしね。あ、俺もさ、大学の帰り道に美味しそうなクレープ屋さん見つけたんだ。今度一緒に買いに行こう」
「うん、行く!」

 付き合ってもうすぐ7ヶ月。ケンカもなく、穏やかに仲良く過ごせたのは奈留君のおかげだ。本当は、こんな素敵な恋人がいることをみんなに伝えたい、めちゃくちゃ自慢したい。

「キイ君夏休み、どこか行きたいとこある?」
「そうだなぁ…あ、花火大会行きたいな!」
「いいね、花火大会。後で日にち調べてみよっか」
「うん。奈留君はどこ行きたい?何したい?」
「うーんとねぇ、色々行きたいし、こうやって涼しい部屋でまったりしながらアイスとか食べたいかな」
「それ最高だね。アイスパーティーしちゃおうよ」
「ふふ、想像しただけで楽しいの確定してる」

 ◇

 あっという間に8月に入り、約束通り奈留君と花火大会に行ったり、アイスパーティーをしたりして楽しんでいた。

 そして今日から瀬古達と1泊2日の旅行に出掛ける。
 早朝の駅に集まった俺達4人。ここから2時間半ほど電車に乗って移動するため、その間車内で寝る予定。
「キイ、俺の肩にもたれかかっていいからな」
 電車に乗り込み、隣に座る瀬古は自分の肩をトントン叩いた。
「ありがとう」

 ✳︎

 無事に一つ目の目的であるホテルに到着した。
「おぉー、すげぇー!」
「ネットより実際の方が綺麗だな」
「だな!学生向けプランで安く泊まれて良かったぁ」
 チェックインを済ませ、4人で部屋に向かった。

「わぁ、部屋もきれーい!!」
「え、つーかオーシャンビューじゃね!?」
「うお、まじじゃん!!」
 部屋の窓からの眺めは最高で、4人ともワクワクが抑えきれなかった。

 外の景色を確認した後、部屋の中を見渡す。

 ダブルベッドが2つ…。節約も兼ねてただから仕方ないけど…俺、誰と寝るんだろ。

 俺の視線の先がベッドであることに気付いたのか、瀬古が耳元でこっそり囁く。
「俺と寝るに決まってんだろ」
「…。」

 この2日間何も起こらないといいけど…。