翌週、3人で遊ぶ日の午後。電車を降りた俺は待ち合わせ場所へ向かった。
あ!
待ち合わせ場所で待っている宇治原君は、周囲の人より顔一つ分ほど飛び抜け、すごく目立ち見つけやすかった。
「宇治原君!」
「あ、こんにちは」
「待たせてごめんね」
「いえ。オレが早く着いただけなので」
たしかにまだ10分前だ。先輩を待たせてはいけないと思うところ、真面目で素晴らしい。…それにしても、私服姿になると一気に大人っぽくなるね、宇治原君。
瀬古も合流して向かったのは、サッカースタジアム。色々迷った挙句、3人でサッカーの試合を観戦することになった。
スポーツ観戦なら試合中は会話がなくても大丈夫だし、応援するうちに仲良くなれそうだしね!
ワンハンドグルメや飲み物を買って、座席に移動中。
「宇治原君は、スポーツ観戦よくするの?」
「はい、バレーやバスケとか、室内競技はちょくちょく観に行きますね。でも、生でサッカー観戦するのは初めてです」
「そうなんだね」
「妹尾先輩は初めてですか?」
「うん、プロのスポーツ観戦を実際に見るのは初めて!だからすごくワクワクしてる!」
「…可愛いスね、妹尾先輩」
「…え」
「おい、勝手に口説くなよ」
瀬古がグイッと空いてる方の手で俺の肩を抱き寄せ、宇治原君から遠ざける。
あ、俺いま口説かれたの!?男子に対して、可愛いって口説き文句になるの!?
「いいじゃないですか、みんなの姫なんスから」
「みんなのじゃねぇよ。キイは俺んだから」
「…。」
“キイは俺の”……このセリフを何十回、何百回と聞いてきた。瀬古は卒業するまで言い続けてくれるんだろうか。
「2人とも、ケンカするために来たわけじゃないんだから仲良くして!…ほら、席ここだよ」
もちろん、俺が真ん中の席。
✳︎
試合は大いに盛り上がり、応援していたチームが勝利し、3人で喜びを分かち合った。
普段からスポーツをしている側の瀬古と宇治原君は、俺とは視点が違うなと思う瞬間もたくさんあって、応援している2人を見るのも楽しかった。
「いやぁ、まじで良い試合だったな!」
「ですね。特に後半戦は痺れました」
「分かる。延長線になってもおかしくねぇレベルだったしな」
やっぱりこの2人、相性良いよね。
「熱中してたら腹減ったー。なんか食いに行こうぜ」
「そうだね。宇治原君、何食べたい?」
「がっつきたいんで、牛丼とかですかね」
「お!牛丼いいじゃん!」
「じゃあ、近くの牛丼屋さん行こっか」
牛丼を食べて始めてからも、瀬古と宇治原君のサッカートークは終わらない。
食後のデザートとして頼んだシェイクを飲む俺は、2人の話を相槌を打ちながら聞いていた。俺の横に座る瀬古は向かいに座る宇治原君の意見に共感している。
「あー、分かるわそれ」
「ですよね」
次の瞬間、瀬古は何も言わずに俺の腕を軽く引き寄せ、シェイクのストローに口をつけて吸った。
…っ!?
「…なにこれ、うま」
「……勝手に飲まないでよ」
「だめだった?」
「だめじゃないけど…」
間接キス久々な気がする…。別に変なドキドキはしてないけど…。
「せせカップルって、ほんとにせせカップルなんスね」
やりとりを見ていた宇治原君が口を開いた。
「ん?どゆこと?」
「学校内で見るより今の方がよりカップルっぽいというか…しっくりきました」
「しっくり…」
「みんな誤解してんだよ。俺とキイが人前でだけイチャイチャしてるって。んなことねーのよ。俺らの仲睦まじさは他人の目とか関係ねぇから。…つーことで、キイのことは諦めろな?」
「検討します」
「あはっ、検討かよ」
「…。」
瀬古の表情や雰囲気から焦りや苛立ちが消えたのが分かった。
◇
数日後の教室では、席替えが行われていた。
「はーい、じゃあ移動してー」
担任の指示で各自新しい席へ移動する。
「あ、藤くん」
窓際、後ろから2番目の席になった俺の隣の席は藤くんだった。
「よろしく」
「うん、よろしくね」
「俺もよろしくな!」
瀬古が藤くんの右隣から声をかけた。
「…せせカップルに挟まれた」
藤くんの小さな呟きに周りのクラスメイトは笑い始める。
「どんまい、藤!」
「あはは!休み時間ごとに瀬古から席代われって言われるぞ」
「別にそんな嫌がらせみてーなことしねぇよ」
「ほんとかー?」
「だって、俺がキイの席に行って、膝に座らせるから」
「つまり藤は毎回見せつけられるのか。うん、やっぱどんまいだな」
✳︎
放課後、窓の外は雨が降り始めていた。
そろそろ梅雨入りかもなぁ…。
みんなが教室を出ていく中、部活休みの瀬古は席に座ったままだった。
「瀬古、帰らないの?」
「傘忘れてさ、雨雲レーダー見たら30分くらいで止むっぽいから、ここで時間潰し」
「…じゃあ、俺も残ろうかな」
「え、キイ傘あるだろ?」
「うん、折り畳みがある。けど、30分なら一緒に待った方が楽しくない?」
「ときめき殺しにきてんじゃん。…ありがとな」
「ううん。あれなら図書館で時間潰す?」
「キイと2人の方がいいから、このままでいいよ」
2人で他愛ない話をする間、瀬古は藤くんの席に座っている。
「6月ってさ、楽しい学校行事何も無いし、祝日はねぇし、ジメジメするし、ほんと残念な月だよな」
「まぁ、出席するのが1番多い月だよね」
「だろ?やる気も損なわれるわ」
「瀬古は、いつもやる気いっぱいに見えるけど?」
「え、そうか?」
「うん、俺の中では無気力な瀬古は存在しないよ」
「なんだよそれ。…俺だってやる気でねぇって日普通にあっから。」
「そういう時はどうするの?」
「楽しい事探すか、自分にご褒美を与える」
「ご褒美…」
「あ、そういやまだキイから褒美もらってねぇんだけど」
「え、ご褒美?」
「スポーツ大会のご褒美」
あぁ、そんな約束したような…。
「何にするか決まったの?」
「うん」
椅子から立ち上がった瀬古は俺の前にしゃがみ、両手を握ってきた。
「……キイ、卒業してもずっと俺の姫でいて」
「……。」
予想外の言葉に対して思考が追いつかず、ただただ瀬古の顔を見ていた。
「…なんかご褒美っつーか、お願い?我儘?になったわ」
ふっ、と小さく笑った瀬古を見て、自分の感情がぐるぐる回り出す。
これって、同じ大学に行こうって意味?ずっと親友でいようって意味?それとも…俺と一生を添い遂げたいって意味?
いや、別に好きって言われたわけじゃないし。ていうか、瀬古から可愛いとか俺のものとか特別感あることは言われまくってても、恋愛として好きって言われたことは一度もない。なのに未来形で言われた事が初めてで、勝手にドギマギしている。
そもそも、瀬古に告白されても俺には奈留君がいるから断る以外の選択肢は無いんだよ。残りの高校生活をせせカップルとして生きていくには、お互い恋愛感情なんか持たずに演じ切るのが1番。
「キイ、何でずっと黙ってんの?」
「…あ、えっと…」
「あ、返事考えてる感じ?」
「う、うん…」
「キイ真面目過ぎ。今は適当にいいよって言えば済む話じゃん」
「えっ」
あれ、俺また勘違い発動してた?深刻に受け止めすぎた?そっか、今は適当に…ん?今は?
「卒業する時にもっかいお願いするから、そん時に正式に返事ちょうだい」
「……え」
「だから今は嘘でいいから、いいよとか、そばにいるよとか言っといてくれ」
ニカッと笑った瀬古を前に、またぐるぐる回る感情。
…考えても仕方ない。瀬古の本当の気持ちなんていつだって分からないんだから。振り回されてるのはいつも俺なんだから。
「…うん、いいよ」
「やった」
そんな嬉しそうな顔しないでよ。俺はもう勘違いしちゃいけないんだから。



