姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 1週間が経ち、テスト週間が始まった。
 放課後、B組の教室にお邪魔して、はーぎー達と勉強中。
「化学の範囲広過ぎー」
 瀬古は教科書をパラパラしながら呟いた。
「確かに今回広いよね。問題数多くなるのかなぁ」
「ありえるかもね」
貝原の言葉にやる気を無くしたのか、瀬古とはーぎーは「きゅーけー」と言ってシャーペンを手から離した。
「ちょいと現実逃避するか」
「だな」
「まだ先だけど、夏休みさ4人で泊まりで遊び行かね!?」
「お、楽しそうじゃん」
「だろ!ただ、かいと天馬は部活だろうから、日程がうまく合えばいいけどな」
「うちは、お盆合わせて1週間ぐらい連休だったと思う」
「お、まじで!天馬は!?」
「俺らんとこも、お盆前後にまとまった休みあるはず」
「キイちゃんも大丈夫そ?」
「うん!早めに言ってくれれば休み希望出せるよ」
「じゃ、8月で予定合わせて行こうぜ!!」

 泊まりでお出かけ…今年の夏休みは、いつも以上に楽しくなりそう!!

 ◇

 中間テスト最終日。帰りのホームルームが終わった教室で、席に座ったままスマホ画面を見る俺は、奈留君に返信をした後、別のトークに返信をしようとして指先が止まる。
「うーん、どうしようかなぁ…」
メッセージの相手は宇治原君。ついさっき、どこかに出掛けないかと連絡が来た。
 普段の様子と一緒で、文もクールで淡々としているため、正直どの程度のノリなのか分からない。

 出掛けるってことは、向こうが部活休みの放課後じゃなくて、土日にゆっくり会う方がいいってことだよね?…そもそも、屋上でお昼を食べた以外で絡んだことのない俺といきなり数時間も2人で大丈夫なのかな。俺に後輩を楽しませるプランを考える能力はないし、気を遣わせるだけなんじゃ…。

「キイ、帰んねぇの?」
 前の席で立ち上がった瀬古に問いかけられる。
「…。」
考え事が終わらず、返事をするのを忘れて瀬古の顔をじっと見てしまい、頬に手を添えられた。
「そんな可愛い上目遣いで見つめられても困るんだけど」
 高柳先輩が卒業しても俺を全力で姫扱い、彼女扱いし続ける瀬古に宇治原君はきっと勝てない。
「もしさ…」
「うん?」
「もし、藤くんと2人で出掛けるならどこに行く?」
「え、藤?なんで!?」
 瀬古は席に座り直した。
「例えばの話」
「うーん、藤かぁ…。…あ!本が沢山置いてあって読みながら飲み食い出来るカフェがあんだよ。そこだな。本読んでたら会話なくても気まずくねぇし」
「え、瀬古カフェで本とかじっくり読めるの?あんまり読書してるイメージないけど」
「いや、普段は読まねーけど、藤は本屋とか美術館とか落ち着いてるとこがいーのかなって」
「藤くんに合わせたんだね」
「そーそー。って、俺と藤が2人で遊ぶとかウケるよな、想像したら」
「ふふ、たしかに。数人なら違和感なくても2人だと不思議な組み合わせとかあるもんね」
「…え、もしかして藤と美術館デートすんの?」
「違うよ、別の人…あっ…」

 やばい、口が滑った…。
 
「いや、えっと、デートじゃなくて普通に遊ぶだけで、というかまだ遊ぶかも決まってない感じで…」
 勝手にしどろもどろになる俺の顔を瀬古はじっと見る。
「……宇治原だろ?」
「……。」
小さく頷いた俺に対して、大きくため息をついた瀬古。
「はぁー…。なに、キイは宇治原と2人で遊びたいの?」
「遊びたいっていうか…誘われたから。断る理由もないかなって…」
「でもさっきまで浮かない顔してたけど?すんなりOKしてないってことは、迷ってんじゃねーの?」
「だって、急に2人で遊ぶのはハードル高くない?」
「じゃあ、断ればいいじゃん」

 そう言われてもなぁ…。…あ!

「……なら、瀬古も来てよ」
「……は?俺が?」
「うん。屋上で3人で食べた時、宇治原君は瀬古と話してる時の方が楽しそうだったし。俺も瀬古がいる方が安心だもん」
「安心って…」
「無理なら2人で頑張る」
「……無理じゃねぇから、2人はまじでやめろって」
「ありがとう!」
「…。」

 ✳︎

 その日の夕方。
「お邪魔します」
 我が家のリビングに入ってきた奈留君は「初めまして、生駒と申します」とうちの母親に挨拶をした。
 今日は初めて奈留君をうちの家族に合わせる日。もちろん、付き合っている事は言わず、仲の良い先輩として紹介する。
「初めまして、希一の母です。…生駒君、綺麗な顔してるねぇ。羨ましい」
「いえ、そんな事ないです。…今日はご迷惑をおかけいたしますが宜しくお願いします」
「こちらこそ、大したおもてなしできませんけど、ゆっくり過ごしてね」
「ありがとうございます」

 お母さんと奈留君が話してるの不思議だな。


 俺の部屋に入った奈留君は、一気に緊張から解き放たれたようだった。
「ふぅー、緊張したぁ」
「え、緊張してたの?」
「してたよぉ」
「全然そんな風に見えなかったよ?すごくスマートに挨拶しててかっこよかった!」
「…ありがとう。仲の良い先輩としてお邪魔したけど、やっぱり恋人のご両親だから緊張するよ」
「ふふっ。…会ってくれてありがとね」
「こちらこそ会わせてくれてありがとう。…初めてのお泊まり楽しもうね」
「うん!」


 夕食の時間、リビングに来た妹は奈留君を見て「やば…」と固まった。
「初めまして、お邪魔してます」
「あ、初めまして…」
少し照れながらダイニングテーブルの自分の席に座った妹。
「生駒君、今日お父さん飲み会で遅くなるからここの席座ってちょうだい」
「ありがとうございます」
奈留君が父親の席に座ったことで、母親の横兼妹の向かい側が奈留君という不思議な席順になってしまった。

 奈留君の柔らかい雰囲気にお母さんも妹も癒され、和やかな雰囲気で食事を楽しんだ。

 ✳︎

「お先でしたー」
 俺の部屋に戻ってきたお風呂上がりの奈留君。

 ドキッ…

 無意識に放たれる色気に鼓動が早くなる。
「…俺もお風呂入ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」

 奈留君って、他の人といる時は柔らかくて可愛らしいのに、俺の前だとかっこいいっていうか、大人っぽいっていうか、ドキドキするような雰囲気を醸し出すんだよね。恋人にしか見せない一面ってやつなのかな。


「ただいま」
「おかえりー」
 ベッドサイドに座る奈留君の横に座ろうかと思ったけど、まだ身体が熱ってるから少し距離を空けて座った。
「キイ君、なんでこっち座らないの?」
「えっ、まだ身体熱くて、近いとあれかなって」
「暑いなら上脱いでおけばいいのに」
「え!?」

 えっと、それは…後々そういうことするからって意味…!?

「1人だけ脱ぐの嫌なら俺も脱ぐけど」
「へ!?」

 ちょっ、待って待って。湯上がりの奈留君の上半身見たらなんかもう…うん、ダメな気がする。

「いや、脱がなくて大丈夫だよ。俺も脱がないから」
「そっか。…お風呂前にアイス買いに行けばよかったね。夜に2人で買いに行くの楽しそうじゃない?」
「めっちゃいいね、それ。次回のお泊まりは夜にお出かけしよう!」
「うん、決まり!」
「…あ!うちの冷凍庫にアイスあったかも。ちょっと見てくるね」
「え、いいよいいよ」
「大丈夫だから」


 バニラのカップアイスを2人で食べ始めた。
「美味しー!夜に食べるアイスは最高だね」
「分かる。…そういえばさ、今度瀬古と前に話した1年の子と遊ぶんだけど、どこに行ったらいいと思う?」
「いつのまにか仲良し3人組になってるじゃん」
「瀬古は納得してないけどね」
「ふふ。…うーん、どこがいいかなぁ」
 自分から相談しておきながら、真剣に考え始める奈留君の横顔を見て、思わず触れたくなった。
「…どうしたの?」
俺の視線に気付いた奈留君の優しい問いかけに思わず本音が漏れる。
「…食べ終わったら…イチャイチャしたい…」
照れながら言った言葉を聞いて、ふわっと笑みを浮かべた奈留君。
「イチャイチャするに決まってるよ。だって今夜は帰らなくていいんだもん」

 姫ポジ同士の恋愛が、こんなにも上手くいっているなんて、誰も想像していないだろうな。