姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 校内のスポーツ大会は無事に閉会した。この日は、事前に選んでおいたお弁当が支給され、各自好きな場所で食べてからの下校になる。

 チキン南蛮弁当の列に並ぶ俺の横に、ハンバーグ弁当を持った瀬古がやって来た。
「1個じゃぜってぇ足りねーよな、これ」
「瀬古、いっぱい動いてたもんね。あとでコンビニにパンでも買いに行ったら?」
「そだな」

 お弁当を受け取った俺は、瀬古と一緒に貝原達のいる中庭へ向かう。
「あの」
突然声をかけられ、斜め後ろを見るとお弁当を持った宇治原君がいた。
「あ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
宇治原君は瀬古に目線を移した。
「オレ、妹尾先輩と食べたいんですけど」
「…は?」

 えっ!?

 予想外の言葉に俺と瀬古は、それぞれ異なる表情を浮かべて驚いた。

 え、何で!?バレー部繋がりで貝原と食べたいなら分かるけど、俺との接点2回ぶつかっただけなんだけど!

 頭で色々考えているうちに瀬古が口を開いた。
「宇治原君?で合ってる?」
「はい」
「宇治原君がキイと食いたい理由あるか?姫ポジだからとか、そんな理由なら即却下だし」
瀬古の口調に微かな苛立ちが含まれているのが分かる。
「狙ってる…って理由で納得してもらえます?」
「…っ!!」

 はいっ!?!?

「……納得しねぇよ。他あたれ。…キイ、行くぞ」
「あっ、うん…」

 えええ、何が起こったのー!?

 ✳︎

「えっ、宇治原そんなこと言ったの?」
 中庭で瀬古から話を聞いた貝原は、珍しく驚いていた。
「あのルーキー君、クールに見えてすげー積極的だな!」
はーぎーだけが呑気に面白がっている。
「マジなんなんだよあれ。つーか、狙ってるってどーゆー意味?俺のポジション?」

 あぁ!そういう意味なんだ!てっきり恋愛として狙われてるのかと思った。また勘違いする前に気付けて良かった。…瀬古のポジションを狙ってるのか…。

「瀬古のポジションに他学年がなるって難しくない?昼休みや放課後ぐらいしか絡めないし」
「え、天馬どうする?ルーキー君が来週から毎日キイちゃんを昼飯に誘ってきたら!?」
「さすがにそんなことしねぇだろ」
「分かんねーよ?天馬に直談判するぐらいだし」
「妹尾は宇治原に昼誘われたらどーするの?」
「え…。うーん…」
「え、キイそこ迷んの!?」
「いや、だって悪い子じゃなさそうだし…お昼ご飯一緒に食べたぐらいで、瀬古と俺の関係は変わらないだろうから」
「やべ…今キュンときた」

 まぁ、さすがに来ないだろうけど。

 ◇

「妹尾先輩いますか?」
 週明け月曜日。昼休みの2年D組の教室のドアから宇治原君が付近の生徒に問いかけた。

 え!?本当に来たの!?

「キイちゃーん。なんか1年生が呼んでるー」
 クラスメイトからの呼びかけに対して、俺より先に瀬古が席を立った。

「なんか用?」
 そう聞く瀬古が見上げるほど宇治原君は背が高い。
「妹尾先輩と昼食べたくて」
「今日は無理」
「じゃあ、明日ならいいです?」
「無理」
「ちょっと瀬古。そんな意地悪言わないの。ごめんね、宇治原君」
「いえ。妹尾先輩、いつならご一緒できますか?」
「明後日は大丈夫だよ」
隣にいる瀬古は、ほっぺたを軽く膨らませている。

 もぉ…。

「…ただ、瀬古も一緒でいい?」
「…!」
「…構いませんよ」
「ありがとう。えっと、明後日の昼に屋上前の踊り場集合でいいかな?」
「はい、分かりました。…失礼します」
「うん、またね」
 帰っていく宇治原君の後ろ姿を、瀬古に肩に顎を置かれた状態で見ていた。
「キイ、明後日休んだら?」
「そうしたら、瀬古が宇治原君と2人で食べるの?」
「…なんでだよ」
「まぁ、1回食べたら納得してくれるかもしれないし、後輩には優しくだよ先輩」
「…はーい」

 ✳︎

 放課後に学校近くのカフェに向かった俺。

 店内でメニュー表を見て待っていると「キイ君」と私服姿の奈留君が現れた。
「お疲れ様」
 今日は奈留君の講義が早く終わる日だったため、久しぶりに放課後デートをする。

 注文を終えた俺は、奈留君に宇治原君との出来事を話した。
「すごいね、その子。天馬君にそこまで言えちゃうのびっくり」
「だよね。俺もびっくりしちゃって。だけど悪い子じゃなさそうだから、普通に仲良くするのは良いんじゃないかと思ってて」
「そうだね。普通に先輩後輩として仲良くするのはいいんじゃないかな」
「なのに瀬古が1人ピリピリしてるんだよ。はぁ…」
「ふふっ。…多分、初めてライバルが現れて焦ったんじゃない?」
「え…」
「今まではさ、どんなにキイ君を姫扱いしても、天馬君のポジションを狙おうとする人いなかったでしょ?万が一そうなった時も、天馬君が牽制すればそれ以上踏み込んでくる事が無かった」

 確かに…。

「今回初めて、今までの独占が通用しない相手が現れて焦っちゃってるんだよ、きっと」
「そっかぁ…。奈留君はあった?高柳先輩の座が奪われそうになったこと」
「うーん…無かったかなぁ。それに高やんは天馬君と違って2年生からだから、俺とカップルポジションになったの」
「え、そうなの!?」
「うん。1年の時はクラス違って、高やんも他のみんなと同じ立場というか…。だから1年生からずっと側にいる天馬君の方が気持ちが強くて当たり前だと思う」
「…。」

 イライラしてるとか拗ねているとかは分かるけど、瀬古の奥底の本音がイマイチ分からないんだよね…。

 ◇

 約束の2日後。お弁当やパンを持った俺と瀬古は、昼休みに教室から移動した。

 屋上前の踊り場にはすでに宇治原君が着いていた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様ー」
「…お疲れ」
 何か言われたわけでもないけど、瀬古と宇治原君の間に座った俺。
「わぁ、宇治原君のお弁当大きいね!」
「前のだと足りなかったんで、弁当箱新しくしてもらいました。妹尾先輩は小さめですね」
「自分では少食だと思わないんだけど、運動部の人と比べたら少ないと思う」
「可愛らしくて良いと思いますよ」
「…っ」

 またまたさらっとラブいことを…!!

「あの、瀬古先輩」
 宇治原君は黙々と食べている瀬古に話しかけた。
「なに?」
「食トレとかしてますか?」
「え」
「バレー部より陸上部の方が体を絞ってるイメージがあるので、食事メニューとか意識してるのか気になって」
 そんな事を聞かれると思っていなかったであろう瀬古は驚きつつも、親身に答え始める。
「俺はそんなカロリーとか脂質とか気にしてねぇかな。だけど筋トレは…ー」
 瀬古と宇治原君はいつのまにか筋トレ話で盛り上がり始める。俺は瀬古がいつも通りの頼もしい姿になったことに安心し、2人の様子を微笑ましく見ていた。

 もしかしたら、宇治原君は瀬古に憧れている部分があるのかもしれないなぁ。瀬古が高柳先輩に憧れを抱いたみたいに。

 特に問題無くご飯タイムは終了した。

 もっと宇治原君にグイグイ来られると思ったけど、俺よりも瀬古との仲を深めてた気がする。

「お時間ありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそありがとう」
「んじゃ、お疲れ」

 初めての事に俺も瀬古も構え過ぎちゃってただけで、狙われてるなんて大袈裟だったみたい。

 宇治原君と別れ、瀬古がトイレに行ったため、1人で教室へ帰ろうとしていたら
「妹尾先輩」
と、声がした。さっき別れたばかりの宇治原君が近づいてくる。
「え、どうしたの?」
「連絡先聞き忘れてたので。…これ、オレのIDです。良かったらまた連絡ください」
一枚の小さな紙を渡してきた宇治原君。
「あ、うん」
「それと、テスト終わったら遊びに行きませんか?」
「え」
「もちろん2人で」
「…。」
「じゃ、失礼します」
ポカンと固まる俺とは反対に、宇治原君は何事もなかったかのように行ってしまった。
「あ…」

「…キイ?」
 立ち尽くす俺の元へ瀬古が戻ってきた。
「どした?」
「…え、ううん、何でもないよ」
 2人きりで遊ぶことをすぐにデートという言葉に変換してしまう俺はだめだめだ。別にデートに誘われたわけじゃない。男同士で遊ぶだけ。

 え、そうですよね!?勘違いじゃないですよね!?