姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 桜の花びらがまだ残る4月上旬。2年生になった俺は校門を抜け、中庭に向かっていた。
 クラス分けの紙が貼られたボードの周りには人が群がっている。

 何組でもいいけど、仲良い人と同じだと嬉しいなぁ。

 ボードに近づいていくと、俺に気付いた瀬古が駆け寄ってきて、勢いよくハグをしてきた。
「うわぁ、どうしたの!?」
「キイ、一緒!!」
「えっ」
「おんなじクラスだぞ、俺ら!」
「え、そうなの!?」

 クラス表を確認すると、D組の紙に俺と瀬古の名前が並んでいる。
「ほんとだ!良かった、嬉しい!」
「やっぱ俺ら運命だなぁ!」
瀬古は嬉しそうに後ろからハグをしながら俺ごと体を左右に揺らす。
「あ、はーぎー達は?」
「はーぎーと貝原はB組」
「あー、見事に分かれちゃったね。だけど教室近いからましかな」

 他に元C組の人いるかなぁ?

「2年もよろしく」
 クラスメイトの名前を確認する俺に藤くんが声をかけた。
「あ、藤くんも同じなんだ!よろしくね」
「チョコ貰ったからって彼氏面すんなよー?」
バックハグをしたまま、瀬古が藤くんに絡んだ。もちろん、俺と藤くんは美術館デートには行っていない。
「瀬古、藤くんが困るようなこと言わないの。ごめんね?」
「ううん。2年になっても、せせカップルが仲良くて安心した」
藤くんは小さく笑みを浮かべた。

 ◇

 2年生になって2週間。クラスの雰囲気にも慣れてきた。
「せせカップルって、外野がいない教室内でもべったりなんだな」
 隣の席の元E組のクラスメイトが俺と瀬古を見ながら呟いた。おそらく、他クラスや他学年の生徒が見ている時だけ俺達がイチャイチャしていると思っていたのだろう。
「別に見せつけるためだけにイチャついてねぇよ。そんな仮面夫婦みてーなことしねぇよな、キイ?」
「まぁ…。先輩になったわけだし、もう少し抑えてもいいと思うけどね」
「いや、それは無理」
「あはは。そういや、今年の1年は小柄な子はいても、ザ・姫!って感じの子がいないみたいだぞ」
「へぇ」
「つまり、現在我が校1番の姫であるキイちゃんに後輩達も夢中になるかもってこと」
「キイに夢中になるのは好きにしろよって感じだけど、ガチ狙いしてきたら潰す」

 潰すって…。

 ✳︎

 瀬古やはーぎーと食堂で昼ご飯を食べ終わり、出ようとした瞬間誰かにぶつかってしまった。
「…!…あ、ごめんなさい」
「いえ。こっちこそすみません」
ぶつかった相手は、見たことのない高身長の生徒だった。

 背、高…。1年生かな?

「あ、宇治原」
 後ろから貝原が名前を口にした。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。…最近入部してくれたバレー部の後輩」
貝原にそう説明され、背の高さに納得した。
「え、今から食堂?」
「弁当足りなかったんで、間に合うなら頼もうかと」

 すごい…育ち盛りだ。


「良いルーキー入ってきたな!」
 教室に戻る途中、さっき会った宇治原君のことを話していた。
「技術もあるらしくて、中学の頃からバレー界では有名らしい。もっとレベル高い学校選べばよかったのに」
「キャーキャー言ってくれる女子がいれば、もっとやる気も出たろうに」
「ぱっと見クールそうだったし、女子の声援とかどうでもいいんじゃね?」
「そんな男子いる!?あ!貝原と一緒で彼女持ちか!」
「いや、彼女いないよ」
「え、そうなん?」
「1年は入部自己紹介の時に彼女の有無を言わされるんだけど、いないって言ってたから」
「いると妬まれるから嘘ついてるかもよ?塩顔イケメンだったし」
はーぎーの言葉を聞き、宇治原君の顔を頭に浮かべた。

 塩顔イケメン……確かに。

「中塚先輩も塩顔系だったし、バレー部は塩顔の宝庫だな」
「あはっ、なんだよそれ」
 チラッと笑う瀬古を見た。

 瀬古は、王道イケメンだよね。…奈留君は、童顔可愛いイケメン枠。世の中には、たくさんのイケメンが存在してるなぁ。

 ◇

 久しぶりに奈留君と会う土曜日。約束の時間に向けて部屋の片付けをする俺は、棚に飾っている奈留君とのツーショット写真を見て自然と顔が緩む。
 天気も良いし、外に出掛けることも考えたけど、初めてのことばかりの大学生活で奈留君も疲れてるだろうし、どちらかの家ぐらいしか恋人らしいことが出来ないから、今日は俺の家で会う事にした。


 母と妹が家を出て数分後、奈留君が到着した。ちなみに、お互いまだ親に合わせたことはない。

 俺の部屋に入るなり、奈留君は俺を抱きしめた。

 ぎゅーっ…

 身長差があまり無いことのメリットは、話す時やハグの時に距離が近いこと。首筋に奈留君の唇がふわっと当たっている。そのままクンクンと匂いを嗅ぎ始めた奈留君。
「奈留君…!?」
「だってキイ君の匂い落ち着くんだもん」
「…なんか、恥ずかしいよ」
「ふふ、かわいい」

 ✳︎

 オヤツを食べながらお互いの近況を報告し合った。
「あ、やっぱり新入生は姫ポジいないんだね」
「やっぱり?」
「たまたまかもしれないけど、1年おきに姫ポジがいないんだよね。ほら、今の3年にはいないでしょ?」
「あ、たしかに」
「俺のひとつ上の学年もいなくて、今のキイ君みたいに俺も2年生の時は学校内で姫ポジ1人だったもん」
「そうだったんだ」
「大変だったけど、高やんがSPみたいにそばにいてくれたおかけで乗り切ったって感じかな。多分、キイ君も天馬君が守ってくれるだろうからそこまで心配はしてないけど、何かあったら俺にちゃんと相談してね?」
「うん、ありがとう」

 ◇

 奈留君とのデートや友達との遊びを楽しんだゴールデンウィークが明けて2日後。校内ではスポーツ大会が開催されていた。
 9人制バレー、フットサル、ボッチャ、セパタクローの4種目から出場したいものを選べ、運動が得意でも苦手でも楽しめるようになっている。瀬古は俺と同じ競技に出ると言ってくれたけど、せっかく運動神経が良いんだから好きなのにしなよと伝えたら、セパタクローに挑戦することを決めた。俺は藤くんと一緒にボッチャに出ることになっている。

「暇な時、ぜってぇ応援来いよ?俺、キイのために頑張るから」
 セパタクローとボッチャの場所は、第一体育館と第二体育館に分かれるため、瀬古は移動する俺にお願いしてくる。
「もちろん応援に行くよ。貝原もセパタクローに出るって言ってたし」
「待ってるからな」

 移動の最中、藤くんに言われた。
「せせカップルって、瀬古君の方がリードしてるイメージだけど、意外と希一君に決定権があるよね」
「え、そうかな?」
「最初からじゃないけど、今年に入ってそんな感じが強くなったかな」
「…。」

 ✳︎

 1回目の試合が終わり、藤くんとトーナメント表を確認して、応援に行く競技を決めていた。
「次の試合まで時間余裕あるから、セパタクロー応援行けそうだね」
「ほんとだね!…俺、トイレ寄って来てもいい?」
「もちろん。ここで待っとくね」
「ありがとう」


 トイレの出入り口で人にぶつかってしまった。
「うわっ…ごめんなさい!」
「いえ。こっちこそすみま…あ」
「え……あ!宇治原君」
「お疲れ様です」
「お疲れ様。なんかごめんね、ぶつかるばっかりで。前見てるつもりなんだけど」
「いえ。妹尾先輩ならいつでもどーぞ」
「え」

 なんか今、クールな顔でラブいこと言われた気がする。

「あ、ありがとう?」
「じゃ、失礼します」
「あ、うん」


 第一体育館に着くと、ちょうど貝原のいるB組の試合が行われていた。
「B組勝ってるね!」
 藤くんとコート近くで見ていたら、後ろから瀬古に抱きつかれた。
「キイ」
「わぁ、びっくりしたぁ」
「ボッチャどうだった?」
「無事1試合目は勝ったよ」
「お、さすが。…んじゃ、応援よろしくな」
「うん、頑張って」
「…あ、勝ったらご褒美で!ま、ぜってぇ勝つけど」
「え、ご褒美ってなに」
「勝ってから決める」
 瀬古は無邪気な笑顔を見せてコートへ去っていった。
 カップルみたいな一連のやりとりを見て、近くにいた1年生達は恥ずかしそうにしている。

 見慣れない光景だよね…。

 バレーとサッカーが合わさったようなセパタクローは、運動神経が良くなければ試合にすらならない。にも関わらず、どの対戦も盛り上がっているのは、セパタクローに参加する生徒達がみんなめちゃくちゃ運動神経が良いから。

 さっきの貝原も普通に得点入れてたし。

 D組の試合が始まった。4月に少し練習したとはいえ、慣れた様子で蹴り始める瀬古達に驚いてしまう。
「みんな上手…」


 あっという間に試合が終了し、瀬古は有言実行する男だと、勝ち点を見て改めて思う。

 ご褒美って何だろう…。