どんなに願っても時間は止まってくれなくて、先輩達の卒業の日を迎えてしまった。
部活に入っていない1、2年生も含めて、全校生徒で卒業生を見送るのがうちの高校の伝統らしく、俺とはーぎーも制服姿でグラウンドに来ている。
「キイちゃん、その花束誰に渡すん?」
「これは生駒先輩に渡したいなって。色々相談乗ってもらったから」
「へぇ、そうなんだ。同じ姫同士、絆深めてたんだな!」
各教室で最後のホームルームを終えた卒業生達が続々とグラウンドに出てきた。
2年生の生徒会長を中心に在校生達が整列し、卒業生に向けて門出の言葉を伝える。
「卒業生の皆さーん!!ご卒業おめでとうございまーす!!」
「「おめでとうございまーす!!」」
「皆さんの未来がより輝く事をーー、我々在校生一同は願っていまーす!!」
「「願っていまーす!!」」
「そしてどうか、この学舎で過ごした日々を忘れないでください!!僕達はずっと先輩方を愛していまーーす!」
「「愛していまーす!!」」
その後は、部活動やお世話になった先輩を囲んで写真を撮ったり、感謝の言葉を述べたりしていた。
周りを見渡すと、貝原は中塚先輩達と楽しそうに喋り、瀬古は高柳先輩達と写真を撮っていた。
結局瀬古は、高柳先輩に伝えられたのかな…?
さすが3年間姫ポジを維持し続けた生駒先輩。生駒先輩と写真を撮るための卒業生&在校生の長蛇の列が出来ている。そして、何故か俺と写真を撮りたい卒業生の列も出来ていた。
花束、いつ渡せるかなぁ…。
「希一君、その花束誰かに渡す?」
俺と撮影する順番が来た卒業生が問いかけた。
「あ、えっと、生駒先輩に渡したくて…」
「あっ、そうだったんだ。ごめんね、気付かんくて。みんなー、希一君生駒に花束渡しに行くから、一旦撮影ストップー」
「へーい、了解」
「行っておいで」
「ありがとうございますっ!」
2年生と撮影中の生駒先輩に近づくと、すぐ俺に気付いてくれた。
「ごめん、一瞬だけ止めていいかな?」
そう言って中断し、俺の元へ来てくれた生駒先輩。
「ご卒業おめでとうございます」
花束を受け取った生駒先輩は、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。後で一緒に写真撮ろうね」
「はい!」
「今撮ったらいいじゃないですか。俺、撮りますよ」
「え」
列に並んでいた2年生が俺と生駒先輩のやりとりを聞いてそう口にした。
「うんうん。つか、姫同士のツーショット撮れんのも今日が最後だしな!」
「俺らも後で送るよ、写真」
「え、いいの?」
「もちろん。ほら、並んで」
「ありがとうございます」
みんなの優しさのおかげで、生駒先輩とのツーショットを無事に撮ることが出来た。
✳︎
卒業生や先生達は今夜、ホテルで卒業パーティーがあるため、陸上部やバレー部のお別れ会は後日開催するらしい。
はーぎーと校門前で別れた俺は、1人で駅に向かっていた。
「キイ!」
立ち止まり後ろを見ると、瀬古が小走りでやって来ている。
「あれ、陸上部の1、2年でどっか行くんじゃなかったの?」
「それは今度になった」
「そうなんだ」
「キイ、この後暇?小腹空いたんだけど、どっか寄らね?」
「うん、いいよ」
✳︎
駅前のファストフード店には、他校の卒業生らしき人が多くいた。
ポテトとドリンクの乗ったトレーをテーブルに置いた俺は、椅子に座りながら目の前にいる瀬古を見てふと思う。
瀬古と2人なの久しぶりだな。
ハンバーガーにかぶりついている時に聞くことじゃないと思いつつ、ドリンクを一口飲んだ後聞いてみた。
「高柳先輩と写真は撮れた?」
「うん、撮れた」
まだ口の中に入っている状態で答える瀬古。
「良かったね。……気持ちは、伝えられたの?」
「気持ち?」
「告白出来たのかなって…」
口を空にした瀬古はドリンクを飲み、テーブルの上に視線を落としている。
「うーん…伝えられてねぇっつーか、伝えてねぇっつーか…」
「…ん?どういう意味?」
「上手く言えねぇんだけどさ、好きの感情から始まって、好きと憧れが共存して…そんで最後は憧れだけになった感じ」
「え…」
「ちゃんと好きだったけど、伝える前に自分の気持ちが変わったんだよ」
「…そっか」
「ごめんな?応援してほしいとか言ったくせに、良い報告出来なくて」
「ううん、瀬古が納得してるならそれでいいと思う」
「…ありがと」
人の気持ちが変化することを自分の身を持って経験しているから、そこまで驚きはしなかった。
◇
終了式まであと数日。今日は朝から校内の大掃除をしている。俺達C組は、教室と体育館の掃除が担当。
10分休憩中に瀬古、貝原と自動販売機に飲み物を買いに行った。
「最初体育館掃除ラッキーって思ったけど、完全にナメてた」
「それな。無駄に広いし、すげぇ汚れてるし」
「教室担当のはーぎー達が羨ましいね」
「ぜってぇ、はーぎーとかサボってるだろ」
「教室組が早く終わったら手伝いに来るって言ってたけど、多分来ないでしょ」
「だよな。…そういや、今日の昼何食いに行く?」
今日は午前中で下校だ。
「今の気分はラーメンかな。あ、でも餃子も食べたい」
「ラーメン屋の餃子セットにすればいいじゃん」
「いや、餃子屋や中華屋のラーメンセットにするかでも悩むんだよ」
「ふふ、どっちが主役かが違うんだね」
「そう!妹尾さすが、分かってるね」
「あ、でも俺、人に会う用があるからラーメン屋の方がいいかも。餃子食べなくていいし」
「え、キイ約束あんの?」
「うん、お昼食べたら抜けるよ」
「ふーん…」
「じゃあ、ラーメン屋で」
✳︎
「キイちゃん、また明日なー」
「うん、また明日」
ラーメン屋でお昼ご飯を済ませた俺は、瀬古達と別れ、1人バスに乗った。
バスを降りた俺は、久しぶりに生駒先輩の家を訪れた。
何度か来ていても部屋に入るのは、まだ緊張する。テーブル前でそわそわする俺にコップに入ったジュースを出してくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「キイ君、敬語」
「あっ、ごめん」
「ふふ、すぐには抜けないよね」
卒業式の翌日からタメ口解禁になったが、まだタメ口と敬語が混ざってしまう段階だ。呼び方も“生駒先輩”から下の名前である“奈留君”に変わった。
「じゃあ…3ヶ月記念にかんぱーい」
「乾杯!」
コップをカチンと当て、付き合って無事に3ヶ月経ったことをお祝いする。
「3ヶ月あっという間だったね」
「そうだね」
「これからもよろしくね、キイ君」
「こちらこそ」
正直最初は恋愛感情なんて無かった。だって当て馬役だと思って告白をOKしたから。それでも3ヶ月目の今は、奈留君のことが好きで好きで仕方ない。
「奈留君、スーツ明日買いに行くんだっけ?」
「うん、そうだよ」
「絶対写真送ってね!」
「もちろん」
奈留君は家から通える大学に行くため、生活リズムが少し変わるぐらいで、俺達の会う頻度が減ることは無さそうで安心している。
「大学生かぁ。出会い多そうだよね」
「もしかして、俺が新しい出会いになびかないか心配してる?」
「…うん、少し」
「ふふ、キイ君かわいい。…環境が変わって揺らぐほどの中途半端な気持ちじゃないんだけどなぁ」
「それは、分かってるけど…好きだから不安になっちゃうよ」
「俺だって同じだよ。キイ君狙ってる子増えるかもだし」
「いや、男子校だよ?」
「知ってる。でも、男子校に通ってた俺達付き合ってるよ?」
「…。」
たしかに…。
「だからさ、不安が無くなるぐらいいっぱい愛し合おーね」
「うん…」
この日俺と奈留君は、初めて身体を重ねた。



