姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 想像していなかった事が自分の身に起きて、かなり混乱している。当て馬役を引き受ける気持ちで付き合った生駒先輩の事を本気で好きになってしまいそうだなんて…。
 ていうか、生駒先輩が俺に本気だった事に驚きを隠せない。それって、付き合う前まで俺達4人は全員一方通行の片思いだったわけだよね?生駒先輩は俺を、俺は瀬古を、瀬古は高柳先輩を、そして高柳先輩はおそらく生駒先輩を好き。ロミジュリカップルとせせカップルが裏でそんな複雑な関係だったなんて誰が信じられるの!?


 朝の電車内、スマホを見る俺は生駒先輩と共有しているスケジュールアプリを確認した。

 あ、今日は生駒先輩学校の日だ。会えるかな。

 3学期は3年生が学校に来る日は少ない。来たとしても午前中で帰ってしまうこともある。

 駅から学校へ歩いていると、友達数人と歩く生駒先輩の後ろ姿が見えた。

 こっち向いたりしないかな。気付け、気付けー、なんて…

「あ…」
 念が通じたのか、生駒先輩がいきなり振り返り、目が合った。周りに他の生徒もいるため、すぐに前を向いてしまったけど。
「…!」
 スマホに生駒先輩から連絡が来た。
『キイ君だ♡』
ハート付きの文面に思わずニヤケそうになる。

 ✳︎

 授業中、黒板を写す頭の中は半分生駒先輩で占領されていた。
「…。」
 学校で会えるかもしれないと浮かれるのも、前よりも連絡が待ち遠しいのも、早く会いたいのも理由は同じ。

 生駒先輩のこと…好きなんだよ俺。

 瀬古の時と同じで、自分への好意がきっかけで好きになったけど、今回は勘違いじゃない。生駒先輩からの誠意が嬉しかったし、俺も真剣に向き合いたいと思えた。瀬古への気持ちを忘れるためじゃなくて、自然と生駒先輩へ心が動いたんだ。


 好きを自覚してからは毎日が幸せで溢れ始めた。じわじわ好きになる恋もあれば、一気に好きになる恋もあるんだと知り、どんどん生駒先輩に夢中になっていった。
 もちろん、学校内では変わらずせせカップルを演じる日々を送っている。

 ◇

 ある日の放課後、廊下に出た俺を瀬古が引き止めた。
「キイ、ちょっといい?」
「…?」


 誰もいない屋上へ続く階段の踊り場に俺を連れて来た瀬古。
「大丈夫?寒くねぇ?」
「うん、大丈夫」
「キイ、ここきて」
隣に座るよう言われ、少しだけ間を空けて座った。
「もうすぐ2月とか早くね?」
「うん、そうだね。すぐ2年生になっちゃうよ」
「それな。……なぁ、キイ…」
「…なに?」
「俺になんか隠してることある?」
「え…」
 瀬古は俺の顔をじっと見てくる。

 もしかして、生駒先輩と付き合ってることバレた!?…でも、学校では特別な絡みはしてないし、外で会ってる時に手を繋いだり恋人らしい行動はしてないから、バレるはずはないんだけど…。

「…何も隠してなんかないよ」
「ほんと?」
「うん、本当…」
「じゃあ、俺のほっぺにキスして」
「…え?何で!?」
「隠し事してないんだろ?」

 なんか俺…浮気を疑われて否定したら、じゃあ抱いてよって言われた人みたいじゃない?

「いや、それはおかしいよ。隠し事はしてないけど、キスする理由にはならないって」
「…キイ、俺のこと嫌いになった?」
「いや、なるわけないじゃん」
「ならキス出来んじゃん」

 待って待って。さっきから会話がカップルなんだけど!倦怠期が不安になって、冷めてないか確認してるカップルみたいなんだけど!
 ていうか、瀬古は高柳先輩が好きなのにそんなこと俺に要求してこないでよ。少し前ならすんなりしてたかもしれないけど、今の俺は生駒先輩が大好きだから…

「…出来ない」
「…。」
 瀬古は納得のいっていない顔をしている。
「瀬古こそ…何かあったの?」
「…何もねぇよ。…寒いし、帰るか」
「…。」

 ◇

「学年末テストを無事乗り越え……、やって参りました!1のCバレンタイン大作戦!」
 昼休み、教卓の前に立った瀬古とはーぎーがテンション高く仕切り始めた。
 我が校のバレンタインには、男子校ならではの風習がある。女の子から貰える可能性が低い男子校の生徒が悲しまなくていいように、全員チョコを1つ持参することになっている。そしてバレンタインに各クラスで好きなようにランダムで交換し合うのだ。
「ちゃんとチョコ持ってきたかー?」
「もっちろーん!」
「ルールは簡単。黒板に書かれたあみだくじに名前と線を書いていく。んで、引いた数字の相手にチョコを渡す。ちなみに数字は出席番号な」
「そして、渡す時にすることはただ1つ…」
「「愛の告白!」」
「ふぅー!!」「いぇーい!!」
 まるでバレンタインは自分達のためにあるイベントかのように盛り上がるC組。

 全員が書き終わり、
「んじゃ、お手本がてら俺がトップバッター行くぜ!!」
と、はーぎーが線を指で辿っていく。
「……10だ!え、10って誰だっけ!?」
「俺」
手を挙げたのは貝原。
「え、かい!?えー嘘だろー、まじかよぉー。ぜってぇ振られんじゃん」
「あはは!はぎ、愛の告白がんばー!」
「万が一があるかもよ!?」
周りが盛り上がる中、はーぎーはチョコを持って貝原の前に立った。
「…えっと、コートに立つ姿をずっとずっと見てました。もう貝原君のこしか考えられません。…私と付き合ってください!!」
勢いよくチョコを差し出したはーぎー。
「…ごめん。付き合ってる子いるから」
「…ですよねぇーー!!」
「でも貰うけど」
「なんて酷い男なの!?」
「あはは」
「ま、こんな感じでやっていくから」

 様々な告白が続き、俺の渡す番が来た。
「…32」
「我らのキイ姫から貰えるのは、32!!誰だー!?」
立ち上がったのは藤くんだった。
「おぉー!藤じゃん!」
 俺はチョコを持ち、藤くんのそばに行く。
「これはもしや、せせカップルの修羅場か!?」
「瀬古の目の前で、キイちゃんが他の男にチョコ渡すぞー!」
「もう、みんな静かにして!ごめんね?藤くん」
「ううん、大丈夫」

 そういえば、人生で告白したことないな。嘘とはいえ、ちょっと緊張する。

「…藤くんの描く絵が大好きです。今度良かったら、美術館デートしてくれませんか?」
 自然と上目遣いになってしまった。
「ぜひ」
「うぉーー、愛の告白大成功ーーーー!!!今年、キイちゃんの心を射止めたのは、藤だぁー!」
 今日一番の盛り上がりを見せている教室内。しかし、本当に修羅場が起きてしまう。
 俺の次に引いた瀬古の渡す相手が、
「あ、キイだ」
まさかの俺だった。
「天馬の相手は、キイちゃん!さっきカップル成立したばかりのキイちゃんは、果たして受け取ってくれるのかぁー!」
「カップル最大の修羅場じゃん!」
「今まで独占してたんだし、振られちまえー」
「キイたんは藤のもんだぞー」
「お前らうっせぇーんだよ。黙って見てろって」
 目の前に来た瀬古の表情が、真剣なのかふざけた真面目顔なのかよく分からなくて、変に体に力が入る。
「…。」
「やっと気付いた。俺はもう、キイしか愛せないんだよ。…必ず幸せにするから、俺と付き合ってください」
 まるでプロポーズみたいな台詞を言ってみせた瀬古は、俺を見つめ続けている。

 瀬古は今、何を考えているんだろう…。俺は今……

「…ごめんなさい」
 瀬古の告白が玉砕し、みんなのおふざけが加速する。
「ついにせせカップルが別れたぞ!」
「キイちゃんはもう藤のもんだな」
「瀬古落ち込むなって。新しい出会いあるから」
「黙れ黙れ。落ち込んでねぇーよ。…藤!ぜってぇ奪い返すからな!」

 最後まで全力で楽しんだクラスのバレンタインは無事に終了した。

 ✳︎

 放課後に俺が向かったのは、生駒先輩の家。
「いらっしゃい。お疲れ様」
「お邪魔します」

 生駒先輩の部屋に入ると甘い香りが広り、テーブルの上にお皿に乗った美味しそうなスイーツが置かれていた。
「わぁ!すごい」
「ガトーショコラに初挑戦したんだぁ。せっかくのバレンタインだしね」
「ありがとうございます!早速いただいてもいいですか?」
「食べる前に…」
生駒先輩は両手を広げた。
「…っ」
胸に飛び込んだ俺をぎゅっと抱きしめた生駒先輩。俺も負けじと抱きしめ返す。
「キイ君、大好きだよ」
「俺も大好きです」

 あぁ、幸せ過ぎる!

「ねぇ、そろそろ敬語やめない?」
 ガトーショコラを食べながら生駒先輩に提案をされた。
「いやぁ、今やめちゃうと学校でボロが出そうなので…」
「まぁ、そっかぁ。なら、卒業したらタメ口解禁してね?」
「わかりました!」
「約束だよ」
「はい!」
「そういえば、クラスでチョコ交換した?」
「はい、しました」
「誰と交換したの?」
「えっと、藤くんっていう子に渡して、瀬古から受け取りました」
「え、天馬君からだったの?」
「たまたま、くじで…あ、もちろん断りましたよ?後から受け取っただけで」
「ふふ、別に気にしてないよ。キイ君が欲しかったのは、俺からのチョコだけだもんね?」
「当たり前じゃないですか。今日一日中どんなチョコ貰えるんだろうって考えてましたもん」

 そう、俺はあの時そこに居ない生駒先輩の事を考えていた。

「嬉しい!……」
「…。」
 ゆっくりと顔が近づき、唇が重なった。