姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 マラソン大会中、足を挫いてしまった俺は高柳先輩におんぶをされ、そのままゴールする状況になってしまった。
 もちろん、その姿を瀬古と生駒先輩にばっちり見られてしまった。

「ありがとうございました」
 救護室まで運んでくれた高柳先輩にお礼を伝えた。
「全然。体調不良者や怪我人の救護のために後方走ってたから」

 あ、そうだったんだ。

「じゃ、お大事にな!」

 高柳先輩が出て行って数分。処置をしてくれた養護の先生が席を外したタイミングで、豚汁を持った瀬古が来た。
「あ、お疲れさま…」
「お疲れ。足、大丈夫か?」
「うん、数日で痛みと腫れは引くって」
「そっか。はい、豚汁。若干冷めてるけど」
「わざわざありがとう」

 豚汁を一口飲んで、瀬古に伝えた。
「…ごめんね」
「え、何が?」
「その…高柳先輩におんぶされる形になってしまって…」
「別に謝ることじゃねぇだろ」
「そうかもしれないけど…好きな人が自分じゃない人をおんぶしてるのは、なるべく見たくないでしょ?」
「うーん…でも俺は、キイの心配が先にきたから。それに、助け方が高柳先輩らしいなって思ったし」
「…そっか」

 ✳︎

 放課後、担任の先生が家まで送ってくれる事になり、職員用の駐車場付近で待機していた。
「妹尾君」
 生駒先輩がひょこっと現れた。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様。足、大丈夫そう?」
「はい。念の為、明日病院行って来ようと思いますけど」
「早く治るといいね」

 生駒先輩にも謝っておいた方がいいよね?高柳先輩が後輩に触れるとこなんか見たくなかっただろうし。

「あの、おんぶされてしまってごめんなさい」
「正直ちょっと妬いちゃったけど…もう気にしてないから大丈夫!」
「…ありがとうございます」
「明日病院終わったら、報告待ってるね」
「わかりました」
「じゃあ、またね」
「お疲れ様でした」

 瀬古といい、生駒先輩といい、高柳先輩を好きな人は心が広いなぁ。

 ◇

 三連休明けの火曜日。足の痛みもほぼ無くなり、自分の足で学校へ向かうことができている。
 学校の最寄駅を降りて改札口を抜けると、瀬古の姿が見えた。

 …瀬古?

「あ、キイおはよ」
「おはよう…。いつもより早くない?」
「うん、いつもより早い便で来た」
「…?」
「キイが心配だったから」
「えっ」
「足が痛くて歩きづらいかもしれねぇし、また誰かにぶつかられたら困るからな」

 俺のためにわざわざ…

「…ありがとう」
「当然じゃん?キイのためなら早起きも余裕」
 そう言われて嬉しくなったけど、前みたいにキュンとしなかったのは気のせいかな?

 ✳︎

 昼休み、自分の席に座る俺は隣に座っている貝原と話をしていた。瀬古とはーぎーはトイレに行っている。
「でさ、それが明後日発売らしいんだよね」
「そうなんだ。初日は人多そうだよね」
「やっぱそう思う?でも…」
「…?」
 貝原がドアの方を見て話すのを止めたから、俺も後ろを振り向いた。
「よっ!」
「こんにちはー」
そこには高柳先輩と生駒先輩が立っていた。
 突然のロミジュリカップル登場に教室内と廊下にいる生徒達がざわつき始める。俺は立ち上がり、高柳先輩に改めてお礼を伝えた。
「あ、お疲れ様です。この間はありがとうございました!」
「いえいえ。足治った?」
「はい、ほぼ復活してます!」
「なら良かった。…天馬に用があって来たんだけど…」
「瀬古なら今トイレに…あ」
ちょうど瀬古とはーぎーが戻ってきた。
「お、天馬!」
「あ、お疲れ様っす」
「ちょい相談あってさ、他の部員にも伝えてほしいんだけど…」

 陸上部関係の話かな?

 瀬古と高柳先輩が廊下で話し始めたので、はーぎーは教室に入ってきた。
「妹尾君、これ良かったらみんなで食べて」
ドア越しに生駒先輩がお菓子を差し出した。
「ありがとうございます」
受け取る瞬間、指先同士が触れ合ってドキッとしてしまったのは気のせいじゃない。


 昼休みが終わっても、触れた指先が熱く感じる。
「…。」

 ◇

 週末、生駒先輩が我が家へ遊びに来てくれた。
「お邪魔します」
「どうぞ」
 誰かを家に呼ぶのは久しぶりで、ましてや先輩という存在が家に来るのは初めてだ。

 生駒先輩が持ってきてくれた手土産のお菓子をリビングに置き、2階にある俺の部屋へ入った。
「わぁ、キイ君の部屋って感じがする!」
「ほんとですか?」
「あ、あのぬいぐるみおっきいね」
「あれは、誕生日プレゼントに友達が取ってくれて」
「そうなんだ。…今度ゲームセンターデートもしてみたいかも」
「良いですね!…俺、飲み物持ってきます。何がいいですか?温かいのは、ココアとはちみつレモン、冷たいのならりんごジュースかジンジャエールがありますけど」
「選びしろいっぱいだね。じゃあ…はちみつレモンお願いしようかな」
「わかりました。入れてくるので、寛いで待っててください」

 ✳︎

 部屋でまったりしながら、2人で今夜行く夜ご飯のお店を探していた。
「キイ君、気になってるお店とかある?」
「えー、どうだろう。いつもお店選びしてもらってる側なので」
「ふふっ、分かる。俺もそうだから。でも、キイ君と行く店はちゃんと選びたいんだよねぇ」
そう言ってスマホで検索する生駒先輩は、なんだか幸せそうで、思わずずっと気になっていることを口にしてしまった。
「あの…先輩って俺の事…好きなんですか?」
 スマホ画面から俺に視線を移した生駒先輩は、驚いている。
「え、何言ってるの。もちろん好きだよ?」
「本気で…好きってことですよね?」
「当たり前でしょ。好きじゃない相手にケーキ作らないし、告白しないし、キスだってしないよ。…もしかして、キイ君は俺の事好きじゃないの?」
「えっ。…あ、いえ、俺も好きです。ただ…」
「ただ?」
「勝手に高柳先輩のことが好きだったのかなって思ってたから…まだ半信半疑っていうか…」
「あぁ、確かに不安にさせちゃうよね。せせカップルと同じで、俺と高やんもみんなを楽しませる為のカップルごっこだよ。俺は高やんのことを恋愛として見たことは一度もないから」

 え…そうなの?

「…そうだったんですね」
「自分もそうだから、キイ君が天馬君と人前でイチャイチャするの気にしないようにしてたけど、もし俺が高やんとカップルみたいにしてるの嫌だったらやめるから言って」

 もしかして、俺はまた勘違いをしてた?

「いえ、そこはそのままで大丈夫です」
「ありがとう。…俺ね、入学した時からずっとキイ君のこと気になってたんだよ?」
「全然気付かなかったです…」
「だよね。学校内ではロミジュリカップルでいなきゃいけないから、好きの感情を表に出してなかったもん」

 高柳先輩と生駒先輩は両思いだと思ってた。高柳先輩にちゃんと好きを自覚させる為に、俺を当て馬ポジションにしたんだと信じていたけど…違ったみたいだ。

「ねぇ、今日いっぱいキスしていい?」
「…え」
「だって、俺のキイ君への気持ちが全然伝わってなかったってことだよね?こんなに好きなのに」
 甘い雰囲気を醸し出す生駒先輩は、ぐっと身体を近づけてきた。
「不安にさせるぐらいなら、もう我慢しなくていいよね?…人前でイチャつけない分、2人きりの時は俺に独占させてよ」
 見たことのない生駒先輩のSっ気を感じる表情に身体がゾクゾクし、そのまま重なった柔らかい唇から離れられなかった。

 どうしよう…俺、先輩のこと好きになりかけてる。