姫ポジの俺は、勘違いが止まらない!


 クリスマスの朝。いつものように生駒先輩からメッセージが送られてきていた。でもいつもと違うことがある。
『キイ君、おはよう』
 昨日生駒先輩から告白をされ、付き合う事になった。まさかの急展開にまだ頭は追いついていないけど、呼び方が変わっているから現実だ。
『おはようございます!今日も寒そうですね』

 今日から冬休みのため知られる心配はないけど、俺達が付き合った事は仲の良い友達にも秘密にする予定。だから校内で会った時や他の人と一緒にいる時は、今まで通りの接し方や呼び方をする。

 って言っても、高柳先輩の気を引く、または諦めさせるための付き合いだから、特にこれまでと何も変わらないよね。毎日連絡取ったり、たまに出掛けたりしてたし。

 ✳︎

 昼過ぎから予定の無い組でショッピングモールで過ごし、夕方に部活などの予定があった組とカラオケ店前で合流した。

 カラオケルームに入室すると、みんなサンタ帽やトナカイのツノを被り始める。
「キイちゃんはこれな」
はーぎーにクリスマスツリーハットを被せられた。
「似合ってる、可愛い」
トナカイを被った瀬古がスマホで写真を撮りながら言ってくる。
「ツリーが似合うって褒め言葉なの?」
「キイだから似合うんだってば。連れて帰って俺の部屋に置いときたい」
「…。」

 サンタのはーぎーとトナカイの瀬古に挟まれて座った。瀬古が3人並んだ写真を貝原含む4人のトークに送信すると、貝原から珍しく彼女とのツーショットが送られてきた。
「くそぉー、リア充めー!どうせ夜までイチャイチャちゅっちゅっすんだろ」
「あはは、貝原が惚気んの珍しいな」
「ラブラブそうで良ったね。やっぱり貝原も彼女さんの隣だといつもと表情違うよね」
「確かにな。対抗して俺とキイのラブラブツーショット送りつけとくか」
 瀬古はスマホのインカメラを向け、顔を密着してくる。
「…よし、送信っと。…じゃ、キイのためにラブソング歌おーっと」
「せせカップルが今日も愛を伝え合ってまーす!」
 周りが茶化す中、俺の手を握った瀬古はもう片方の手でマイクを持ち、冬のラブソングを歌い始めた。瀬古の歌声を聞くのは初めてじゃないのに、さっきから鼓動が忙しない。

 ドクドクドク…

 本当は俺のために歌ったラブソングじゃなくても、今はそれでも構わない。

 ✳︎

 盛り上がっている最中、生駒先輩から写真付きでメッセージが送られてきた。写真には高柳先輩をはじめ、D組の先輩達が大勢写っている。
『みんなで焼肉中〜!クリスマス感ないけどね。キイ君達は、楽しんでる?』

 ふふ、楽しそう。俺も写真送ろうかな。

 はーぎー達の写真を添えて返信を送った。
『焼肉羨ましいです。こっちは、サンタとトナカイが熱唱中です!』
別の場所にいても、お互いのことをリアルタイムで共有するなんて、本当のカップルみたいだ。

「キイ…」
 大音量の空間だから仕方ないけど、いつも以上に顔を近づけ、俺の耳に向かって瀬古が小声で伝える。
「そろそろ抜け出すか」
「…うん」

 幹事のはーぎーに先にお金を渡しているため、トイレに行くと言い順番に部屋を出た俺達は、そのまま店の外へ出た。
「さみぃー」
「息が白くなりそうだね」
「だな。…んじゃ、クリスマスデート行きますか」
 笑顔の瀬古に手を引かれ、人混みの中を進んでいく。

 ドキドキ…ー

 今日ぐらい瀬古が俺を好きだって勘違いしてもいいよね?


 多くのカップルで賑わうイルミネーションスポットに到着した俺と瀬古。
「わぁ…綺麗」
「すげぇな。…キイ、あっちで写真撮ろうぜ」
「うん!」

 イルミネーションをバックに俺の単体ショットを撮った瀬古は、人目も気にせず密着してきて、インカメラでツーショットを撮りまくる。
「あ、この角度いいかも」
「ねぇ、撮り過ぎじゃない?」
「そうか?…だって、キイとの思い出たくさん残しておきたいじゃん」
「…貝原に対抗するためなんじゃないの?」
「何でそんな意地悪言うんだよ。つーか、ぜってぇ俺達の方がラブラブじゃね?」
「貝原は1年以上付き合ってるんだよ?ラブラブっていうか、お互いのこと知ってるのは向こうだと思う」
「俺だってキイのこと知ってっけどなぁ」
「…。」

 ねぇ、瀬古。俺に仮の恋人が出来たの気付いてる?

 ◇

 年末の予定が合わず、新年4日目の今日は久しぶりに生駒先輩と会う。
「キイくーーん」
 生駒先輩が大きく両手で手を振って呼ぶから、俺も両手で大きく振り返した。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう。今年もよろしくね」

 神社でお詣りをして、2人でおみくじを引いた。
「もう受験は終わったけど、大学生になるし良い運勢だといいなぁ……あ!大吉だ!やったぁ」
純粋に喜ぶ生駒先輩は、すごく可愛い。
「あ、俺は吉でした。学問は……まあまあかぁ」
「恋愛はどうだった?」
「えっと…誠意にこたえよって書いてます」
「なんか真面目っぽくていいね。俺は、今の人が最上迷うなって書いてた」
そう言った生駒先輩は可愛く笑顔を見せ、ピースをした。

 え、かわいい。

 ✳︎

 神社近くのカフェでゆっくりして、暗くなる前に解散することになった。
「今日はありがとう」
「こちらこそありがとうございました。楽しかったです」
「…キイ君…」
向かい合う生駒先輩が一歩前に出た。

 ちゅっ…

 え……

「…じゃあ、また学校でね。バイバイ」
「…あ、はい。…さようなら」

 帰って行く生駒先輩の後ろ姿を見届ける俺は、突然の出来事にその場に立ち尽くしている。

 え、さっき…唇にキスされた?…高柳先輩に見せつけるわけタイミングじゃないのに、何で!?どーゆーこと!?……この交際ってキスありなんですかー!?!?

 ◇

 数日後、3学期が始まった。始業式の最中、校長先生が全校生徒が体育館に集まるのも今日が最後だと言い、卒業へのカウントダウンが始まっていることを実感した。

 瀬古は今、どんな気持ちなんだろう。

 式の後、体育館から3年生が出て行くのをぼんやり見ていたら、高柳先輩と生駒先輩の姿が視界に入った。
「…。」
 キスされた日からずっと頭の中で、生駒先輩のことがぐるぐるしている。

 キスされただけで意識しまくるとか、相変わらず俺単純過ぎない!?俺が好きなのは瀬古なのに…いや、付き合ってるのは一応生駒先輩だけど。

「キイ、ボーッとしてどした?」
「…えっ、あ、ううん大丈夫」

 ◇

 翌日、全校生徒参加のマラソン大会が開催されていた。学校近くの大きな公園を使用し、寒空の下行われる伝統行事。
「うー寒ぃー。早く走ってあったまりてぇ」
「ゴールに豚汁あるらしい」
「まじで!?」
「キイ、しんどくなったら言えよ?おぶってやるから」
「それはルール違反だから。俺は大丈夫だから、気にせず先に走ってね。陸上部の本領発揮見せてよ」
「分かった、任せとけ」
 タイム上位者には景品があるらしいけど、俺の目標は無事に完走すること。

 全学年一斉にスタートし、運動部の人達が軽快に前方へ躍り出る。

 おぉ、みんな速い。ま、俺は俺のペースで走ろう。

 ✳︎

 残り1キロあるかないかの位置を走っていると、周りで2年生が数人ふざけ合っていた。
「今年は完走するべー」
「去年はリタイアしたもんなぁ」
「うっせー。お前だってほぼ歩いてじゃねーか!」
話に夢中なっているようで、1人が俺に気付かずぶつかってきた。
「うわぁっ…!」
勢いよく地面に転がってしまい、ぶつかった2年生達も焦りながら駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
「ほんとごめん!!」
「いえ、大丈夫です。……い゛っ…」
立ち上がろうとした瞬間、左足首に痛みが走った。

 どうしよう、挫いたかも…。

「どうかしたかー?」
 困っているところに現れたのは高柳先輩だった。
「あ、えっと俺らがふざけてたらぶつかっちゃって…なんか足怪我したみたいです」
「妹尾君、ちょい足触るな?」
 しゃがんだ高柳先輩は足の状態を軽く確認した。
「少し捻挫みたいになってるかもな。…あとは俺が対応するからもう行っていいぞ。ふざけず真面目に走れよ」
「うっす。…失礼しまーす」
2年生達はそそくさとゴールへ向かって行った。
「診てもらった方がいいと思うから、救護室連れて行くな。でもゴールしないと豚汁も記録ももらえねーから……よっと」
「…っ!?」
 高柳先輩は俺をおんぶした。
「じゃ、ゴール目指してしゅっぱーつ!」

 ええええ!?この姿見られたら、色んな意味でまずくない!?