12月になり、刻々と3年生の卒業が近づいていることを考え始めた。瀬古が高柳先輩に想いを伝える日が迫っていることを含んでいるから余計にかもしれない。
「24、25の予定は!?」
昼休みに食堂でご飯を食べていると、はーぎーが俺達に聞いてきた。
「24は式の後、部活。25は午前中部活で、午後は彼女とデート」
貝原が淡々と答える。
「クリスマスに彼女とデートとか…俺も混ぜてくれよ!」
「嫌に決まってんでしょ。てか、萩原クリスマスはバイトじゃないの?」
「店長が気を遣ってくれたのか、24も25も休みなんだよ、これが」
「へぇ。優しい店長さんだね」
「天馬は!?部活!?」
「うん、部活。けど、25の午後は今んとこ空いてる」
「まじか!!え、キイちゃんは予定どう!?」
「俺は24は予定入ってて、25なら大丈夫だよ」
「おぉー!じゃあ、クリスマスの午後集まろうや!!つうか、他にも空いてる奴誘って遊ぼうぜ!」
「待て待て。俺とキイがクリスマスデートするとか思わねぇのか?」
「いやいや、クリスマスにキイちゃん独占は認めねーから!」
「はぁ?…キイはどっちがいい?みんなで遊ぶのと俺と2人でデートすんの」
「え…」
そりゃあ、2人でクリスマスを過ごせたらめちゃくちゃ嬉しいけど……
「俺は…せっかくはーぎーが誘ってくれたから、みんなで遊べたらいいなって思うかな」
「さっすがキイちゃん!」
「もぉー、キイ優しすぎ」
返却口にトレーを運んでいる時、はーぎーと貝原の後ろで瀬古にこっそり耳打ちされた。
「25、ぜってぇ2人で抜け出すから」
「…。」
◇
翌週、数日間の期末テストが無事に終わり、C組の教室は解放感で溢れていた。
今日は瀬古と貝原の部活が休みだから4人でお昼ご飯を食べに行く。
「あー、腹減ったぁー!」
「早く飯食いに行こうぜ」
「だね。ファミレス?ラーメン?ハンバーガー?」
「ファミレスに1票」
「俺も」
「ファミレス賛成!」
「んじゃ、ファミレスで」
✳︎
ファミレスに着き、4人でメニューを選んでいたら「あれ?」と聞き覚えのある声がした。
4人で顔を上げると、高柳先輩、生駒先輩、中塚先輩、そしてもう1人バンドメンバーだった先輩がいた。
「わっ、お疲れ様です」
「偶然だな。みんなお疲れー!」
つい隣に座る瀬古の表情をチェックしてしまう。偶然好きな人に会えたら誰だって嬉しいんだからわざわざ見なくても分かるのに。
先輩達は会話がギリギリ聞こえない距離のテーブルに座った。もちろん生駒先輩と高柳先輩は隣同士に座る。
…!
スマホに通知が来て、見てみると生駒先輩からだった。生駒先輩とメッセージのやりとりは今も続いている。
『会えるなんてびっくりしたね』
喜びを表した可愛いスタンプも添えられていた。
俺の席からは生駒先輩の後ろ姿しか見えないけど、なんとなく今どんな表情をしているのか想像ができた。
「キイ、ドリンクバー行こ」
「あ、うん」
✳︎
しばらくして、ドリンクバーコーナーに2度目のおかわりへ行ったタイミングで、生駒先輩がやって来た。
「何飲むの?」
「ココアにしようかなって」
「寒いし、食後に甘いの合うよね。俺もココアにしようかな」
「お先どうぞ」
「ありがとう。…俺達、あと30分ぐらいで解散するんだけど、妹尾君達はまだ帰らない?」
「どうだろう…今のところ帰る気配は無さそうです」
「そっか。せっかくなら一緒に…」
「生駒」
グラスを持った高柳先輩が現れた。
「2人でコソコソ何話してんの?」
「別にコソコソしてないよ。ココア美味しいよねって話してただけ」
「たしかにココア美味いよな!」
勝手な想像だけど、俺と生駒先輩が一緒にいることに高柳先輩はそわそわしたんだと思う。どうやら俺の当て馬役は順調なようだ。
先輩達は帰る際、俺達のテーブルに声を掛けに来てくれた。
「んじゃ、またなー!」
「お疲れー」
「お疲れ様でした」
高柳先輩が完全に出て行ったのが分かると、瀬古はテーブルの下で俺の手を握った。弄ばれていると分かっていても、振り払うことが出来ないのが惚れた弱み。
◇
瀬古と高柳先輩に大きな進展がないまま終業式を迎えた。
ホームルーム後、部活に行く瀬古、貝原と1階で別れた俺は、校門ではーぎーともすぐに解散した。そして向かったのは駅ではなく、バス停。
「お疲れ様ー」
バス停付近で待つ俺の元へマフラーを巻いた生駒先輩が手を振り近付いてくる。赤のチェックマフラーがこんなに似合う男子高校生がいるだろうか。
「お疲れ様です」
「今日一段と寒いね。妹尾君、マフラーしてないけど、大丈夫?寒くない?」
「なんとか」
「風邪ひかないでね。あ、バス来た」
俺と生駒先輩はバスに乗り込んだ。
クリスマスイブの今日、俺は生駒先輩の家へ遊びに行く事になっている。もちろん、誘われた時から一緒にバスに乗った今この瞬間まで、ずっと夢じゃないかと思っているのが本音。クリスマスイブに2人で過ごすこと、生駒先輩の家にお邪魔すること、その相手が高柳先輩じゃなくて俺なこと。毎日連絡を取っていてもすんなり受け止められる内容ではない。
生駒先輩の自宅はマンションだった。
「夜まで親帰って来ないから、緊張しないでね。…どうぞ」
「…お邪魔します」
洗面所で手を洗って、生駒先輩の部屋へ移動した。白とブラウンを基調とした室内は、ふんわり良い香りがする。
「鞄好きなところに置いてね。食べるのリビングでいい?」
「はい」
生駒先輩の用意してくれた冷凍ピザをリビングのテーブルで2人で食べ始めた。
「いただきまーす」
「いただきます」
「…うん、冷凍でも充分美味しい」
「ですね」
「ケーキは後で部屋で食べようね」
「ありがとうございます」
生駒先輩が昨日ケーキを手作りしてくれたらしい。お菓子作りが得意だなんて、姫ポジの鏡だ。
「妹尾君も明日はクラスの子達と集まるんだよね?」
「はい、そうです。男子だけでクリスマス楽しみます」
「そうなるよね。うちのクラスなんか最後だからって、夜ほぼ全員集合するんだよ?」
「えー、すごいですね」
「受験真っ只中の人もいるけど、たまには息抜きしないとだしね」
✳︎
先に部屋で待っていると、カットした手作りケーキをお皿に乗せて持って来てくれた。買ってきたと言われても信じてしまうほどのクオリティに驚いてしまう。
「わぁ!すごい!!美味しそう!!」
「ありがとう。飲み物ミルクティーでよかった?」
「はい、ありがとうございます」
「久しぶりに作ったから味の保証はないけど、召し上がれ」
「いただきます!……めっちゃ美味しいです!」
「良かったぁ。俺も食べよっと」
ケーキを食べながら、家庭科でスイーツを作った日の先生の言葉を思い出した。
得意だとしても、めちゃくちゃ頑張って作ってくれたんだよね。
「…忙しい中作ってくれて、本当にありがとうございます!」
「こちらこそ食べてくれてありがとう」
あまりに美味しくて2個目を食べている俺に生駒先輩が聞いてきた。
「妹尾君って、天馬君と付き合ってるの?」
「……えっ!?…いえ、付き合ってないです」
「そうなんだ。じゃあ、他に付き合ってる子もいないの?」
「はい、いません」
毎日連絡を取り合ってても一度も恋愛話になったことが無かったから、突然の話題に緊張してしまう。
これは…高柳先輩への気持ちを相談される流れかも?
「じゃあ、俺と付き合ってほしい」
「……え?」
予想もしていなかった一言に思考停止する。
今、付き合ってほしいって言われた?え、これは告白?
「付き合うって…恋愛の話ですよね?」
「うん。妹尾君のことが好きだから、恋人になりたいってこと」
あれ、生駒先輩って高柳先輩が好きだよね?だから俺を当て馬にしてるわけだし。…あっ、3年近くそばに居ても何の進展もしない鈍感な相手には、一旦誰かのものにならなきゃ気付かせることが難しいってことですか!?好きでもない俺と付き合おうとするぐらい、高柳先輩に本気なんですね生駒先輩。
ロミジュリカップルに上手くいかれると瀬古を応援する身としては困るけど…日頃から優しくしてくれている生駒先輩のために当て馬を全うしたい気持ちもある。もしかしたら俺達が付き合うことで、高柳先輩が諦めるルートもあるし……
「…こんな自分でよければ、よろしくお願いします」
「ほんと?…嬉しい!これからよろしくね」
まさかの姫ポジカップル誕生しちゃったんだけど!!
嬉しそうな生駒先輩を見て、クラスメイトの言葉が頭をよぎった。
ー…大変な手作りスイーツをくれるってことは、それだけ渡す相手である俺のことを想ってるってことだよな!?



