青色が食欲減退色なのは、神様がそう造ったから。


「空の青色と海の青色の原理が違うのは、
 僕がそういう風に世界を造ったからだ」
 夏、だというのに。
 ホットのブルーマウンテンを啜り。
 彼はそう言った。

「僕らは青色を食べる情報生命体で。
 地球は青色の養殖場なんだ。
 僕らの世界で情報絶滅してしまった。
 青色発光ダイオード、青色の薔薇、」
「ちょぇちょっ、ちょっと待って、」

 晴天に霹靂の告白を。
 私が遮ると、彼は、黙った。
 喫茶店『アナ・ガルーバヤ』の店内に、
 ブルース(昭和歌謡)が小さく流れる。
 ブルーハワイのカキ氷の下の方から。
 トンネルを掘るように食べてた手を止め、

「青色を食べる?」
「そうだ」
「青果とか?」
「それは、基本緑黄色野菜」
「青魚?」
「それは、銀色」
「青島ビール」
「黄色、もしくは琥珀色」

「目に青葉山ほととぎす初鰹」
「鰹は赤身魚だ」
「アオリイカ」
「白だよ。採れたては透明だし。
 生きてるうちは、色々な色に、」
「じゃあ、タコ」
「た、タコ? タコも色々な色になるけど。
 でも、タコは赤でしょ。イメージ的に」
「いやいや、タコは青色なんだって」
「どうして?」
「ターコイズブルー」
「なるほど」
 と彼は感心した。

「どう? 目から鱗?」
「いや、晴天の辟易。君はいつだって……。
 僕の話を真面目に聞く気が、」
 青汁を飲んだように顔を顰める。
 そうして青息吐息。
 ため息を一つ。ついて。

「別れよう。僕達」
「えっ、青色を食べる情報生命体って、
 どういうこと?
 えっ、この世界を造ったって、
 どういうこと?
 えっ、えっ、神様? 宇宙人?」
「おまあ、会話がめちゃくちゃだっ。
 話の筋を立てろっ。この下等生物がっ」
「そんな、青筋を立てなくても」
 怒り怒髪天。青天井に怒る彼。

「ええそうね。いつもそう。
 私が悪いの。私のせい。
 ああ、このせいって青のせいじゃなくて。
 そういえば責任の責って青に似てない?
 そうね。責任は全て私にあるんでしょ。
 全部全文私のsayで」
 と、私は被害者ぶる。

「はあ。頼む。頼むよ。
 頼むから僕の話を聞いてくれ」
「請うってわけだ」
「請い願います」
「分かった。じゃあ、静かにしとく」
「頼むよ。本当に」
 情けない顔をしていた彼は。
 精神統一をして、青眼の構えのよう。
 私に向き直り。コーヒーを呷り。

「空の青色と海の青色の原理が違うのは、
 僕がそういう風に世界を造ったからだ。
 僕らは青色を食べる情報生命体で。
 地球は青色の養殖場なんだ。
 僕らの世界で情報絶滅してしまった。
 青色発光ダイオード、青色の薔薇とか。
 失ってしまった青色を復活させるため。
 君たち人類を造り出したんだ。
 僕達の姿に似せてね。
 そう言った意味では、神様に近いのかも。
 あっ、でも違うところもあって。
 例えば人間だと青色は食欲減退色だろ。
 あれは人間が青色を食べてしまわないよう。
 いわばセーフティーネットみたいなもので。
 というかそもそも青色とは何か?
 青色ですって青色申告するとかじゃなく。
 正直さっき青果とか青魚は青じゃない。
 桃李言葉に冠が来て買い言葉で言ったけど。
 あれも実は青色で。
 そもそも僕らは情報生命体なわけで。
 そこに青色というラベリングがしてれば。
 そのデータは青色ということになって。
 だから例えば青春という言葉があって。
 そういった行動からも栄養は摂取できて。
 もちろんプラスの感情だけじゃなくて。
 って、聞いてる? ねえっ!」

「……寝えって、言ってた?」
「言ってないよ。言ってない。
 ちょっと意識がどっか行ってなかった?」
「……恩讐の彼方に」
「そりゃ……、青の洞門だ」

「だって。話が長いんだもん。
 なになになんだっけ結局?
 青い鳥は家に居たから。
 長い長い旅路は全て無駄でしたっ。
 て話?」
「人の告白を無駄話扱い。
 君は本当に可愛くないなあ」
「可愛いけど? 青文字系だからかな?」

「つまりは、別れようって話だよ」
「やだ」
「僕達。もう。終わりにしよう」
「やだやだやだ」
「やだも青田も、もう買えないよ」
「じゃあ。死ぬ」
「えっ?」

「死ぬから青酸カリ買ってきて」
「む、無理だって」
「じゃあ、青木ヶ原樹海連れてって」
「いやダメだって」
「青、青、青雲は死んだ後だし、」
「そんな無理して死ななくても、」
「あっ、ジャガイモの青い芽っ!」
「緑だって、」
「でも、青いソラニン」

 しゃく、とカキ氷の崩れる音。

「……どう? 美味しかった?」
「……うん」

「君が別れようって言ったら。
 私がどんなにブルーな気持ちになるか」
「ごちそうさまでした」

「ねえ」
「何?」

「本当に、歳。取らないんだね」
「ああ、これでも。神様だからね」

「じゃあ、いつまで経っても青二才。
 尻の青いガキのまんまなんだ」
「神をガキ扱いするのは、君くらいだよ」

「でも。良かった」
「どうして?」
「だって、私より先に、死なないんでしょ」



 私は彼に、マリッジブルーを食べさせた。



 私は彼に、マタニティブルーを味わわせた。



 そして。
 そして、そうして。



 青菜に塩。すっかり萎れた。
 私の青い手を、まだ青年の彼が握る。
「紺青の別れって……、やつだねえ」



 青は、きっと。愛より出でる。