一つだけ、どうしてもわからないことがあった。
「なんで、ヘビメタなわけ?」
どう考えても彼には釣り合わないあの音楽のことだ。耳が聞こえないというのに、どうしてわざわざあんなものを選んで流しているのか。
「事故の後しばらくして、父に頼んだんだ。できるだけ激しい音楽をピックアップしてくれと」
掛け布団をかけてはいるが、一糸纏わぬ姿ではさすがに肌寒さを覚え、リモコンで暖房をいれた。二人で肌を重ねている間は寒さも忘れていた。
「激しい音楽? なんでまた」
「視界の外では、どんなに大声で人に話しかけられても、私は気がつけない。そういうとき、『この曲を聞いていたから、気づかなかった』と説明して、相手が納得するような音楽が必要だと思ったんだ」
耳のことを隠そうとしていた俺の前ならともかく、秀は電車の中でもヘビメタを聞いていた。
「秀は、常に耳のことを人に知られないようにしてるのか?」
まさか、と秀はおどけるように肩の位置を高めた。
「大学などでは、必要に応じて打ち明けるときもある。簡単な手話も覚えた。だが、特急列車では車掌が切符のチェックに来るだろう? 耳のことで車掌の手を煩わせたくないし、何より、そういう際にいちいち説明するのは面倒なんだ」
ははあ、と俺は何度か頷いた。だからヘビメタね。
「じゃあ、秀はヘビメタがどんな音楽か、知らないわけだ」
「まあ、そういうことになる」と秀は頭を掻く。「とても激しく、熱い音楽だと聞いている」
「そうでもないよ」
俺はいけしゃあしゃあと嘘をついた。
「クラシックにそっくり」
そうなのか? と秀は目を丸くする。
「知らなかった」
しばらくこの嘘は、ついたままにしておこう。
秀が俺に嘘をついたことへの、心ばかりの仕返しとして。
「なんで、ヘビメタなわけ?」
どう考えても彼には釣り合わないあの音楽のことだ。耳が聞こえないというのに、どうしてわざわざあんなものを選んで流しているのか。
「事故の後しばらくして、父に頼んだんだ。できるだけ激しい音楽をピックアップしてくれと」
掛け布団をかけてはいるが、一糸纏わぬ姿ではさすがに肌寒さを覚え、リモコンで暖房をいれた。二人で肌を重ねている間は寒さも忘れていた。
「激しい音楽? なんでまた」
「視界の外では、どんなに大声で人に話しかけられても、私は気がつけない。そういうとき、『この曲を聞いていたから、気づかなかった』と説明して、相手が納得するような音楽が必要だと思ったんだ」
耳のことを隠そうとしていた俺の前ならともかく、秀は電車の中でもヘビメタを聞いていた。
「秀は、常に耳のことを人に知られないようにしてるのか?」
まさか、と秀はおどけるように肩の位置を高めた。
「大学などでは、必要に応じて打ち明けるときもある。簡単な手話も覚えた。だが、特急列車では車掌が切符のチェックに来るだろう? 耳のことで車掌の手を煩わせたくないし、何より、そういう際にいちいち説明するのは面倒なんだ」
ははあ、と俺は何度か頷いた。だからヘビメタね。
「じゃあ、秀はヘビメタがどんな音楽か、知らないわけだ」
「まあ、そういうことになる」と秀は頭を掻く。「とても激しく、熱い音楽だと聞いている」
「そうでもないよ」
俺はいけしゃあしゃあと嘘をついた。
「クラシックにそっくり」
そうなのか? と秀は目を丸くする。
「知らなかった」
しばらくこの嘘は、ついたままにしておこう。
秀が俺に嘘をついたことへの、心ばかりの仕返しとして。

