10個目の願い事は君

「って、終わると思ったか?」

 え?

 寺尾の言葉の意味を図りかねて。

「キスだけで満足できると思う?」

 そう言って微笑んではいるのだけど。
 え……と……。その意味は、満足できないってことで。

 や。も、もしかして……つまりは……キスのその先の、セ…………ってこと、か?

「……今、ここ、で?」
「場所を変えてまでのことじゃないだろ。誰も見てないんだし」

 えぇ……見てないっていうか、ここ、ふ、布団とか。当然、ない、し。いや、布団ってか、そんな段階のことを言ってるんじゃなくて、いや、その、セ……って、俺。

「あの、俺、そこまで深く考えたことなくて、だから、その」

 告白後はどんどんお付き合いの深度が進むのかというと、よくわからなくて、つまり、俺が上とか下とか、だって、まだ一週間しかたってなくて。

 寺尾は経験があるってことなのだろうか。この当然感というか、何ビビってんのお前、みたいな目で俺を見てるけど。寺尾に経験があってもなくても俺がどうこう言うことではないけど。

「霧島、こっち来て」

 寺尾は壁にもたれるようにして床に座った。

 嘘だろ、本当に? 俺、寺尾とセ……すんの? ここで? 今?

 ……いや、下でもいいんだ、ってか、俺は下かもしれない。抵抗はないかもしれない。寺尾に、抱かれる、ってことは、いや、それを無意識に多分思ってた。きっと。

「霧島」
「え、あ、うん……」

 嫌ってわけじゃない。でも今とは思ってなかったけど、いつだとか具体的なことは何一つ考えたこともなかったけど。

 好きってことだけが俺の中にあって、それは揺るぎなくて、でも突き詰めればそういうことも含まれる好きなのは違いなくて。きっといつかはそうなりたいとなるのだろうと思ってた、だろうし。

 だったら、行くしかない。拒んで寺尾に嫌われたくないし。
 いや、でも。そういう嫌われたくないなんていう理由でセ……ってしていいものなのか? 俺の積極的な気持ちはそこになくてもいいのか……?

「寺尾、やっぱ俺今日はムリ、だと思う」

 そう答えるしかない。流されてっていうのは嫌だ。やっぱり心底寺尾と結ばれたいと思った時がいい。

「今日は無理って、今日じゃないとあんま意味ないだろ」

 少し怒った? 誘って断られるのは気分良くないよな。バレンタインデーの特別な日だから、って思うよな。だから俺は言葉を尽くしてちゃんと気持ちを伝えなければならない。

「寺尾の気持ちは嬉しい」

 うん、嬉しいのだ。そう思ってくれることは。もと……求められることは嬉しい。

「でも俺にも心の準備みたいなもんが」
「……もしかして苦手なのか? アレルギーとか?」

 ア、アレル……? そういうこともあるのか?

「いや、俺……したことないから、わかんないけど……」

 未経験だと声が尻すぼみになりながら告白すると、少しの間があって。

「……お前、何の話してる?」

 寺尾が吹き出した。

 え?

「お前甘いもの苦手なの?」

 甘いもの?

「いや……別に」
「じゃあ食おう。霧島、こっち来て」

 へ……?

「お前のくれたチョコ、一緒に食べようって言ってんの」

 あ。

 チョコ、を食べる……。

「なーにエロい想像してんだよ」

 寺尾はニヤリと笑って。

 わああああああ。やっちまった。俺最低。カッコわりぃ。うわああ。大勘違いだ。恥ずかしさのあまり血の気が引いて、でも顔は熱を持っていて。

「…………」

 言葉も出ない。しかも勘違いバレバレで、速攻寺尾の前から消えたい。セ……のことしか考えてないヤリチンだとか思われたかもしれない。や、ホント最低だ。

「いや、ごめん、意地悪するつもりはなかったんだけど俺の言い方が悪かった。せっかくのバレンタインだから一緒に食えたら嬉しいなって思っただけだったんだよ」

 寺尾は丁寧にゆっくりとピンクの包装紙を開ける。

「俺は、こんな埃っぽい場所で、硬い床なんかで、お前を抱いたりしない。お前の気持ちを大事にしたいから、一方的に奪うようなことはしない」

 寺尾は顔を上げて、とてもとても優しく微笑んで。

 胸の奥がきゅっと痛くなる。カッコいいよな、寺尾。本当に無理は言わない優しい奴なんだよ。その上何でもこなしてしまう。さっきはまあちょっと強引だったけど……。

「うん……。チョコ、俺も一緒に食べたい」

 誰も見てないから思いっきり近寄っていいよな。

 俺は寺尾の隣に身を寄せるように腰を下ろした。