……────10年後。
「おぎゃあ、おぎゃあ、……」
分娩室に響く力強い産声。
予定日よりも5日遅れて誕生した命。
痛かったし、血もたくさん出たみたいだし、少し寒気もするけれど、じわりと目尻からあふれる涙がとてもあたたかくて心地よかった。
「おめでとうございます、元気な男の子ですよー」
くしゃくしゃの顔でしわしわのからだで、手も足も胴も頭もすべてが小さくて、それでもずっしり重みがあって。
そして何よりも、愛おしく思えた。
「がんばりましたね、蒼羽さん」
3年前にもらった新姓もすっかり耳に馴染んで、立ち会いにギリギリ間に合った夫も涙目でぎゅっと手を握ってくれた。
「よくやったヨリ子、ありがとう、本当にありがとう。今日という日は一生忘れられない特別な日だ……」
「ええ、本当にそうね。この子に無事、誕生日を与えられてよかったわ」
「ああ……そうだな、今日が誕生日なんだな。毎年盛大にお祝いしよう」
「うん」
これから毎年、我が子とわたしたち親が誕生した、最高の誕生日にしよう。
ふと、10年前の秋の記憶がかすかによぎる。
『篠原。誕生日はお前だけのものだと思うか?』
命がけでがんばった日。
親になった日。
我が子にはじめて触れた日。
たくさんの祝福をもらった日。
誕生日の主役は、きっとわたしたちみんな。
うまれてきてくれてありがとう。
今日がきみの誕生日よ。

